映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「アメリカン・アニマルズ」

アメリカン・アニマルズ」
新宿武蔵野館にて。2019年5月20日(月)午前10時15分より鑑賞(スクリーン1/B-6)。

~大学生たちによるおバカな強盗事件をユニークな構成で見せる

強盗とくれば、たいていは金目当ての犯行。だが、そればかりではない。中には金以外の目的で、強盗に手を染めるケースもある。2004年にアメリカで、4人の大学生が図書館の希少本を盗んだ事件は、まさにそんな事件だ。それを映画化したのが、「アメリカン・アニマルズ」(AMERICAN ANIMALS)(2018年 アメリカ・イギリス)である。

冒頭近くで登場する説明に仰天した。「これは実話に基づく物語ではない」。なに? 実際の事件を基にした実録ドラマと聞いていたのだが、何かの勘違いだろうか。と思ったら「これは実話である」ときたもんだ。何とも人を食った導入部である。そんなシニカルさが全編に漂っている。

事件を最初に思いついたのは、ケンタッキー州の大学生のウォーレン(エヴァン・ピーターズ)とスペンサー(バリー・コーガン)。ある日、大学図書館にジェームズ・オーデュボンの画集『アメリカの鳥類』という、時価1200万ドル(約12億円相当)の希少本があることを知ったスペンサーは、ウォーレンにそのことを話す。すると、ウォーレンは「その本を盗もうぜ!」と提案する。

ウォーレンもスペンサーも中流家庭の子ども。特に金に困っているわけではない。だが、退屈な日常を送る2人は、「こんな人生つまらない」「刺激が欲しい」「俺は特別な人間になるんだ」という思いを共に抱えている。そんな中、日常ではありえない強盗という行為が、彼らにとって魅力的に思えたのだろう。

2人のような思いを持つのは、あのあたりの世代では珍しくないことかもしれない。だからといって強盗に手を染めるというのは、どう考えても飛躍しすぎだ。あまりにもお手軽で緩すぎる考えではないか。

そして動機が緩ければ、計画も緩い。何しろ2人は「レザボア・ドッグス」「オーシャンズ11」などの犯罪映画を観たり、インターネットで「完璧な強盗の仕方」を検索して計画を練るのだ。その緩さときたら、もはやコメディーでしかない。「アホやなぁ、コイツら」と笑ってしまうのである。

作戦を立てるうちに、2人だけでは犯行は難しいと悟ったウォーレンとスペンサー(当たり前だろ!)。FBI志望の秀才エリック(ジャレッド・アブラハムソン)と青年実業家のチャズ(ブレイク・ジェナー)を誘って、4人で強盗計画を練る。誘う方も誘う方なら、引き受ける方も引き受ける方。コイツらも軽すぎるよなぁ~。

そんな犯罪計画の進行を、ノリのよい音楽に乗せてテンポよく、スタイリッシュに描く。さすがに犯行が迫ってくると、4人の対立なども生まれ(人を傷つけるかどうかなどで)、ただオバカなだけではいられなくなる。そして、いよいよ犯行当日。なぜか老人に扮した彼らは、白昼堂々図書館に乗り込む。強盗は成功するのか? 

犯行シーンは、なかなかにスリリングだ。予定外のことが次々に起きて、大変なことになる。とはいえ、基本的にはこの手の映画によくあるパターンだ。ドラマパート全般に特に目新しさはないし、どこかで観たような場面が続く。

だが、それでもこの映画は面白い。なぜなら、役者たちを使った再現ドラマの合間に、現在の当事者たちを登場させ、あれこれと証言させているからだ。その証言が、おバカな犯罪劇にリアルさを与えている。ちなみにバート・レイトン監督は、ドキュメンタリー畑出身で本作が長編劇映画デビューとのこと。なるほど、ドキュメンタリーはお手のものなのね。

さらに興味深いのが、彼らの証言が微妙に食い違っていることだ。例えば、本を盗んだ後に売りさばくことを考えて、ウォーレンはオランダに飛んだことになっている。だが、それはあくまでもウォーレンの証言。本当に彼がオランダに行ったのかどうかは本人しか知らない。いや、もしかしたら本人だって、記憶を捻じ曲げている可能性もある。

そんな証言を通して見えてくるのが、この映画は真実を追求するドラマではないということだ。それよりもレイトン監督が描きたかったのは、人間の摩訶不思議さや愚かさではないだろうか。こんなおバカな事件を起こして、本当かどうかわからない証言をする4人。極端な連中だとはいえ、彼らはけっして特殊な人間ではないのかもしれない。

一応、、反省しているらしい現在の彼らだが、それも本心かどうかはわからない。そんな中、最後に登場する被害に遭った司書の証言は重い。4人の若者たちの本質をズバリとついているようにも思える。このあたりも含めて、人間の様々な性質について考えさせられる映画である。

最後に語られる現在の彼らの状況も興味深い。うーむ、やっぱりコイツら特別な人生とやらが諦められないのかしらん。

◆「アメリカン・アニマルズ」(AMERICAN ANIMALS)
(2018年 アメリカ・イギリス)(上映時間1時間56分)
監督・脚本:バート・レイトン
出演:エヴァン・ピーターズ、バリー・コーガン、ブレイク・ジェナー、ジャレッド・アブラハムソン、ウド・キア、アン・ダウド
新宿武蔵野館ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国公開中
ホームページ http://www.phantom-film.com/americananimals/