映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「台風家族」

「台風家族」
池袋シネマ・ロサにて。2019年9月7日(土)午後1時35分より鑑賞(CINEMA ROSA 2/C-8)。

~銀行強盗の両親の財産を巡る予測不能で笑えるバトル

市井昌秀監督を知ったのは、第30回PFFグランプリ受賞作である2007年の「無防備」を観た時だ。心に傷を負った30代の主婦の絶望と再生を描いた作品で、監督の奥さんの今野早苗の実際の出産シーンがクライマックスで使われたことでも話題になった。

その後の市井監督は、星野源夏帆共演の2013年の「箱入り息子の恋」など、「無防備」に比べてエンターティメント性の強い作品を監督している。元々はお笑い畑の人らしいから(「髭男爵」の元メンバーらしい)、それもむべなるかな、というところである。

そんな市井監督の最新作「台風家族」(2019年 日本)は、本来の公開時期より大幅に遅れての公開となった。そう。例の新井浩文氏の事件絡みだ。とはいえ、お蔵入りになった映画もあるのだから、公開になっただけでも喜ぶべきかもしれない。

本作は原作ものではなく市井監督のオリジナル脚本による。ドラマはいきなり銀行強盗のシーンから始まる。犯人は鈴木一鉄(藤竜也)。2000万円を奪った彼は、妻の光子(榊原るみ)とともに霊柩車で逃走する。一鉄は葬儀屋を営んでいたのだ。そして、そのまま2人は姿を消してしまう。マスコミは長男の小鉄(草彅剛)をはじめ家族のもとに殺到する。

それから10年、ずっと無人だった鈴木家に小鉄が妻(尾野真千子)と娘(甲田まひる)を連れて戻ってくる。失踪から時間が経過し、一鉄と光子が法的に死亡したと認定されたことから、その葬儀が行われることになったのだ。もちろん棺は空。そして、小鉄の真の狙いは両親の財産にあった。

というわけで、両親の残した財産を巡って骨肉の争いが繰り広げられる。バトルするのは、小鉄に加え弟の京介(新井浩文)と妹の麗奈(MEGUMI)、そして姿を見せない三男の千尋中村倫也)。その代わりに、なぜか麗奈の彼氏の登志雄(若葉竜也)が登場する。

何しろ小鉄たちには、両親に対する愛情などない。銀行強盗の子供として散々世間の冷たい視線を浴び、それによって人生を狂わされたのだ。だから、彼らは遠慮などなしに、欲望をむき出しにして財産争いを展開する。

なかでもとりわけ小鉄は欲望をむき出しにする。弟や妹に対して「お前たちは学費をたくさん出してもらったんだから」と自分がよけいに財産をもらう権利があると主張する。そればかりか財産を独り占めしようと目論む。

そんなバトルを通して、兄や弟、妹の過去に関する確執が表面化してくる。事件以来ほとんど顔を合わせていなかっただけに、胸の奥に渦巻く者が一挙に噴出する。そして、彼らは罵り合い、取っ組み合いまで演じる。

とはいえ、本作の真骨頂はそこに笑いの要素をふんだんに盛り込んでいるところだ。アクの強い人物たちによる丁々発止の駆け引きから、シュールだったり、ドタバタだったり、ブラックだったりと様々な笑いが生まれてくる。けっしてどす黒い骨肉の争いではなく、クスクス笑いながら見られるバトルなのだ。

やがて三男の千尋がようやく現れると、混乱はエスカレートする。この葬儀自体がある意図のもとに計画されたことが明らかになる。

この映画の舞台はほとんどが鈴木家の室内だ。それでも飽きさせないのはセリフの面白さに加え、新たな登場人物や新たなエピソードをタイミングよく繰り出すから。そこに先の読めない面白さがある。

中盤以降は、両親に関する隠された事実が明らかになってくる。子供たちの全く知らない2人の姿だった。それによって憎むべき強盗犯という子供たちの思いが、少しずつ変化していく。また、小鉄が金に執着する本当の理由も明かされ、彼と娘との絆が強まる。

そのあたりからヒューマニズムが前面に出てくるのだが、それをダメ押しするのがある謎の女の登場だ。実は、この映画では、途中で銀行員の男と謎の女がチラチラと何度か登場する。「あれは誰なのだろう?」と思って観ていると、やがて彼らが鈴木家に現れる。

特に謎の女の出現によって、家族たちはなぜ一鉄が強盗を働いたのかを知ることになる。それが家族の絆の再構築をもたらし、観客をホロリとさせるのである。

クライマックスはタイトル通りの台風の中、家族が家を飛び出してある場所へと向かう。そこから意外な展開へと突入して、海岸でのラストシーンへとつながる。冷静に考えれば「そんなことないだろう」とツッコミたくなる展開ではあるのだが、観ている間は気にならなかった。むしろ、おかしみと感動に満ちた場面に思わず微笑んでしまった。

いったん文句なしのハッピーエンドと思わせて、その後でひとひねりしたエンディングもセンス抜群。人間なんてしょーもないけど、けっこう捨てたもんじゃないでしょう。そんな市井監督の声が聞こえてきそうだ。

役者も魅力的だ。草彅剛はワルを装いつつそれでも……というあたりの演技が役にはまっている。MEGUMI中村倫也も個性的な演技で印象深い。両親役の藤竜也榊原るみも存在感十分。そして問題の新井浩文氏だが、例の事件のことは気にならなかった。こういう役なのでなおさらね。もっとワルい役立ったら印象が違ったのかもしれないが。

何にしても映画に罪はないので公開になってよかった。笑って、泣いて、感動できる。ウェルメイドなコメディである。舞台劇にしても面白いかも・・・。

 

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◆「台風家族」
(2019年 日本)(上映時間1時間48分)
監督・脚本:市井昌秀
出演:草彅剛、MEGUMI中村倫也尾野真千子若葉竜也、甲田まひる、長内映里香、相島一之斉藤暁榊原るみ藤竜也新井浩文
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ http://taifu-kazoku.com/