映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「若葉のころ」

「若葉のころ」

@シネマート新宿にて。5月30日(月)午前11時15分より鑑賞。

 

時流に乗るというのは簡単なようで難しい。一歩間違えると、ただの軟弱なヤツと言われかねない。もともと中身のないヤツが時流に乗ったところで、人気を獲得するのは一瞬だけ。少し過ぎれば、すっかり忘れられた存在になってしまうのがオチである。まあ、一度も時流に乗ったことのないオレが言っているので、あまりアテにならない話だが。

 

音楽界にも時流に乗ったヤツがたくさんいるが、ビージーズはその最たるものだろう。折からのディスコブームに乗って、ディスコミュージックのヒット曲を次々に送り出した。その極めつけは、1977年製作のジョン・トラボルタ主演の映画『サタデー・ナイト・フィバー』のサントラだ。このアルバムでは、「ステイン・アライヴ」「恋のナイト・フィーバー」「愛はきらめきの中に」など、ビルボード1位6曲を含む7曲をビージーズが提供している(すんません。一部Wikipediaを参照しました)。

 

なので、このあたりからビージーズを知った人たちには、ディスコミュージックのイメージしかないだろうが、実は彼らにはそれ以前にも長いキャリアがあったのだ。イギリス人のギブ三兄弟を中心に構成されたこのグループは、1963年にオーストラリアでレコードデビュー、その後アメリカにも進出した。「マサチューセッツ」「ホリディ」などの数々のヒット曲がある。

 

そんな中でも、日本での最大のヒット曲は、1971年のイギリス映画『小さな恋のメロディ』の主題歌として起用された「メロディ・フェア」だろう。いやぁ~、あの曲が流れると、ついマーク・レスターとトレーシー・ハイドを思い出してしまいますなぁ。カワイかったなぁ、トレーシー。オレもかわいかったけど。あの頃は。

 

同じく『小さな恋のメロディ』として使われたのが「若葉のころ」だ。日本人の情感を刺激する優しい旋律が涙ものの曲である。そして、ズバリ、その曲をタイトルにした台湾映画がこのほど登場した。

 

ドラマの主人公は、離婚した母と祖母と台北で暮らす17歳の女子高生バイ(ルゥルゥ・チェン)。母ワン(アリッサ・チア)とコンサートに出かけるが、そこで母は高校時代の同級生リン(リッチー・レン)を見かける。そんなある日、母が交通事故で意識不明の重体に陥ってしまう。偶然にも母のパソコンからリン宛の未送信メールを発見したバイは、母の青春に思いをはせ、代わりにリンに「会いたい」とメールを送る。一方、バイは親友のウェンと男友達のイエを巡って思わぬ事態に陥る……。

 

というわけで、この映画では2つの初恋が描かれる。1つは1982年の母ワンの初恋。そしてもう1つは2013年の娘バイの初恋。それぞれのストーリー自体はどこかで見たようなもので深みはない。母ワンの初恋は相手のリンが起こしたある事件によって終わりをつげ、娘バイの初恋は親友ウェンと男友達のイエを巡って大変な事態になるが、それとて驚くような展開ではない。

 

それでもこの映画を見捨てることはできない。オレは最後まで飽きずに観た。てか、かなり面白かったです。ハイ。その最大の理由は、瑞々しく、美しい映像にある。母の初恋のドラマで男子学生たちが校舎からレコードを放り投げるシーンなど、印象的なシーンが次々に飛び出すのだ。監督のジョウ・グータイはミュージックビデオを手がけてきた人で、本作が長編初監督作品らしいが、なるほど、すべてのシーンがミュージックビデオになりそうなほど印象に残る。

 

そんな見事な映像から伝わるのは、初恋の揺れる思いや切なさなど、いつの時代も変わらない若者たちの心情だ。それも単なる上っ面だけの描き方ではない。バイが恋に苦しみ泣き叫び身もだえするシーンを長めに映すなど、内面までしっかりと伝えようとする意志が感じられる。

 

そしてもちろん「若葉のころ」も登場する。「若葉のころ」のレコードをめぐって、母ワンと初恋相手リンとが微妙にすれ違い、それを背景にこの曲が効果的に使われ、ノスタルジックな気分を誘う。

 

キャストも素晴らしい。特に女子高生バイと30年前の母ワンの二役を演じたルゥルゥ・チェンのキラキラ度が抜群だ。どんなに映像が見事でも、彼女なしにこの映画の瑞々しさは出せなかっただろう。

 

できればメールの設定などをもう少しうまく構成すれば、さらにグッとくる映画になった気がするのだが、まあ、それは置いておこう。青春映画の肝はなんといっても瑞々しさ。台湾映画には『藍色夏恋』『あの頃、君を追いかけた』など瑞々しい青春ラブストーリーの佳作が多く、台湾映画のお家芸になりつつあるが、切なく瑞々しい青春ラブストーリーである本作も、けっしてそれらに引けを取らない出来の映画だと思う。

 

今日の教訓。初恋映画は胸にしみますなぁ。自分の初恋なんて、もはや影も形も思い出せないだけになおさらですぜ。

 

●今日の映画代1100円(シネマート新宿には「月曜メンズデイ」なる素晴らしいシステムがあります。月曜は男性が割引!男はみんな観に行け~!!)