映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「メアリーの総て」

「メアリーの総て」
シネマカリテにて。2018年12月25日(火)午後1時30分より鑑賞(スクリーン2/A-5)。

~『フランケンシュタイン』の著書の人生を通して描く女性の自立への闘い

ホラー映画などでおなじみのフランケンシュタインの怪物。そのもとになったのが、19世紀に書かれたゴシック小説の古典『フランケンシュタイン』(原題は『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』:Frankenstein: or The Modern Prometheus)だ。

その作者が女性だというのは何となく知っていたのだが、どんな人物かはまったく知らなかった。そんな中、作者である19世紀の女流作家メアリー・シェリーの人生を描いた映画が公開された。「メアリーの総て」(MARY SHELLEY)(2017年 イギリス・ルクセンブルクアメリカ)である。

舞台は19世紀のイギリス・ロンドン。思想家で小説家(書店も経営している)のウィリアム・ゴドウィン(スティーヴン・ディレイン)を父に持ち、小説家を夢見るメアリー(エル・ファニング)が主人公だ。彼女は怪奇小説が好きで、墓場によく足を運ぶ。なぜかというと、そこに思想家だった母が葬られているからだ。母はメアリーを生んですぐに死んでしまった。そのことが、彼女の心に大きな影を落としていた。

おまけに、その後に父と結婚した継母とメアリーは折り合いが悪い。そのため、ある時、見かねた父によって彼女は、スコットランドの父の友人の家に預けられてしまう。メアリーは屋敷で開かれた読書会で、「異端の天才詩人」と噂されるパーシー・シェリー(ダグラス・ブース)と出会う。

このパーシーという男、見るからに女にモテそうなルックスなのだ。おまけに、若者らしく自由でラジカルな言動を繰り返す。そりゃあ、メアリーでなくても好きになってしまうわけですヨ。

その後、メアリーはロンドンに戻るのだが、まもなくパーシーは「ゴドウィン氏の弟子になりたい!」と言ってやってくる。こうして2人は恋に落ちる。ところが、パーシーには妻子がいることが発覚! 周囲の猛反対もあって、いったん恋心が覚めかけるメアリーだが、結局は情熱に身を任せて2人で駆け落ちしてしまうのだ。

いや、2人ではなかった。メアリーの義妹クレア(ベル・パウリー)も一緒だった。彼女も何かと口うるさい母を嫌い、自由を求めて家を出ることにしたのだ。

ところで、クレアを演じたベル・パウリー。どこかで見たと思ったら、青春ラブ・コメディ「マイ・プレシャス・リスト」(2016年)で、主人公のこじらせ系女子を演じたコではないか。今回はまた違った雰囲気を漂わせています。

さてさて、こうしてメアリーとパーシーが幸せになるかと思いきや、そんな安直な展開にはならない。現実は厳しいのだ。パーシーは自由恋愛を標榜して、クレアとも怪しげな関係になる。金銭的にも親に感動されたり、勝手に親の財産を担保に入れたりして、波乱続きの日々を送る。

そんな中、メアリーは妊娠して娘を出産。ようやく幸せを手に入れるかと思いきや、借金の取り立てから逃れる途中で娘は死んでしまう。こうして彼女は心にぽっかりと穴が開いてしまう。

この映画の監督は長編デビュー作「少女は自転車にのって」が第86回アカデミー外国語映画賞にノミネートされたハイファ・アル=マンスールサウジアラビア初の女性監督の彼女は、この物語を『フランケンシュタイン』誕生の過程を追う伝記という切り口ではなく、普遍的な青春ドラマとして描く。がんじがらめの現状から脱出して、自由に羽ばたこうと思うものの、現実の壁にぶち当たって葛藤する若者。そんな視点から、メアリーの人生のドラマを紡ぎ出すのである。

演出は正攻法。その中で美しく格調高い映像が際立つ。一歩間違えば、夫婦のドロドロのバトルになりそうな素材だが、けっしてそうはさせない。メアリーが書く文章やパーシーが作った詩などを随所に挿入して、それぞれの心理を映し出す手法も効果的だ。メアリーの悪夢を映像で見せるあたりの仕掛けもぬかりがない。

そして何よりも、この映画の魅力は普遍的な青春ドラマであるのと同時に、女性の自立への戦いでもある点だろう。思うに任せぬ現実の中、苦悩するメアリーだが、ついに自立へのきっかけをつかむ。それは有名な詩人バイロン卿(コイツがまた、とんでもないエキセントリックなキャラなのだ)の別荘にパーシーやクレアとともに滞在した時のこと。バイロンから、「みんなで1つずつ怪奇談を書いて披露しよう」と持ちかけられる。何でも、この事実は「ディオダディ荘の怪談談義」として文学史的に有名な話らしい。

というわけで、このあたりでは『フランケンシュタイン』誕生の裏話的な面白さもある。そこに至る前フリとして、電気によって死体を生き返らせるショーなどのエピソードも登場する。また、同じくバイロン卿の別荘に滞在していた医師のジョン・ポリドリは、「ディオダディ荘の怪談談義」によって『吸血鬼』を書き上げている。

ちなみに、ジョン・ポリドリを演じるのは、「ボヘミアン・ラプソディ」でドラマーのロジャー・テイラーを演じたベン・ハーディ。何だかユニークなキャストの多い映画です。

こうしてメアリーは、これまでの苦闘の人生を託して一気に文章を書き上げる。『フランケンシュタイン』の完成である。その時、メアリーは何とまだ18歳! だが、彼女の苦闘は続く。今度は出版社との闘いだ。そこでもまた大きな偏見や障壁が、彼女のゆく手を阻む。それでも彼女は前に進もうとする。

ラストは父との関係、そしてパーシーとの関係に新たな展開をもたらすとともに、彼女がついに自立を勝ち得たことを強く訴える。これこそが、ハイファ・アル=マンスール監督が、最も描きたかったことなのではないだろうか。まだまだ女性の社会進出が困難なサウジアラビア出身の監督だけに、おそらくメアリーの苦闘に現代の女性を重ね合わせているに違いない。その点において、このドラマは#MeToo運動が盛り上がった今の時代とも、確実につながっているのだと思う。

それにしても主演のエル・ファニングの堂々たる演技!! 子役から出発して今や貫禄さえ感じさせる演技。まだ20歳だというのに、こんな演技をしてこの先どうするのだ? と、変な心配をしてしまうほどの圧巻の演技である。それを見るだけでも十分に元の取れる作品だと思う。

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◆「メアリーの総て」(MARY SHELLEY)
(2017年 イギリス・ルクセンブルクアメリカ)(上映時間2時間1分)
監督:ハイファ・アル=マンスール
出演:エル・ファニング、ダグラス・ブース、スティーヴン・ディレインジョアンヌ・フロガット、ベン・ハーディ、メイジー・ウィリアムズ、ベル・パウリー、トム・スターリッジ
シネスイッチ銀座、シネマカリテほかにて公開中。全国順次公開予定
ホームページ https://gaga.ne.jp/maryshelley/