映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「真実」

「真実」
グランドシネマサンシャインにて。2019年10月11日(金)午前9時40分より鑑賞(シアター9/F-8)。

カトリーヌ・ドヌーヴの大女優オーラ全開で描く母娘の確執劇

前作「万引き家族」がカンヌ国際映画祭パルムドールに輝いた是枝裕和監督。その効果だろうか。初の日仏合作映画を手がけた。「真実」(LA VERITE)(2019年 フランス・日本)である。フランスで撮った全編フランス語の映画で日本人は登場しない。しかも、主要キャストは有名俳優揃いだ。

初期の頃から是枝作品を観てきたが、過去の作品とはだいぶ毛色が違う。それでも随所に是枝監督らしさが発揮されている。何より母娘の確執を軸にして“家族”を描いているところに、過去の是枝作品と共通するものがある。

フランスの国民的大女優ファビエンヌカトリーヌ・ドヌーヴ)のインタビュー場面から始まる。それだけで、ファビエンヌがどんな人物かがわかる。毒舌家でプライドが高く、女優としての生活を何よりも優先する。そんな人物像が浮かび上がるのだ。

ファビエンヌは『真実』という名の自伝本を出版し、それを祝うためにアメリカで脚本家をしている娘のリュミール(ジュリエット・ビノシュ)が、テレビ俳優の夫ハンク(イーサン・ホーク)と娘のシャルロットを連れて彼女の屋敷を訪ねてくる。だが、すぐに険悪な雰囲気になる。『真実』に目を通したリュミールは、内容のデタラメぶりに憤慨する。それに対して、ファビエンヌは“真実なんて退屈なだけ”と言い放つ。

そんなふうに確執を抱える母と娘だが、いかにもステレオタイプな確執ではない。時にはお互いの感情をぶつけ合うものの、のべつ幕なくいがみ合っているわけではない。ちょうどファビエンヌの秘書が突然辞めたこともあって、リュミールは母に付き添って新作映画の撮影現場に出向き、あれこれ世話をする。その中から、チラリチラリとリュミールの母に対する複雑な思いが見え隠れする。このあたりも、是枝監督らしいリアルかつ繊細な描写だ。

リュミールは、女優の仕事を優先して幼い自分の世話を疎かにした母に対して、憤まんを抱えている。夫ハンクの存在を認めていないのも気に入らない。そんな家族が揃う食事シーンは、いかにも是枝作品らしい場面。和やかなはずの食事風景が、やがて激しい言葉のバトルによって刺々しいものになっていく。

さらに、そこには今は亡きある女優の存在が深くかかわってくる。ファビエンヌの妹で女優のサラだ。その姉妹の関係にも複雑なものがあったらしい。ファビエンヌの心には、今でもサラに対するわだかまりがある。しかも、サラは幼い頃のリュミールの面倒をファビエンヌに代わってよく見ていたようなのだ。

本作には劇中劇が登場する。ファビエンヌが出演する新作映画だ。それは何とSF映画。そこでも母と娘の関係に焦点があてられる。その映画の主演女優はサラの娘のマノン。ファビエンヌは彼女と共演するうちに、次第に心が揺れていく。

実はこのSF映画、母と娘の年齢が逆転するという突飛な設定の映画なのだ。それが母娘の確執というテーマをより明確に浮かび上がらせる。そして、何よりもそこでのカトリーヌ・ドヌーヴの芝居が圧巻だ。劇中劇ではあるものの、有無を言わさずに引き込まれてしまった。

子役の使い方がうまいのも是枝映画らしいところ。リュミールとハンクの娘シャルロットを演じるクレマンチヌ・グレニエは、ほとんど演技経験がないらしいが、事前に台本を渡さない是枝流の子役演出術によって、実に可愛らしく、達者な演技を見せている。

シリアス一辺倒ではなく、ユーモアが全編に満載なのも過去の是枝作品と共通している。今回は、ファビエンヌの強烈な個性で笑わせる。彼女のユーモアと毒気にあふれたセリフに何度も笑わせられた。実在の有名女優の名を挙げたネタなども、なかなかウィットに富んでいて面白かった。

ファビエンヌの元夫、現パートナー、秘書なども絡んでドラマは混沌とした様相を呈していく。後半は、秘書を呼び戻すために、リュミールの脚本でファビエンヌが小芝居を打つ。さらに、新作映画の撮影はいよいよ大詰めを迎える。

その先に待つのは、是枝映画にしてはややおとなしめの展開。ファビエンヌがある真実を告白したことによって、リュミールの心が変化する。明確な和解ではないものの、2人の関係性に変化が訪れる。

こんなに普通に終わっていいのだろうか。そう思ったぐらいの穏やかなエンディングだった。とはいえ、温かな余韻が残るのは間違いない。あと味はとても良い。こういう是枝映画もいいかもしれない。家族(特に母娘)関係は一筋縄ではいかないし、面倒くさいこともたくさんあるけれど、それでも捨てたものではない。そんなことを思わせられる作品だった。

それにしてもカトリーヌ・ドヌーヴの貫禄の演技ときたら。大女優オーラ全開で、役柄と本人の区別がつかなくなってくるから恐れ入る。もしかしたら、この映画には彼女自身の女優人生も投影されているのではないだろうか(私生活のことはよく知らんけど)。是枝監督も意図的に、そういう脚本を書いたような気がする。

彼女とジュリエット・ビノシュとの掛け合いは観応え十分だ。一見普通の人ながら、どこかに異物感を漂わせるイーサン・ホークや子役、その他の脇役たちも含めて見事な演技のアンサンブルを繰り広げている。それだけでも見応えがある映画だと思う。

ついでに、カメ、犬などの動物まで、是枝監督のもとでいい味を出している。今までとは違う土壌で撮っても、これだけの作品を生み出すのだから立派なものである。

 

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◆「真実」(LA VERITE)
(2019年 フランス・日本)(上映時間1時間48分)
監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:カトリーヌ・ドヌーヴジュリエット・ビノシュイーサン・ホークリュディヴィーヌ・サニエ、クレマンチヌ・グレニエ、マノン・クラヴェル、アラン・リボル、クリスチャン・クラーエ、ロジェ・ファン・ホール
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://gaga.ne.jp/shinjitsu/