映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「宮本から君へ」

「宮本から君へ」
グランドシネマサンシャインにて。2019年10月1日(火)午後3時20分より鑑賞(シアター9/F-7)。

~暑苦しくて壮絶な感情のぶつけ合いの根底に純愛がある

2016年に公開された日本映画「ディストラクション・ベイビーズ」は、なかなかの評判だった。同年のキネ旬ベストテンでも確か4位にランクされている。だが、観よう観ようと思ってはいたものの、結局は見逃してしまった。時間とお金、特にお金は有限なのだよ。残念ながら。

その「ディストラクション・ベイビーズ」の真利子哲也監督の新作が公開になったと聞いて、今度こそはと観に行った。「宮本から君へ」(2019年 日本)である。原作は新井英樹の漫画で、真利子監督の手でテレビドラマ化もされたとのこと(どちらも未読&未見です。スイマセン)。

ディストラクション・ベイビーズ」は、壮絶なバイオレンスシーンが話題になったと記憶しているが、本作も相当に痛いバイオレンスシーンが飛び出す。とはいえ基本は不器用すぎる男女による恋愛ドラマだ。

冒頭に映るのはある男の背中。前に回ると顔は血だらけで歯がない。この男こそが、本作の主人公・宮本浩(池松壮亮)である。彼は文具メーカーの営業マン。不器用だが人一倍正義感が強い。

そんな宮本は、どうやらある人物に全治2か月の重傷を負わせたらしい。宮本自身もかなりのケガをしている。いったい何があったのか。

そこで場面は一転する。宮本と中野靖子(蒼井優)という女性が宮本の両親に会い、結婚することを報告する。どうやら靖子は妊娠しているらしい。続いて2人は靖子の実家を訪ね、そこでも結婚の報告をする。

このあたりで判明したのだが、このドラマは時制を入れ替えている。過去の様々な出来事と現在進行形の出来事がバラバラに配置されているのである。

その中から浮かぶのは、宮本と中野のなれそめ、そして2人に大きな転機をもたらした怖ろしい事件だ。ある日、宮本は会社の先輩・神保の仕事仲間で年上の靖子と出会い、心惹かれるようになる。やがて靖子の自宅に招かれるが、そこに遊び人の元恋人・風間裕二(井浦新)が押しかける。話がこじれて靖子に手を挙げた裕二に対して、宮本は「この女は俺が守る」と宣言する。それをきっかけに宮本と靖子は恋人同士になる。

恋愛ドラマには当然ながらお互いの心の共鳴やすれ違いがある。そんな心の揺れ動きを繊細に描き出すのがよくあるパターンだが、本作は違う。宮本は不器用で融通が効かない。そして靖子もまた不器用さでは負けていない。そのため2人はお互いの感情を容赦なくぶつけ合い、罵り合い、泣きわめく。それでも2人は距離を縮める。その様子はひたすら暑苦しく壮絶だ。

その後、事件が起きる。ある晩、宮本が酔って寝ている間に、そこにいた拓馬という男に靖子が乱暴されてしまったのだ。

当然ながら靖子は深く傷つく。宮本は何も知らずに眠っていた自分に対する怒りや自責の念にかられる。そして、その怒りの赴くままに復讐を果たそうとする。だが、相手は屈強な男であえなく返り討ちに遭ってしまう。

事件を機に、宮本と靖子の間には大きな溝ができる。それぞれに持っていき場のない感情をぶつけ合う。靖子は復讐に乗り出した宮本に、「自分のためにやっているだけだ」と叱責する。それでも宮本は敵討ちを諦めない。彼にできることはそれしかなかったのだ。

後半もひたすら暑苦しく壮絶な映画だ。だが、同時にその暑苦しさや壮絶さが笑いも生み出していく。「おいおい、そこまで言うか」と何度も苦笑させられてしまうのだ。

そして、後半は復讐劇の魅力にもあふれている。常識ではとても勝てない屈強な男に対して、宮本はどう挑むのか。クライマックスの最終決戦に向けて、どんどん熱気が高まっていく。

クライマックスで描かれる壮絶なバイオレンスシーン。それは武器など一切持たない素手素手の戦いだ。凄まじい衝動で血だらけで相手に立ち向かう宮本。その姿は最高にカッコ悪くて、最高にカッコいい。

壮絶なバイオレンスシーンの後は、壮絶なプロポーズシーンだ。これまた宮本と靖子が感情をぶつけ合い、凄まじい様相を呈していく。ラストの出産絡みのシーンといい、徹頭徹尾暑苦しくて壮絶な映画である。

というわけで、何度も「暑苦しい」「壮絶」と書いてきたわけだが、観終わった後は爽快感に包まれた。なぜなら、本作の根底には間違いなく純愛があるからだ。不器用すぎて、真っ直ぐすぎる2人の武骨なラブストーリーは、ある意味で、究極のピュアな愛の形ともいえる。それが観るものの心の琴線に触れるのではないだろうか。

考えてみれば、人間一人ひとりみんな考え方や生き方が違う。完全に理解することなど不可能だ。そこでお互いに多少のことは我慢して、忖度して生きている。だが、宮本と靖子の関係は我慢や忖度とは無縁だ。それもまた彼らを魅力的な存在に見せているのかもしれない。

宮本を演じた池松壮亮が素晴らしい。これまでは静かな役が多い印象があったのだが、今回は一転してふり切れた演技を見せている。全身で内面を表現した蒼井優の演技ともども圧倒された。そして、井浦新が珍しく典型的な遊び人を演じているのも面白いところ。

ちなみに、本作では人間関係などがややわかりにくいのだが、それはテレビ版を踏まえているからなのか。テレビ版を見ていない人のために、もう少しだけ説明があっても良かった気がするのだが……。

とはいえ、テレビ版や原作を知らない人でも一見の価値アリだ。最近の日本映画にはあまりない桁外れのパワーと荒々しさを持つ作品なので。

 

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◆「宮本から君へ」
(2019年 日本)(上映時間2時間9分)
監督:真利子哲也
出演:池松壮亮蒼井優井浦新、一ノ瀬ワタル、柄本時生星田英利古舘寛治ピエール瀧佐藤二朗松山ケンイチ新井英樹、工藤時子、螢雪次朗、梅沢昌代、小野花梨
角川シネマ有楽町ほかにて公開中
ホームページ https://miyamotomovie.jp/