映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ウトヤ島、7月22日」

ウトヤ島、7月22日」
ヒューマントラストシネマ有楽町にて。2019年3月26日(火)午後2時50分より鑑賞(スクリーン1/D-12)。

~ワンカットの映像で追体験する恐怖の銃撃現場

大事件が起きても、現場に身を置いた者に比べれば、リアルさに欠けるのは仕方のないところ。ならば、まるで現場に身を置いたような体験をしてもらい、そこから様々なことを考えてもらおう。おそらく、そうした意図でつくられた映画が「ウトヤ島、7月22日」(UTOYA 22. JULI)(2018年 ノルウェー)だろう。

描かれているのは2011年7月22日に起きたテロ事件だ。ノルウェーの首都オスロの政府庁舎前で車に仕掛けられていた爆弾が爆発する。世間が混乱する中、今度はオスロから40キロ離れたウトヤ島で銃乱射事件が起こり、ノルウェー労働党青年部のサマーキャンプに参加していた10~20代の若者たちが犠牲になった。犯人は32歳のノルウェー人のアンネシュ・ベーリング・ブレイビクという男。極右思想の持ち主で、政府の移民政策に不満を抱いてテロを計画したのだ。

結局、政府庁舎前の爆弾で8人、ウトヤ島の銃乱射で69人、合計77人もの人々が命を奪われた。そのうちウトヤ島の銃乱射事件を描いたのが本作だ。

冒頭は、若者たちの楽しいキャンプ風景が描かれる。労働党青年部といっても、ごく普通の若者たちだ。政治の話などもするが、たわいもない話で笑い合う。そんな中でオスロの爆破テロ事件のニュースが届き、不安を感じる参加者もいる。

ドラマの主人公に据えられたのは、妹と一緒に参加していた少女カヤ(アンドレア・ベルンツェン)。妹とは軽い姉妹ゲンカで仲違いしてしまう。このことが、その後の彼女の行動に色濃く反映する。

そして突然鳴り響く銃声。何が起こったのかわからないまま(最初はそれが銃声なのか何なのかもわからない)、若者たちはパニックに陥り、キャンプ地の建物の中に逃げ込む。

この映画の何がすごいかといえば、全編が手持ちカメラによる撮影、しかも72分間に及ぶ銃撃はワンカットで撮影しているのだ。カヤたち参加者を追うカメラは、時にあらぬ方向に向き、映像が乱れる。だが、これが、とんでもない緊迫感を生み出している。まるで、自分も現地でキャンプに参加しているような気持になってしまう。参加者たちの混乱、恐怖をそのまま体験してしまうのである。

そして、もう一つの恐ろしい仕掛けがある。この映画では犯人の姿が一切映らない。ただ銃声が聞こえるだけなのだ。それが近くなったり遠くなったりする。しばらく銃声が消えて、事態が収束したのかと思うと、至近距離で激しい銃撃が起きたりする。この仕掛けもまた、あまりにもリアルで、なまじのホラー映画も顔負けの恐さを煽っている。

建物に逃げ込んだ参加者たちだが、そこもすぐに危険にさらされる。カヤたちは森の中に逃げ込む。木の根元の窪地のようなところに身をひそめるが、その時点でも事態をよく把握していない。仲間たちは警察に通報するものの、何とも要領を得ない対応をされてしまう。

そんな中でも、カヤの頭の中には妹の存在がある。はたして、妹は無事なのか、どこにいるのか。電話をしてみるが反応はない。カヤは仲間たちの反対を押し切り、テントがたくさん張られた場所に向かう。そこが、彼女が最後に妹と会った場所だった。だが、妹はそこにはいなかった。

この映画は当然ながら事実をもとにしている。相当に念入りな取材をしたのだろう。それがまた異様な臨場感を生み出しているわけだが、それでもドキュメンタリーというわけではない。あくまでもフィクションとして描く。カヤも実際にいた人物かどうかはわからない。

それを前提に言えば、見せる工夫もきちんとされている。カヤが様々な場所を移動するのもそうだが、途中で出会う少年や瀕死の女の子の運命を通して、ドラマチックな悲劇を生み出す。不謹慎なのを承知で言えば、単なるサスペンス・ドラマとしてもよくできているのだ。とはいえ、やはり事実に基づいているというのが、何ともやりきれないのだが。

最終的にカヤは崖下へと移動する。そこである青年と出会う。そのやり取りも味わいがある。銃声に包まれ、恐怖にさいなまれながらも、ほんのわずかな穏やかさが戻る。そこでカヤが歌うシンディ・ローパーの「トゥルー・カラーズ」が、観ている者の胸をかきむしる。

はたして、カヤたちは生還できるのか。妹は無事なのか。それはここでは伏せるが、最後にも衝撃的な場面が待っている。ただし、ほんの微かな希望も感じさせる。それが何とも言えない余韻を残す。

カヤを演じたアンドレア・ベルンツェンをはじめ、若者たちの素性はよくわからない。本当の役者なのか、それとも素人の若者なのか。また、あの演技は台本通りなのか、それともアドリブを取り入れたのか。それにしても、彼らもまたあの現場にいたかのような迫真の演技だった。

ヒトラーに屈しなかった国王」などで知られるエリック・ポッペ監督の意図は明確だ。エンドロール前のテロップにそれが現れている。世界的に極右思想が蔓延する中で、どうしてもこの事件についてもう一度考えてもらいたかったのだろう。警察の初動の遅れや政府庁舎の爆破が未然に防げたことなども告げている。そうした監督の意図を受けて、思いを巡らすのはもちろん観客のオレたちである。

正直、疲れる映画だ。楽しい映画を求める人には絶対におススメできない。だが、それでも、今の時代だからこそ、観ておく価値はあるのではないか。

ちなみに、同じくこの事件をもとにポールグリーングラス監督は、Netflixオリジナルの配信映画「7月22日」を製作している。そちらはテロによって傷ついた少年を中心に、事件後の出来事を描いているらしい。機会があればそちらも観てみたいところだ。

 

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◆「ウトヤ島、7月22日」(UTOYA 22. JULI)
(2018年 ノルウェー)(上映時間1時間37分)
監督:エリック・ポッペ
出演:アンドレア・ベルンツェン、アレクサンデル・ホルメン、ブレーデ・フリスタット、エリー・リアンノン・ミューラー・オズボーン、ソルヴァイク・コルーエン・ビルケランド
*ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中
ホームページ http://utoya-0722.com/