映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「おかえり、ブルゴーニュへ」

「おかえり、ブルゴーニュへ」
ヒューマントラストシネマ有楽町にて。2018年12月12日(水)午後6時45分より鑑賞(スクリーン2/C-5)。

~ワインと人生を重ね合わせた味わいある家族ドラマ

ワインは嫌いではない。だが、ワイン通というわけでは全然ない。味にしたって、酸っぱいとか、飲み口が軽いとか、その程度のことしか理解できないオレなのだった。

そんなオレでも、ワインが奥深く、素晴らしい世界であることが実感できた映画が、「おかえり、ブルゴーニュへ」(CE QUI NOUS LIE/BACK TO BURGUNDY)(2017年 フランス)だ。タイトル通り、ワインの産地として名高いフランスのブルゴーニュ地方を舞台にした家族のドラマである。

ブルゴーニュにあるドメーヌ(ワイン生産者)の長男ジャン(ピオ・マルマイ)が帰ってくる。彼は10年前に、このまま家業を継ぐことを嫌い、世界を旅するために故郷を飛び出したのだ。その間、家族とは音信不通だったが、父の病状が思わしくないと知って10年ぶりに帰郷したのである。

ジャンは、家業を継ぐ妹のジュリエット(アナ・ジラルド)と、別のドメーヌの婿養子となった弟のジェレミー(フランソワ・シビル)と再会する。だが、まもなく父が死んでしまう。このままでは相続税が払えない3人は、残されたブドウ畑や自宅の相続をめぐってあれこれと思い悩む。

ジュリエットとジェレミーは、突然姿を消したジャンに対して複雑な思いを抱えている。ジェレミーに至っては、再会早々にジャンと正面衝突してしまう。

おまけに3人ともそれぞれに悩みを抱えている。長男のジャンは家を出てからある女性と結婚し、子供が生まれ、オーストラリアでワインを造っていた。だが、その女性との関係がギクシャクして、破局寸前だった。

父についてワイン造りを続けていた長女のジュリエットは、醸造家としての自分に自信が持てずにいた。

そして、次男のジェレミーは、何かと干渉してくる義父や義母との関係に頭を悩ませていた。

ドラマのスタート当初、彼らの顔は一様に暗い。それが様々な出来事を通して変化していくところが、このドラマの肝である。

とはいえ、それほど大した出来事は起きない。では、何が3人の変化を促すのか。それはワイン造りである。苦悩を抱え、そこに相続という難問まで浮上する中でも、ワイン造りは止められない。葡萄の収穫時期を迎え、兄、妹、弟は協力し合うことにする。

「猫が行方不明」「スパニッシュ・アパートメント」などで知られるセドリック・クラピッシュ監督が、ブドウ畑をはじめとするブルゴーニュの四季の移ろいをていねいに追いかけた映像が、この映画の最大の魅力だ。それを背景に、多くの人々がワイン造りに携わる姿を追う。その描写には、まるでドキュメンタリー映画のような雰囲気が感じられる。

ワイン造りを続けながら、ジャンは妻との関係に苦悩する。同時に確執を抱えていた父との関係について、あらためて考え直す。ジュリエットは、ワイン造りの様々な局面で決断を迫られ、迷いながらも前に進む。ジェレミーも、義父や義母との関係をどうにかしたいともがく。そうした3人の悲喜こもごもを描き出す。

そこでは、現在のジャンと少年時代のジャンが同じシーンに登場したり、死んだ父がジャンの前に現れるといったファンタジックなシーンも飛び出す。ジャンが自らの心情をセリフや独白で饒舌に語ってしまうのはやや興ざめだが、それでも彼らの心の変化は自然に受け止めることができた。

ジャンの妻子がやってきたあたりから、ドラマは大きく動き出す。そして最後は、3人の成長をきっちりと見せる。それぞれの抱えた問題に決着をつけ、さらに相続問題にも結論を出す。

この映画から伝わってくるのは、ワイン造りは人生そのものだということである。ワインは繊細なものであり、ちょっとした違いでそれぞれに個性が生まれる。それはまさにジャン、ジュリエットとジェレミーをはじめ、この映画に登場する人々の姿である。個性があるからこそぶつかり合い、個性があるからこそ理解し合う。そして、そんな人間関係も、人生も、ワインと同じように時間とともに熟成していく……。

人生の喜怒哀楽をワイン造りと結びつけたのがこの映画の見事なところ。派手さはないが、ワインのようになかなか味わい深い家族ドラマである。

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◆「おかえり、ブルゴーニュへ」(CE QUI NOUS LIE/BACK TO BURGUNDY)
(2017年 フランス)(上映時間1時間53分)
監督:セドリック・クラピッシュ
出演:ピオ・マルマイ、アナ・ジラルド、フランソワ・シヴィル、ジャン=マルク・ルロ、マリア・バルベルデ、ヤメ・クチュール、カリジャ・トゥーレ、フロランス・ペルネル、エリック・カラヴァカ、ジャン=マリー・ヴァンラン、テウフィク・ジャラ
*ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中。全国順次公開予定
ホームページ http://burgundy-movie.jp/