映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ホームステイ ボクと僕の100日間」

「ホームステイ ボクと僕の100日間」
新宿武蔵野館にて。2019年10月5日(土)午後2時25分より鑑賞(スクリーン1/A-7)。

森絵都の原作を大胆に翻案したタイ発のユニークな青春ファンタジー

だいぶ以前に、直木賞作家の森絵都のインタビューに同席させてもらったことがある。真摯な受け答えと、作品への真剣な向き合い方が伝わるインタビューだった。

そんな森絵都の小説「カラフル」は、過去に実写版、アニメ版として映画化されている。そして、今回、何とタイで3度目の映画化となった。「ホームステイ ボクと僕の100日間」(HOMESTAY)(2018年 タイ)である。

死んだはずの“ボク”(ティーラドン・スパパンピンヨー)の魂が、謎の“管理人”によって当選を告げられ、自殺したばかりの高校生ミンの肉体に“ホームステイ”するところからドラマが始まる。

この冒頭のストーリー展開は、ほぼ原作に忠実。だが、原作のファンは戸惑うかもしれない。なぜならいきなりホラー映画風の出だしから始まるのだ。病院の外壁を使ったハラハラドキドキのアクションシーンまで飛び出す。

日本でも話題を集めた「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」の製作チームが、原作の良さを活かしつつも、こんなふうに大胆に翻案したユニークな作品に仕上げている。ちなみにパークプム・ウォンプム監督は、過去に「心霊写真」などのホラー映画を撮っているようだ。なるほど、それなら出だしがホラー風なのも頷ける。

まもなく、ボクの転生には条件が付けられていることがわかる。それは、ミンが命を絶った理由を100日間で見つけ出さなければいけないというもの。それができなければ、ボクの魂は永遠に消し去られるのだ。

こうしてボクはミンとして再び人生をスタートさせる。見知らぬ家族や同級生たちに囲まれ、不慣れな高校生活を送りながら、ミンの自殺の原因を探り始める。そうするうちに、次第に映画はキラキラ輝く青春映画の様相を帯び始める。未知の生活に戸惑いつつも、ボクは様々な出会いや経験を重ねていく。それを瑞々しいタッチで描き出す。

なかでも大きなウエイトを占めるのが恋物語だ。ボクは特進クラスの優等生の先輩のパイ(チャープラン・アーリークン)という女の子と親しくなる。これがまあ初々しいキスシーンをはじめ、観ているこちらが気恥ずかしくなるようなピュアなロマンスなのだ。あの頃に、あんな経験をしたことがないにもかかわらず、思わず胸キュンしてしまったではないか!! そのぐらい素敵な恋物語だ。

ホラー映画からまばゆい青春映画へと変化したドラマだが、そこにはミステリー・サスペンスとしての顔もある。もちろんミンの自殺の謎を探るドラマである。パソコンに残された遺書をはじめ、様々なアイテムが効果的に使われ、ボクは真相に近づいていく。一つの謎が解明されたと思ったら、また謎が浮かび上がるといった構図も巧みだ。

例の管理人が、時々全く別人となってボクの前に現れ、あれこれと意味深なことを告げる展開も面白い。その際には、映像的にもVFXを駆使するなど技巧を凝らした映像が使われる。それ以外にも随所でかなりエッジの効いた映像が見られるのも、本作の特徴である。

やがて映画は暗く重たい展開へとなだれ込む。ミンの自殺の原因が次第に明らかになるのだ。そこに横たわるのは家族をめぐる秘密だ。そのことがミンを自殺へと追いやったらしい。

だが、謎解きでドラマは終わらない。ボクの成長をスクリーンに刻む。大事故を経て、ボクは気づくのだ。人は悪意がなくても誰かを傷つけることがある。教科書通りにきれいに進む人生などありはしない。そこで本当に大切なものは何なのだろうか。様々な経験と心の揺れ動きを経験して、ボクは確実に成長する。

そして最終盤には、もう一つの大きな真実が語られる。本作を観ていて、冒頭からずっと気になっていたことがある。ボクはミンの体に転生したわけだが、そのボクとはいったい誰なのか。それに関しては終盤までなにも描かれない。だが、ついにそれが明らかになるのだ。そこでは、ボクが描いた絵が印象的に使われる。

さりげない後日談を経てドラマは終焉を迎える。そこに流れる空気は温かく穏やかだ。若者たちの苦悩や成長、恋愛に優しく寄り添う視線が感じられる。そうなのだ。ホラー映画、ミステリー・サスペンス、ファンタジーなどと様々に変化する本作だが、最後には青春映画としてきっちりと着地しているのである。

主演のティーラドン・スパパンピンヨーは、「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」でも活躍していたが、今回も過去のミンと今のボクを巧みに演じ分ける演技が見事だった。そして共演のチャープラン・アーリークンはAKBの海外グループ、BNK48のキャプテン。いかにも青春映画のヒロインらしい佇まいで、ボクならずとも好きになってしまいそう。

あれもこれもとやや詰め込み過ぎの感もないではないが、異色の青春映画として十分に観応えがある。森絵都の原作のエッセンスもきちんと押さえられていると思う。日本での公開本数こそ少ないものの、「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」に続いてタイ映画の奥深さを思い知らされた。

 

f:id:cinemaking:20191008204549j:plain

◆「ホームステイ ボクと僕の100日間」(HOMESTAY)
(2018年 タイ)(上映時間2時間16分)
監督・脚本:パークプム・ウォンプム
出演:ティーラドン・スパパンピンヨー、チャープラン・アーリークン
新宿武蔵野館ほかにて公開中。全国順次公開予定
ホームページ http://homestay-movie.com/