映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「猫たちのアパートメント」

「猫たちのアパートメント」
2022年12月29日(木)ユーロスペースにて。午後2時15分より鑑賞(スクリーン2/C-9)

~猫たちをお引越しさせようとする住民たちの愛にあふれた活動

今年最後の更新です。1年間ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。

猫は可愛い。犬も可愛い。さてどっちを飼うか。と迷い続けて○十年。ペット禁止のアパートに住み続けているので、その夢はかないそうにない。

「猫たちのアパートメント」は文字通り猫の映画。舞台となるのは、かつてアジア最大と呼ばれたソウル市内・江東区のマンモス団地「遁村(トゥンチョン)団地」。老朽化によって再開発が決まり、少しずつ住民の引っ越しや取り壊し工事が進んでいた。

しかし団地には、なんと250匹もの猫が住み着いていた。猫たちは野良猫とも違う。飼い猫とも違う。団地の猫ママと呼ばれる住民たちが、エサをあげ、面倒を見てきたのだ。日本でいえば、地域猫といったところだろうか。

再開発によって猫たちはどうなるのか。そこで、団地に住むイラストレーターや作家、写真家などの女性たちが中心となって、猫たちを安全な場所へ移住させるための活動を始める。その名も「遁村団地猫の幸せ移住計画クラブ」(略称:トゥンチョン猫の会)。

その活動を2年半にわたって記録したドキュメンタリーが本作である。監督は、先日取り上げた青春映画の傑作「子猫をお願い」のチョン・ジェウン

映像は定点観測のような感じだ。団地以外はほとんど映らない。この手のドキュメンタリー映画によく見られる手持ちカメラの緊迫感ある映像もない。

まあ、それもそうでしょう。住民同士の多少の意見の食い違いなどはあるものの、それが激しく対立するようなことはない。行政と住民のバトルなどもない。悪徳政治家が出てくるようなこともない。緊迫感ある映像など必要ないのである。

その代わり映されるのは、住民たちの猫愛あふれる活動の様子だ。猫たちの顔を見分けるために写真を撮り、不妊対策や健康管理にも気を配りながら、エサの補給地を絞り込んで捕獲する。捕獲した猫は、里親に出すために自宅で慣らす。そうやって誰に頼まれたわけでもないのに、一生懸命に活動する。それも実にみんな楽しそうなのだ。猫への愛あればこその行動だろう。

それと同時に、団地の猫たちの生態が生き生きと描かれる。特に猫目線のローアングルで捉えた映像が絶品である。人間の思惑をよそに、自由気ままに振る舞う猫たち。彼らの姿を見ているだけで、猫好きならずとも幸せな気分になってくるではないか。主だった猫は名前と番号がテロップで表示されるから、なおさら感情移入してしまう。

ドキュメンタリー映画にありがちなメッセージ性は希薄である。そんな中でも、里親に託すために猫を飼い慣らすことが、当の猫たちにとって幸せなのかどうか、という問題が浮上する。

といっても、それを徹底的に追及するわけではない。詳しい説明があるわけではないのだが、どうやら猫たちは里親に預けたり、他の場所に移したりと様々な形でお引越しをするらしい。猫にも個性があるということだろうか。

終始穏やかな空気に包まれるドキュメンタリー映画である。猫たちも、猫を守ろうとする人間たちも温かく、のんびりとしている。

ただし、ラストには驚かされた。建物の取り壊された団地のあった場所の風景が上空から映されるのだが、その荒涼感に苦さを感じたのは私だけだろうか。いや、問題提起というほど辛辣ではない。ただその場所を映しただけである。それでも、緑に包まれた場所だったところが、荒涼たる大地に変わってしまったことに衝撃を受けた。

はたしてこの団地の跡地がどうなったのかは知らないが、おそらく今までとは一変した風景が出来上がったことだろう。にぎやかな商業地か、あるいは高級住宅地か。いずれにしても、のどかに人々が暮らしたあの団地は、もう存在しないのである。そこに何やら苦いものを感じてしまった私なのである。

というわけで、ラストは色々と考えさせられたものの、全体としては温かで穏やかなドキュメンタリーだった。特に猫好きなら見ても損はないと思う。

◆「猫たちのアパートメント」(CATS’APARTMENT)
(2022年 韓国)(上映時間1時間28分)
監督:チョン・ジェウン
出演:トゥンチョン団地に暮らす猫たち、キム・ポド、イ・インギュ
ユーロスペースほかにて公開中
ホームページ http://www.pan-dora.co.jp/catsapartment/

 


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「フラッグ・デイ 父を想う日」

「フラッグ・デイ 父を想う日」
2022年12月28日(水)池袋HUMAXシネマズにて。午後1時25分より鑑賞(シネマ6/C-8)

~実の親子が演じる断ちがたき父娘の絆の不思議

俳優のショーン・ペンといえば、なかなかの才能の持ち主で、過去にも監督作品がある。その最新の監督作「フラッグ・デイ 父を想う日」は、監督に加えて自身も出演している。

本作は実話である。原作は、ジャーナリストのジェニファー・ヴォーゲルが2005年に発表した回顧録。脚本は「フォードvsフェラーリ」のジェズ・バターワース&ジョン=ヘンリー・バターワース。第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された。

フラッグ・デイとは6月14日のアメリ国旗制定記念日。その日に生まれた父を持つ娘のドラマである。

といってもこれが立派な父ではない。ロクデナシなのだ。「こんなめでたい日に生まれたんだから、俺は祝福されて当然だぜ」と、やたらプライドばかり高いウソつき野郎なのだ。そんな父でも断ちがたい父娘の絆があることを、愛憎まみえて描き出している。

1992年、アメリカ最大級の偽札事件の犯人であるジョン・ヴォーゲルショーン・ペン)が、裁判を前にして逃亡する。娘のジェニファー(ディラン・ペン)が捜査官からその顛末を聞かされる。彼女の表情をアップで捉えた映像が、その揺れ動く心をリアルに伝えている。だが、その偽札を手に取ってジェニファーはこう言うのだ。「美しい……」

「美しい……」じゃねえよ!犯罪者の父ちゃんが逃亡したんだぞ!!

だが、実はここに至るまでにこの親子には様々なドラマがあったのだ。そのドラマをたどるのが本作である。

1970年代。ヴォーゲル夫婦とジェニファー、弟ニックの4人は仲の良い家族だった。子供たちが幼い頃の父ジョンは、「平凡な日々を見違えるほど驚きの瞬間に変えてくれる」父親で、いつも家族を喜ばせようとしていた。その鮮烈な思い出が、8ミリフィルムなども使いつつ美しい映像で綴られる。光を効果的に使ったキラキラ輝く、そしてどこかノスタルジックな映像。これがこの後のドラマで大きな効果を果たす。

その後、実はジョンがとんでもない男であることが明らかになる。事業の失敗を家族に押し付けて逃亡し、言い訳ばかり並べるロクデナシなのだ。しかも、たちの悪いことに自分を美化するために平気でウソをつくのである。

だが、子供たちはそんなことを知る由もない。だって、子供の前では本当に良い父親の顔をするのだから。父に去られた母は借金苦に追われ、アルコールに溺れる。必然的に彼らはますます父の肩を持ち、一時は父のもとへ身を寄せる。

やがて1980年代になり、ジェニファーが高校生になると、彼女はドラッグに溺れる。母の再婚相手の存在など危険な兆候もあった。ジェニファーは自分を守ってくれない母に愛想をつかして、父ジョンのもとへ行く。

だが、そのころのジョンは相変わらずダメな生活を送っていた。それを見たジェニファーは、2人で再出発を図ろうとする。だが……。

父親に対する憧れがいつしか揺らぎだし、ある決定的な出来事によってジェニファーは父への反抗心を抱くようになる。そして、彼女は自立への道を模索する。それだけなら彼女の成長譚として十分に成立するのだが、そこに抜き差しならない父娘の絆というものが関わってくる。どんなに父を嫌いになろうとも、ジェニファーは完全には絆を断ち切れないのである。それを物語るのが冒頭の偽札を手にしたシーンだ。

実は父を見放して、ジェニファーがジャーナリストを目指すべく、大学に入ろうとする場面がある。そこで彼女は願書にウソを書く。それはもちろん父の存在を知られたくない一心からなのだが、父のジョンが虚勢を張って平気でウソをつく人であることを考えれば、何とも皮肉なことである。

心の中で見限ってはいても、その奥底ではまだ愛を感じている。どうなってもかまわないと思いつつ、それでも放っておけない。そんなジェニファーの微妙な心理の綾や、他人から見れば理解しにくいだろう家族の関係性をスクリーンに描き出して、見る者に問いかける。家族の絆とは何か、と。それが本作の肝なのだ。

1970年代以降の時代を象徴する楽曲など、音楽の使い方も巧みで、ドラマを大いに盛り上げている。

本作で父と娘を演じているショーン・ペンとディラン・ペンは、親子である。ディランはショーンと元妻の女優ロビン・ライト(当時は確かロビン・ライト・ペンと名乗っていた)の娘なのだ。オシドリ夫婦として知られた2人は、ある日突如として離婚して世間を驚かせた。当時、ディランはたぶん10代だろう。その時の彼女の気持ちや、実際の父と娘の関係性を何かと想像してしまう。

はたして、それはショーンが意図したものなのかどうかは知る由もないが、とにもかくにも、繊細なジェニファーの心理を表現して見せたディランは、今後が楽しみな女優である。

そして、ショーン・ペンは、良き父親とロクデナシという二面性を見事に演じ分けて見せている。特に、久しぶりに会ったジェニファーの前で無理してカッコをつける姿が切なくて、哀愁を漂わせている。

ついでにジェニファーの弟役は、同じくショーン・ペンロビン・ライトの実の息子であるホッパー・ジャック・ペンが務めている。こちらも出番はそんなに多くないが、存在感を見せている。

◆「フラッグ・デイ 父を想う日」(FLAG DAY)
(2021年 アメリカ)(上映時間1時間52分)
監督:ショーン・ペン
出演:ディラン・ペン、ショーン・ペンジョシュ・ブローリン、ノーバート・レオ・バッツ、デイル・ディッキー、エディ・マーサン、ベイリー・ノーブル、ホッパー・ジャック・ペン、キャサリン・ウィニック
*TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開中
ホームページ https://flagday.jp/

 


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「夜、鳥たちが啼く」

「夜、鳥たちが啼く」
2022年12月21日(水)新宿ピカデリーにて。午後1時15分より鑑賞(シアター10/E-8)

佐藤泰志原作。傷ついた男女の危うい恋愛

佐藤泰志芥川賞候補に5度ノミネートされながら、41歳で自殺してしまった作家。死後、その作品は高く評価されて、これまでに「海炭市叙景」(2010年)、「そこのみにて光輝く」(2014年)、「オーバー・フェンス」(2016年)、「きみの鳥はうたえる」(2018年)、「草の響き」(2021年)と、5本の映画が製作されている。ちなみに、私は「草の響き」以外はすべて鑑賞している。

そして、6本目の映画化となったのが、同名短編小説を映画化した「夜、鳥たちが啼く」である。監督は城定秀夫。脚本は「そこのみにて光輝く」の高田亮

しかしなぁ。城定監督の映画はエロいのが多いからなぁ(除く「アルプススタンドのはしの方」)。この間の「ビリーバーズ」なんて、よくもR15で収まったと思うほどエロかったもんなぁ。今回もR15でエロ必至。この年末にエロはちょっとなぁ(笑)。

などと思いつつ、映画館に足を運んだのだが、結果的にはエロ度はそれほど高くなかった。まあ、1カ所ある濡れ場はかなり濃密なものなので、R15は仕方のないところだろうが。

売れない小説家の慎一(山田裕貴)。若くして賞を取ったものの今は鳴かず飛ばず。昼間はコピー機の保守のアルバイトをしながら、夜は自身のみじめな姿を綴った小説を書いていた。

ある日、慎一のもとに、シングルマザーの裕子(松本まりか)が幼い息子アキラを連れて引っ越してくる。慎一は一軒家を母子に提供し、自身は離れのプレハブで寝起きする。こうして母子と慎一の奇妙な半同居生活が始まる。

簡単にいえば、傷ついた男女のピュアな恋愛物語である。佐藤泰志の原作モノとしては異色と言っていいほどのシンプルなドラマだ。

最初は慎一と裕子の関係はわからない。恋人とも呼べないし、かといって赤の他人でもない。いったいこの2人はどうなっているのだ???

とにもかくにも、母子と慎一は少しずつ交流を重ねる。何しろ冷蔵庫と風呂は母屋の一軒家にあるから、自然に接触せざるを得ないわけだ。それでも最初は互いに深入りしないように、距離を置いて交流を重ねる。

そんな現在進行形のドラマの合間に、回想が挟み込まれる。慎一はこの家で恋人と同棲していたが、彼のあまりの嫉妬深さから、恋人と勤務先の店長との関係を邪推し、さらには小説がうまくいかないこともあり、大暴走してしまうのである。そして2人は別れることになる。

一方、現在進行形のドラマでは、父親の不在を埋め合わせるかのようにアキラは慎一を慕うようになる。慎一もどこか寂しげなアキラのことを気遣うようになる。

その合間にさらに回想は続く。今度は裕子の過去が明らかになる。そして慎一との関係も。要するに、裕子は慎一のバイト先の先輩の奥さんだったのだ。しかし、ある事情によって彼女は夫と別れることになる。それがまた信じがたい事情なのだ。

うーむ、これって、佐藤泰志の原作通りなのだろうか。だとしたら、ずいぶん安直な展開だと思うのだが。原作を読んでないのでよくわからんが。

ちなみに、慎一のバイト先がライブハウスなのだが、そこで演奏しているのがなんとG.D.FLICKERS。懐かしいなぁ。でも、なぜこうなった?

まあ、そんなこんなで現在に至る2人なのだが、どちらも過去の心の傷に苦しめられている。その反動か、慎一は癇癪を爆発させたりするし、裕子に至っては子供を置いて夜な夜な男漁りをしているらしいのだ。「らしい」というのは、その場面がほとんど出てこないからなのだが。

そんな2人がお互いの傷をなめ合うように、少しずつ距離を縮め、ついに関係を持つ。「今日は他の人とはしていない」てな発言を裕子がするところは、妙になまめかしい。

それでもこれ以上関係を深めることに裕子はためらう。期待すると裏切られる。そうなるのが怖いのだ。一方の慎一も、過去と同じようなことを繰り返すのを恐れている。はたして、2人に未来はあるのだろうか。

城定監督は、そんな2人の揺れ動く心情を、得意の長回しの映像でリアルに映し出す。全編に漂うどこか不穏な空気感も、2人の関係性を象徴するようだ。タイトルにある幼稚園で飼っている鳥も不気味な感じがする。

だが、ラストは意外にも明るい。2人は問題を抱えつつも、とりあえず今の関係を続けながら、未来を探るつもりのようだ。単なる傷のなめ合いから、もう一つ先へと進むのかもしれない。アキラとともに3人で見る花火の鮮やかさが心をやわらげてくれる。

主演の山田裕貴は、これまであまり強い印象はなかったのだが、本作の慎一役の演技はとても良かった。過去の傷を抱えて、寡黙で、苛立ち、時にこらえきれずに爆発する。そんな姿をうまく表現していた。

一方の松本まりかは、エロすぎるだろう(笑)。城定監督の映画だから当然そうなるわけだが、「ビリーバーズ」の北村優衣に負けず劣らずエロい。もちろんエロいだけでなく、迷える裕子の心を繊細に表現する演技も絶品。あんな人が実際にいたら。絶対にヤバイ!

◆「夜、鳥たちが啼く」
(2022年 日本)(上映時間1時間55分)
監督:城定秀夫
出演:山田裕貴松本まりか、森優理斗、中村ゆりか、カトウシンスケ、藤田朋子宇野祥平吉田浩太、縄田カノン、加治将樹
新宿ピカデリーほかにて公開中
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「子猫をお願い」

子猫をお願い」4Kリマスター版
2022年12月20日(火)ユーロスペースにて。午後2時20分より鑑賞(ユーロスペース1/E-8)

~5人の女性の友情物語。何年たっても色あせない青春映画の傑作!

私の大好きな韓国の女優ペ・ドゥナ。過去の出演作はできる限り観るようにしているが、見逃している作品も多い。青春映画の名作と言われる2001年の「子猫をお願い」は観ただろうか。劇場では観ていないが、配信で観たような気もする。しかし、記憶は曖昧だ。

そんな中、なんと約20年の時を経て、4Kリマスター版が製作されて公開になるというから、さっそく出かけてきた。

結論から言えば、これは紛いもなく青春映画の名作、いや傑作だ!

描かれているのはインチョンに住む高校時代の仲良し5人組の卒業後。

ヘジュ(イ・ヨウォン)はソウルの証券会社で働きながら、出世を夢見ている。だが、実際の仕事は雑用係。それでも忙しい毎日を送っている。

ジヨン(オク・チヨン)は芸術の才能があり、海外で勉強することを夢見ている。だが、父母はすでに亡く、祖父母とともに貧しい暮らしを送っている。しかも、失業して仕事がなかなか見つからない。

いつも明るい双子ピリュとオンジョ(イ・ウンジュ&イ・ウンシル)は、中国系の母親のもとで育ったが、祖父母と母との仲は険悪らしい。

一方、テヒ(ペ・ドゥナ)は、無給で家の仕事を手伝いながらフリーターをしていた。いつか広い世界に飛び出すことを願っていたが、今はボランティアで知り合った脳性麻痺を患った詩人を好きになり、彼の詩を口述筆記していた。

この5人は折あるごとに集まって、楽しくやっていた。だが、環境が変われば、徐々に5人の距離にも微妙な変化が見える。

ヘジュは華のOL生活を楽しんでいる。洋服を買うのが大好きだ。だが、無職のジヨンはそんなヘジュの行動が気に障ってしょうがない。2人は互いに反発するようになる。

テヒはそんな2人の中を何とか修復しようとする。だが、彼女もまた惑いの最中だ。口うるさく無理解な父親に不満タラタラなのだ。とはいえ、家を飛び出す勇気もまだ持てなかった。

チョン・ジェウン監督は、そんな5人の揺れる心をビビッドにスクリーンに刻む。20年前とはいえすでに携帯は普及しており、その文字をスクリーン上に巧みに投影させたりする。音楽の使い方もおしゃれだ。ソウルやインチョンの街並みも効果的に使われている。

タイトルにある「子猫」は、5人を結び付ける存在として登場する。最初ジヨンが子猫を拾いティティと名付ける。だが、祖父母が嫌ったこともあり、彼女は誕生プレゼントにヘジュにティティをあげる。ところが、ヘジュは世話が大変だと突き返す。このあたりから。両者の仲がギクシャクし始める。

5人に共通しているのは、将来への不安だらけだという点だ。それが5人の関係にも影を差す。高校時代のように、無邪気にはしゃいでばかりはいられないのである。

最近の韓国映画には、様々な社会問題が背景に織り込まれていることが多いが、20年前に製作された本作にもそれが見て取れる。一握りのキャリアを覗いて女性の社会進出はまだまだ難しく、ほとんどの人は雑用係をさせられてしまう現実。あるいは貧富の格差。学歴社会。家父長制の呪縛もある。それらは今も韓国社会のみならず、日本にも共通する課題だ。本作が今でも色あせないのは、そうしたことも影響しているのではないだろうか。

彼女たちは、そうした社会問題や世間の呪縛から逃れて自由になれるのか。不安を振り払って前に進んでいけるのだろうか。その象徴として、劇中に「ナイフ」が登場するという指摘を読んで、なるほどと思ったりもした。

終盤は大きな出来事が起こる。事故でジヨンの祖父母がなくなってしまうのだ。そして、それに絡んでジヨンは……。

それでも最後は明るい未来を感じさせる。ジヨンとテヒの旅立ちを描く。それは不安だらけで先の見通しの立たないものだ。だが、彼女たちは確実に自由への第一歩をつかんだのである。もちろん、ティティの落ち着き先はちゃ~ん考えての旅立ちだった。

この先も5人は、傷ついたり葛藤しながらも、前を向いて生きていく。そう感じさせるエンディングだった。

ちなみに、本作に出演した5人は、バリバリの第一線で活躍しているペ・ドゥナはじめ今も元気で活躍しているという。それもまた素敵なことだと思う。

それにしても、ペ・ドゥナは20年前からタバコ姿が似合っている。ヤサグレ感が半端ない。最近では三浦透子のタバコ姿も似合っていたが、まだまだ先輩には負けるわ。

あの時代、この役者、この監督だからできた映画という気がする。名作は色あせないというが、本作はまさにそういう映画。もう一度言う。青春の光と影を見事にスクリーンに刻んだ青春映画の傑作だ!

◆「子猫をお願い」(TAKE CARE OF MY CAT)
(2001年 韓国)(上映時間1時間52分)
監督・脚本:チョン・ジェウン
出演:ペ・ドゥナ、イ・ヨウォン、オク・チヨン、イ・ウンシル、イ・ウンジュ
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「そばかす」

「そばかす」
2022年12月19日(月)新宿武蔵野館にて。午前11時55分より鑑賞(スクリーン1/D-10)

~普通ってなんだ?誰にも恋愛感情を持てない女性の世間の常識とのバトル

前回取り上げた「ケイコ 目を澄ませて」を再度鑑賞してきた。前回のシネマ・ロサに続いて今度はテアトル新宿にて。音響の良さもあり前回とは違う発見もあった。そしてケイコや周囲の人々の心情がさらにリアルに伝わってきて、ドラマの輪郭がよりクッキリと浮かび上がった。私的には今年の日本映画のベスト1だと確信した。

その製作に関わっているメ~テレ(名古屋テレビ)は、今年開局60周年を迎えたこともあり映画づくりに熱心だ。なかでも、(not)HEROINE movies/ノットヒロインムービーズというシリーズは、すでに第一弾の「わたし達は大人」、第二弾の「よだかの片想い」が公開になり、新たに第三弾の「そばかす」が現在公開中だ。いずれも迷える若い女性を描いた見応えある作品である。

30歳になる蘇畑佳純(三浦透子)は、チェリストになる夢を諦めて、実家暮らしをしながら地元のコールセンターに勤務していた。妹(伊藤万理華)が結婚・妊娠したこともあって、母親(坂井真紀)は佳純に早く結婚してほしいとプレッシャーをかける。だが、佳純はこれまで一度も恋愛したことがなく、そもそも恋愛感情というものを抱いたことすらなかった。それを誰にも理解してもらえず、いら立ちを募らせる佳純。ついに母親は彼女に無断でお見合いまでセッティングしてしまうのだが……。

他者に恋愛的にひかれないのはアロマンチック、性的にひかれないのはアセクシュアルというそうだ。そういう人がいるという話は聞いたことがある。主人公の佳純もそうらしい。こういう設定はあまり聞いたことがない。

とはいえ、観客とかけ離れたドラマというわけではないだろう。「結婚しろ!」などと周囲にうるさく言われて、イライラ感を募らせている人や、世間の常識とやらに違和感を持つ人はたくさんいるはず。そんな人に希望を与える映画だ。

冒頭は合コンらしきシーン。男が佳純にアプローチしてくる。だが、佳純にまったくその気はない。

家に帰れば母親が結婚しろとうるさい。妹はすでに結婚・妊娠しているから、何かと比較される。父親は救急救命士だが、どうもうつ病らしい。ついでにおばあちゃんは3回離婚しているとか。

いや、こんなもん、ネタの詰め込み過ぎでしょう(笑)。この家庭だけでいくらでもドラマができそう。監督の玉田真也も、企画・原作・脚本のアサダアツシも、元々演劇畑の人らしいから、サービス精神過剰なのだろうか。芝居と一緒で何が何でも楽しませなければ帰さない!的な精神なのか!?笑いもたくさんある映画だが、そこにも過剰さを感じてしまう私なのだった。

でも、まあ、それを除けばなかなかに面白い映画だった。その後、佳純が様々な人々と出会って変化していくわけだが、それがみんな「普通ではない」人なのだ。

まず最初に出会ったのが、見合い相手の男。母親が無断でセッティングしたお見合いだけに、アウト・オブ・眼中。嫌々話してみたら、相手も結婚や恋愛に今は興味がないという。「今は」というのがミソなのだが、とりあえず気が合うからと佳純はその男と友達づきあいする。だが、その後2人の思いがすれ違う。

2人目に出会ったのはかつての同級生の男。今は保育士をしているという彼に誘われて、佳純はコールセンターをやめて保育園で働くことになる。そして彼は自らがゲイであることを打ち明ける。

3人目は元AV女優の真帆。しかも、彼女の父親は政界に出ようとしているのだ。浜辺で再会した真帆は、いきなり佳純をキャンプに誘う。すっかり意気投合した2人は、佳純が保育園で披露する電子紙芝居を一緒につくることにする。演目は「シンデレラ」。だが、それが男目線の作品であることに気づいた2人は、オリジナルの「シンデレラ」をつくることにする。

終盤、乗りに乗って電子紙芝居を披露するはずだった佳純だが、やはりそこで世間の常識とやらに翻弄される。口では「多様性を尊重」などと言いつつも、世間の本音は違っているのだ。それに対して真帆が反撃の狼煙を上げるなどして、その後は色々とすったもんだがあるのだが、いずれにしても佳純は自分の思い通りに生きる真帆を尊敬する。

クライマックスの真帆の結婚式シーンが素晴らしい。長らく封印していたチェロを弾く佳純のその表情に、万感の思いがこもる。

さらに、最後にはもう1つの出会いが……。そして疾走だっ!こういう映画のラストには疾走が最も似合っている。佳純とともに、観客の心もまた疾走するはずだ。

主演の三浦透子が素晴らしい。それほど派手な演技をするわけでもないのだが、実に豊かな表現力だ。佳純の様々な変化する心を見事に表現しきっていた。特にやさぐれ感漂うシーンは絶品。「ドライブ・マイ・カー」の時と同様に、タバコを吸う姿が様になっている。ついでに彼女は、主題歌も歌っている。これがなかなかに良い歌声なのだ。

真帆役の前田敦子ら脇役陣もいい味を出している。坂井真紀や三宅弘城三浦透子の父母役で違和感ないもんなぁ。年取ったなぁ。

あまりアロマンチックとかアセクシュアルとかに、こだわって観ないほうがいいかもしれない。そこを特に深く追求しているわけではない。むしろ世間の常識というものに違和感を持ち、もがき苦しみながら、自分の生き方を見つけて行く女性のドラマとして観たほうがわかりやすいだろう。三浦透子の演技だけでも観る価値がある。

佳純の好きな映画が、トム・クルーズの「宇宙戦争」というのが笑える。それ以外の映画では、目的に向かって走るトムだが、この映画ではただ一目散に逃げるだけ。それがいいというのだ。うーむ、やっぱ変わってるわ、この子(笑)。

◆「そばかす」
(2022年 日本)(上映時間1時間44分)
監督:玉田真也
出演:三浦透子前田敦子伊藤万理華、伊島空、前原滉、前原瑞樹、浅野千鶴、北村匠海田島令子、坂井真紀、三宅弘城
新宿武蔵野館ほかにて公開中
ホームページ https://notheroinemovies.com/sobakasu/

 


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「ケイコ 目を澄ませて」

「ケイコ 目を澄ませて」
2022年12月16日(金)シネマ・ロサにて。午後3時より鑑賞(シネマ・ロサ2/D-10)

~ボクシング映画の常識を覆す。聴覚障害の女子プロボクサーの葛藤と希望

ボクシング映画にはハズレが少ない。クライマックスの試合シーンに向かって劇的に盛り上げられたドラマが、人々の心を湧きたたせるのだろう。だが、そんなボクシング映画の常識を裏切るような映画が登場した。

「ケイコ 目を澄ませて」は実在の元プロボクサー・小笠原恵子をモデルにした映画。彼女の自伝「負けないで!」を原案としている。

生まれつきの聴覚障害で両耳とも聞こえないケイコ(岸井ゆきの)は、下町の小さなボクシングジムで黙々とトレーニングに打ち込み、プロボクサーとしてリングに立ち続けていた。しかし、愛想笑いができず、嘘やごまかしも苦手で不器用な彼女は、いつしか言葉にできない思いに押し潰されそうになり、ジムの会長(三浦友和)宛てに“一度、お休みしたいです”と書いた手紙を渡そうとするのだが……。

本作はケイコが障害を乗り越えて夢をつかむ感動物語ではない。差別をものともせずに、栄光に向かって突き進むヒロインを描いた映画でもない。ボクシング映画だから、試合や練習シーンは当然登場する。だが、劇的な要素とは全く無縁だし、仰々しい音楽が流れるようなこともない。あくまでもケイコや周囲の人々の日常を淡々と、そして丹念に追うのである。

早朝のランニング、ジムでの練習、試合、ホテルの従業員としての仕事、弟とのアパート暮らし。ざらついた質感の16ミリフィルムを使用していることもあって、それらの描写は実にリアルだ。まるで自分もケイコが住む下町の住人になって、彼女を見守っているような錯覚に陥る。

ケイコに関する細かな背景説明はない。生まれつき聴覚障害者であることと、それにもかかわらずボクシングのプロになったことがわずかに字幕で流れるだけだ。ボクシングを始めた動機や、家族との関係なども明確には語られない。徹頭徹尾、劇的な展開や過剰な描写を排した映画なのである。

ケイコは読唇術で多少は相手の言っていることがわかるものの、自ら言葉を発することはない。周囲の健常者とは身振り手振りでコンタクトを取り、ホワイトボードを使って会話をする。母や弟、そして同じ聴覚障害者とは手話で話をする。だから、観客はスクリーンに集中してケイコの感情を読み取ろうとする。ちょうどサイレント映画を観るように。

手話の会話については、基本的に字幕でその内容を知らせる。だが、1カ所だけそれをあえてはずしたシーンがある。

それは同じ聴覚障害の友人たちと食事をするシーン。何やら楽しげに手話で語らう彼女たち。ケイコははじけるような笑顔を見せる。ふだんは不愛想でほとんど笑顔を見せることなく、いつも何かに立ち向かっているかのような険しい顔をしているケイコ。それがまったく違う表情を見せるのである。

このシーンを観て私は普段のケイコがいかに周囲に気を遣い、不安や恐怖と戦いながら生きているのかを実感した。彼女の周囲の健常者はみな優しい。ジムの関係者はもちろん、職場の人たちも彼女に温かく接する。だが、それでもそこには乗り越えられない壁が存在するのである。

そもそも聴覚障害でボクシングをするのがいかに難しいことか。会長のインタビューでも語られるが、レフリーの声もセコンドの指示も、ゴングの音さえ聞こえない中で、いわば孤立無援の戦いを強いられる。それだけで凄まじいプレッシャーなのだ。

そうした気苦労ゆえか、ケイコはボクシングを休もうと考える。だが、会長宛てに手紙を渡そうとした時に、彼女はジムが閉鎖されることを知る。

この一件も劇的な展開にはもっていかない。かなり早い段階から会長は病気らしいことがわかるのだが、それを過剰に煽り立てたりはしない。

会長の決断を聞いてケイコの心は乱れる。この会長とケイコの絆こそが、ドラマの大きな肝になる。会長はケイコの心情を理解し、「ケイコは人間としての器量があるんですよ」と語る。そしてさりげなく、彼女に寄り添う。その思いは自然にケイコにも伝わる。

クライマックスはボクシング映画らしい試合のシーンだが、ここでも派手さはない。武骨なまでに闘志むき出しで相手にぶつかっていくケイコ。その姿をリアルに捉える。

そして川べりでのラストシーン。ケイコの表情の変化を見て私は確信した。どんな道を選ぼうと、彼女は前を向いて歩いて行くに違いないと。清々しくも、余韻の残るラストシーンだった。

何よりもセリフなしの演技で、ケイコの揺れる心情を余すところなく表現して見せた岸井ゆきのが素晴らしい。「愛がなんだ」「犬も食わねどチャーリーは笑う」などの過去作とは全く違う役柄。ここまでケイコになり切れるとは。セリフがないだけに、表情や肉体で全てを表現しなければいけないが、それを見事にやり遂げている。彼女にとって大きなステップとなった映画だろう。

会長役の三浦友和のたたずまいも味わいがある。その背中に哀愁を漂わせながら、さりげなくケイコを支える。彼ならではの演技だろう。ちなみに彼の妻役は仙道敦子。久々に観たなぁ。

監督は「きみの鳥はうたえる」の三宅唱。彼の作家性が全開になった映画といえる。従来のボクシング映画とは一線を画した映画だが、岸井ゆきのの演技だけでも観る価値がある。派手さはないが、静かに見るものの心を揺さぶるはずだ。個人的には今年のベストにランクされる映画かも。

◆「ケイコ 目を澄ませて」
(2022年 日本)(上映時間1時間39分)
監督:三宅唱
出演:岸井ゆきの、三浦誠己、松浦慎一郎、佐藤緋美、中原ナナ、足立智充、清水優、丈太郎、安光隆太郎、渡辺真起子中村優子中島ひろ子仙道敦子三浦友和
ユーロスペーステアトル新宿ほかにて公開中
ホームページ https://happinet-phantom.com/keiko-movie/

 


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「ハッピーニューイヤー」

「ハッピーニューイヤー」
2022年12月15日(木)グランドシネマサンシャイン池袋にて。午後1時10分より鑑賞(シアター1/e-4)

~年末のホテルで繰り広げられる14人の恋愛模様。韓国版「ラブ・アクチュアリー

この間、ある人から「楽しい映画を紹介してくれ」と言われて愕然とした。観る映画のほとんどは、暗かったり(微かな希望はあるにしても)、色々と考えさせられたり、重たい映画ばかりで、楽しい映画などほとんど観ていなかったのだ。

こんなことではいかん!というわけではないが、何か楽しい映画はないかと思ったら、あるじゃないですか。韓国映画「ハッピーニューイヤー」。噂に聞けば、誰もが幸せな気分になれる映画らしい。よし!これにしよう。

クリスマス頃から大晦日にかけてのドラマである。ホリデームードに浮き立つ高級ホテル「エムロス」を舞台に、様々な男女の恋愛模様が描かれる。

男友達への告白を15年間もためらっているホテルのマネージャーのソジン(ハン・ジミン)は、「今年中に告白される」という占いの結果を知らされ、ウキウキし始める。ところが、相手の男・スンヒョン(キム・ヨングァン)は別の女性(コ・ソンヒ)と婚約したという。

ホテルのCEOヨンジン(イ・ドンウク)は、自宅のボイラーが故障したためホテルのスウィートルームに滞在することになる。そこで、ミュージカル女優志望のホテル従業員のイヨン(ウォン・ジナ)と知り合う。

公務員試験に合格できず、恋人にもフラれたジェヨン(カン・ハヌル)は、自殺を決意してホテルに滞在するが、ホテルのモーニングコール担当(ユナ)の声に癒される。

ホテルのドアマンのサンギュ(チョン・ジニョン)は、40年前の初恋の女性キャサリン(イ・ヘヨン)に再会する。

長い下積みを経てスター歌手となったシンガーソングライターのイ・ガン(ソ・ガンジュン)は、長年のマネージャー、サンフン(イ・グァンス)との契約満了が近づいていた。

ソジンの弟の高校生セジク(チョ・ジュニョ)は、アヨン(ウォン・ジアン)に片思いしているが、恥ずかしくて告白できない。

毎週土曜、「エムロス」でお見合いをする整形外科医ジンホ(イ・ジヌク)は、イケメンなのになぜか毎回フラれていた。

えーっと、これで全員かな。とにかくなんと14人もの男女の恋愛模様(1組だけ友情物語だけど)が描かれるのだ。

普通、これだけの人物のドラマを描いたら、混乱して何が何だかよくわからなくなってくるもの。しかも、彼ら彼女らの恋愛模様だけでなく、サブストーリーまで色々と組み込んでいるのだ(イヨンと認知症の母の関係とか、ヨンジンの亡き父との確執のドラマとか)。

ああ、それなのに、それなのに、ほとんど混乱することもなく、きっちりと、軽快な運びでドラマを最後まで持っていくのである。日本でも「猟奇的な彼女」でおなじみのクァク・ジェヨン監督の職人技が光りまくるではないか。

笑いはもちろんたっぷりある。自殺志願のジェヨンを、あの手この手で思いとどまらせようとするホテル側の作戦は爆笑もの。感動させるところは感動させるし、はしゃぐところは思いっきりはしゃぐ。すべて観客の期待に応えているのだ。

登場人物の年齢がバラバラなのも面白い。下は10代のロマンスから、上は熟年のロマンスまで、様々な年齢層の恋愛ドラマが展開される。なので、観客は自分の年齢に見合ったロマンスに感情移入できるわけだ。このあたりも、なかなか周到に考えられている。

音楽の使い方もうまい。スター歌手のウ・ガンの曲ばかりでなく、全編で様々な音楽が巧みに使われている。

終盤は、スンヒョンの結婚式から、熟年カップルの降雪エピソード、さらに大晦日のパーティー、エムロスの臨時株主総会と怒涛の展開で見せ場たっぷり(実際に大晦日に結婚式や株主総会が開かれるとは思わないが)。ラストは見事に大団円を迎えて、その上エンドロールでその後の恋の行方を見せる。最後の最後まで抜かりがないのだった。

本作に出演している俳優たちは、「虐待の証明」「密偵」のハン・ジミン(魅力十分!)、「ビューティーインサイド」のイ・ドンウク、「ミッドナイト・ランナー」のカン・ハヌル、「あなたの顔の前に」のイ・ヘヨンなど、若手からベテランまで韓国の映画やテレビドラマで活躍する人気者が揃っている。あのクォン・サンウも本人役でカメオ出演している。それもまたこの映画にはふさわしい。

いわば韓国版「ラブ・アクチュアリー」といったところ。クリスマス時期にハッピーな気分にさせて欲しいという観客の期待に応えて、その狙い通りに仕上げられた映画である。年末年始に何にも考えずに観るには最適な一本だろう。

と言いつつ、次からはまた重たい映画を観そうな気がするなぁ……。

◆「ハッピーニューイヤー」(HAPPY NEW YEAR)
(2021年 韓国)(上映時価2時間18分)
監督:クァク・ジェヨン
出演:ハン・ジミン、イ・ドンウク、カン・ハヌル、イム・ユナ、ウォン・ジナ、イ・ヘヨン、チョン・ジニョン、キム・ヨングァン、ソ・ガンジュン、イ・グァンス、コ・ソンヒ、イ・ジヌク、チョ・ジュニョン、ウォン・ジアン
新宿ピカデリーほかにて公開中
ホームページ https://gaga.ne.jp/happynewyear/

 


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