映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「セトウツミ」

「セトウツミ」
ヒューマントラストシネマ渋谷にて。7月4日(月)午後1時50分より鑑賞。

高校時代に良い思い出など一つもない。何しろ男子校で女子に全く縁がなかった。他校の女子に接近しようにも、教師の監視の目が光っていて不可能だった(いつの時代やねん!)。

それだけでも暗黒の高校時代なのに、オレには友達が1人もいなかった。いや、学校に行けば普通にまわりのヤツと口をきいたし、放課後レコード屋などに誰かと一緒に行った記憶はあるのだが、それが友達だったかと言われると甚だ疑問である。

部活もやってなかったし(一時的に参加したことはあるがすぐにやめた)、趣味に熱中したということもなかったから、そういう関係の友達もいない。いったい、オレは高校時代に何をやっていたのだ? あーあ、何のとりとめもなくただ無駄話するような友達とかがいたら、オレの高校時代もずいぶん変わっていただろうな~。

此元和津也のコミックスを『まほろ駅前多田便利軒』『さよなら渓谷』の大森立嗣監督が映画化した『セトウツミ』を観て、オレはそんなことを思った。これは、まさにユル~イ友達同士の映画だ。高校2年生の内海想(池松壮亮)と瀬戸小吉(菅田将暉)の2人が、河原の石段でただおしゃべりするだけ。あとは何もない。

いやいや、正確に言えばそれなりの工夫はある。季節ごとに何パートかに分けて描いているし、2人の会話に出てくるアイテムを映像化したり(猫の話をしたら猫の映像を見せたり)、河原にやってくる人たち(不良とその父親、バルーンアーティスト、同級生の美少女の樫村さんなど)を登場させたりと、色々と目先は変えているのだが、それでも基本は2人の会話劇である。

その内容は、はっきり言って無駄話ばかり。家のこと、学校のこと、女の子のこと、猫のこと、怪談話、虫や食虫植物の話などなど。最初から最後まで、どうでもいい話のオンパレードだ。多少はシリアスになりかけるところもあるものの、すぐにまた無駄話のトーンに戻ってしまう。それでも、その無駄話がオフビートな笑いに満ちていて、ムチャクチャに面白いのだ。

何より2人のキャラが立っているのがいい。メガネ男子の内海は頭がよくて冷静沈着な男子。一方のツンツン頭の瀬戸は元サッカー部で熱血キャラだがお調子者。そしてかなりの小心者。塾に行くまでに時間がある内海と、部活をやめてやることがない瀬戸。2人の時間潰しのニーズが合致して毎度おしゃべりをするワケだ。

内海と瀬戸はまるで漫才のような会話を展開する。大阪が舞台ということで、2人の大阪弁もいい味を出している。これがホンマにボケとツッコミ。ええ味を出しとるんですわ(て、オレまで大阪弁を使う必要はないが)。会話の間も絶妙で、最初から最後まで笑いこけてしまいましたがな。

内海役の池松壮亮と瀬戸役の菅田将暉もハマリ役。よくぞこんな名コンビをキャスティングしたものだ。この2人でいくらでも続編が作れそうである。

まあ、正直なところ、楽しい以上の何かがあるかといえば、「うーむ」という感じの映画ではある。それでも、内海と瀬戸のホンワカした友情には好感が持てるし、「そういえば自分も高校時代にあんな無駄話をしてたっけ」と観客が共鳴しそうな部分もある。そして何よりも、「一生懸命になるだけでなく、ああいう無駄な時間もいいんじゃない」という作り手の温かな視線が心地よいではないか。

主人公たちが無駄話をするように、観客も1時間15分の間、まったりと楽しく笑ってみてもいいかもしれない。そういう映画である。

今日の教訓 オレにもセトとウツミのような友達がいたら、つまらん高校生活も少しは楽しくなったかもしれない。いまさらそんなことを言ってもしょうがないけど。

●今日の映画代1300円(今日もテアトル系の会員料金で。とはいえ、ヒューマントラストシネマ渋谷に来るのは久々。オシャレなビルにあるけど、オシャレでないオッサンも大丈夫です。)