映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「夕刊フジロック PLUS2 頭脳警察50周年3rd Right Left the Light~ど真ん中から叫んでやる~」

夕刊フジ」。「日刊ゲンダイ」と並ぶ夕刊紙。ゲンダイが反権力的な論調なのに対して、フジはその逆。世間的に言えばゲンダイは左、フジは右というところだろう。その夕刊フジのイベント「夕刊フジロック」に頭脳警察が出演すると聞いて違和感を持った人も多いのではないだろうか。1970年前後の全共闘運動盛んなりし頃に、過激な歌詞で発売禁止を食らうなど左のイメージが強いバンドなのだから。

だが、しかし、頭脳警察、その中心人物PANTAの軌跡をたどれば、左右などという区分に関係なく、どんな場所にあっても自身に正直な心の叫びを歌に込めてきたのではないか。ならば、夕刊フジのイベント出演も不思議なことではないだろう。何しろイベントタイトルは「Right Left the Light~ど真ん中から叫んでやる~」なのだ。

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斯くして2019年11月25日(月)、渋谷duoにて「夕刊フジロック PLUS2 頭脳警察50周年3rd Right Left the Light~ど真ん中から叫んでやる~」は開催された。開演前には来夏に新宿K′s Cinemaにて公開予定の頭脳警察ドキュメンタリー映画「zk」の未編集映像が流れ気分を盛り上げる。

そしてオープニングアクトの岳竜が登場。頭脳警察のギター・澤竜二とベース・宮田岳によるユニットだ。元々は活動休止中の黒猫チェルシーのメンバーであるだけに、気心は知れているわけで、絶妙のアンサンブルを聞かせてくれる。アコースティック・セットでありながら紛れもなくロックしているのが、何よりも印象深いステージだった。

続くオープニングアクトは玲里。日本を代表するキーボード奏者・難波弘之のお嬢さんだ。キーボードの弾き語りで、透明感がありつつ力強い歌声を聞かせてくれた。楽曲もどれも素晴らしかった。最後には自身はギターに持ち替えて、お父さんがキーボードを担当。PANTAのソロ曲「真夜中のパーキングロット」と自身の曲「シュガー・ベイビー」をメドレーで披露した。

さて、次なるステージは、戸川純avecおおくぼけい。そう、あの戸川純が、おおくぼけいのピアノをバックに歌うのだ。何でもシャンソンを歌うためのユニットらしく、越路吹雪でもおなじみの「愛の讃歌」を高らかに歌ったりもするのだが、それでもそれは紛れもない戸川純独自の世界だ。人間は年をとれば当然ながら外見や心持ちが変化する。だが、どんなに変化しても変わらない魂を持ち続けている人がいる。PANTA戸川純もまさにそうだ。戸川純の内にはパンクの魂が息づいている。圧倒的な唯一無二の存在感だ。頭脳警察戸川純の共演と聞けば、一瞬戸惑う人も多いかも取れないが、よくよく考えればこれは必然だったのだ。

トリに登場したのはもちろん頭脳警察フランク・ザッパ率いるマザーズ・オブ・インヴェンションの「Who Are The Brain Police?」が流れる中、登場するPANTAとTOSHI。PANTAのギターが最初のコートをかき鳴らした瞬間、会場が大きな歓声に包まれた。「世界革命戦争宣言」。1969年に共産主義者同盟赤軍派日本委員会が出した宣言を曲に載せて叫んだものだ。これを「日刊ゲンダイ」でも「週刊金曜日」でもない「夕刊フジ」のイベントで歌うのが頭脳警察の真骨頂だろう。まさしく、ど真ん中から叫んでやる!

曲の終わり近くに、他のメンバーが登場する。澤竜次(G)、宮田岳(B)、樋口素之助(Ds)、おおくぼけい(Key)。「赤軍兵士の詩」「銃をとれ」へとなだれ込む。革命の時代らしい初期頭脳警察の代表曲だ。

だが、頭脳警察は過去の懐メロバンドではない。現在進行形のバンドだ。それを証明するかのように、9月に発売されたばかりのニュー・アルバム「乱波」の曲が演奏される。今年4月に新宿・花園神社の野外テントで上演された水族館劇場の芝居のために書かれた「揺れる大地1」そして「揺れる大地2」。この2曲では水族館劇場のキャストたちが舞台の扮装そのままに登場して、演奏に加わった。

「乱波」の曲が続く。澤の12弦ギターをフィーチャーした「紫のプリズムにのって」、石垣秀基の力強い尺八が加わった「乱波者」、心に染みるバラード曲「戦士のバラード」、小気味いいロック「ダダリオを探せ」。

この日のステージはほぼMCなし。間髪を入れずに曲が続く。PANTAの声は力強くいつにもまして艶やかだ。TOSHIの変幻自在のパーカッションも快調。澤竜次、宮田岳、樋口素之助、おおくぼけいの演奏も、いつも以上に気合に満ちた熱い演奏だった。

終盤は「乱波」に納められたロックンロールメドレー。「麗しのジェットダンサー」「メカニカル・ドールの悲劇」「プリマドンナ」「やけっぱちのルンバ」。「やけっぱちのルンバ」では美しきSAX奏者ASUKAが加わる。このあたりでは会場の盛り上がりも最高潮。会場全体が大きなうねりの中に巻き込まれたかのようだった。

本編最後の曲は「さようなら世界夫人よ」。頭脳警察永遠の名バラードで「乱波」では吉田美奈子がコーラスを担当したが、この日は玲里が担当。ゴスペル色の強い吉田とはまたひと味違う素敵なコーラスを響かせていた。

そしてアンコール。再登場した頭脳警察のメンバーが奏でたのはパッヘルベルの「カノン」。PANTAがそれに乗せて囁くように歌う。そして呼び込まれた戸川純頭脳警察との共演による「パンク蛹化の女」だ。この日は終始椅子に座って歌っていた戸川が、ここの時ばかりは(予定外だったようだが)立ったままでシャウトしまくる。その壮絶なステージには背筋ゾクゾクものであった。

ラストは戸川純に、石垣秀基、ASUKA、玲里も加わって、「コミック雑誌なんか要らない」。

もう言葉はいらない。最高の時間だった。歴史的な夜だった。頭脳警察結成50周年にまつわるライブは数々あったが、その中でも個人的には間違いなく最高の一夜だった。来年2月でとりあえず50周年の活動にはピリオドが打たれるらしいが、その後もぜひ活動を続けて欲しいと思う。頭脳警察は確実に現在進行形のバンドであることが、改めて確認できたのだから。

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