映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ヴィクトリア女王 最期の秘密」

ヴィクトリア女王 最期の秘密」
Bunkamuraル・シネマにて。2019年1月31日(金)午後6時40分より鑑賞(ル・シネマ1/D-6)。

ヴィクトリア女王とインド人青年の交流。ジュディ・デンチの貫禄の演技

日本の現在の天皇は、30年以上その座にいるわけで、それはやはり大変な負担なのだろう。一方、1819年に即位したイギリスのヴィクトリア女王は、実に63年7か月に渡って王位にいたというから、これまたすさまじい負担がかかっていたに違いない。

そんなヴィクトリア女王とインド人青年との交流を描いたのが、「ヴィクトリア女王 最期の秘密」(VICTORIA & ABDUL)(2017年 イギリス・アメリカ)である。映画の冒頭に「ほぼ実話」とあるように、史実をもとにしつつ、エンタメとして誰でも楽しめる仕掛けが施されている。

1887年。当時イギリス領だったインドからドラマが始まる。アグラというところで、囚人の記録係をしていた若者アブドゥル(アリ・ファザル)は、英国への贈り物の絨毯を選ぶのに功績があったことから目をつけられ、ヴィクトリア女王ジュディ・デンチ)の即位50周年記念式典で記念金貨“モハール”を献上する役目を任される。こうしてアブドゥルはイギリスに渡る。

一方、ヴィクトリアは長年女王の座に君臨してきたものの、孤独な日々を送っていた。そんな中、物怖じすることなく本音で自分に接するアブドゥラに興味を抱いたヴィクトリアは、祝典期間の間、彼を従僕に起用する。

本作の監督は、ヘレン・ミレンエリザベス女王を演じた「クイーン」などで知られるスティーヴン・フリアーズ。王室ものはお手のものというわけでもないだろうが、手練れの演出でテンポよく、ユーモア満載でドラマを紡いでいく。

王室ものらしく、ゴージャスな衣装や多数のエキストラが登場する壮観の儀式など、王室の日常がつぶさに見られるのも、この映画の魅力である。

そして当然ながら、ドラマの肝は、ヴィクトリア女王とアブドゥラとの交流にある。それをとびっきり魅力的に見せるのが、ヴィクトリアを演じた名優ジュディ・デンチだ。「ヘンダーソン夫人の贈り物」「あなたを抱きしめる日まで」でもスティーヴン・フリアーズ監督とタッグを組んでいる彼女は、実は1997年の「Queen Victria 至上の恋」でも、ヴィクトリア女王を演じている。

その映画では、夫アルバート公を亡くしたヴィクトリアと、スコットランド人従僕ジョン・ブラウンとのロマンスが描かれている。それが本作の伏線になっている。ヴィクトリアの孤独は、夫とそのジョン・ブラウンの死による影響が大きい。さらに、長年の過密な王宮行事が彼女を心身共に疲弊させていた。

最初に登場したヴィクトリアは、仏頂面で、全身から疲れたオーラを発信している。そんな中、アブドゥラに出会い、どんどんキラキラと輝きだす。まるで、それまでとは別人のように生き生きとしたその姿を、ジュディ・デンチが説得力満点に演じている。

アブドゥラを「先生」と呼び、彼らの言語を学ぶ姿は、まるで少女のようである。自らの孤独と疲弊を正直に打ち明ける姿は、身分に関係なく、ひとりの人間としての存在をまさに

はたして、彼女が抱いたのは恋心なのか。のちに、アブドゥラに妻がいると知った時の落胆ぶりなどを見れば、確かにそうした思いもあったように感じられる。その一方で、直後に妻をイギリスに連れてくるように命じるあたりは、まさに愛する息子に対する母の態度だ。そのあたりのヴィクトリアの微妙な心理も、デンチの巧みな演技で余すところなく表現されている。

ヴィクトリアの取り立てにより、どんどん出世するアブドゥラに対して、側近はじめ王室の職員たちが反発を抱き、アブドゥラ失脚の謀略をめぐらす・・・というのはよくあるお話。ただし、そこで彼らの植民地青年に対する人種差別的な態度を前面に出して、ヒューマニズムの観点から批判的に描いているのが特徴だ。

実はアブドゥラとともに、もう1人の男がイギリスに渡ってきたのだが、彼の言動を通しても、支配者であるイギリスへの痛烈な批判が展開されている。

さらにはアブドゥラがコーランを信じるイスラム教徒だというのも、重要なポイントに思える。アメリカのトランプ大統領に代表される、イスラム教徒に対するネガティブな目線が横行する今の世界に対する批判を、そこに込めていると考えるのは、さすがに深読み過ぎるだろうか。

終盤、アブドゥラを排斥しようとする側近たちを、ヴィクトリアが毅然としてたしなめるシーンでは、思わず快哉を叫びたくなってしまった。ここもまたジュディ・デンチの素晴らしい演技が光る。

そしてラストには感動的な別れが・・・。

ジュディ・デンチの演技ばかりをほめたが、アブドゥラを演じた「きっと、うまくいく」のアリ・ファザルの見事な好青年ぶりも、特筆に値する。あれなら、ヴィクトリア女王ならずとも、惚れてしまうがな~~。

ヴィクトリアの死後、本作に描かれた出来事は、息子のエドワード7世により史実から消され、長い間忘れられていたという。そういう点でも、興味深い作品である。

 

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◆「ヴィクトリア女王 最期の秘密」(VICTORIA & ABDUL)
(2017年 イギリス・アメリカ)(上映時間1時間52分)
監督:スティーヴン・フリアーズ
出演:ジュディ・デンチ、アリ・ファザル、エディ・イザード、アディール・アクタル、ティム・ピゴット=スミス、オリビア・ウィリアムズ、フェネラ・ウールガー、ポール・ヒギンズ、ロビン・ソーンズア、ジュリアン・ワダム、サイモン・キャロウ、マイケル・ガンボン
Bunkamuraル・シネマほかにて公開中
ホームページ http://www.victoria-abdul.jp/