「ミモザの島に消えた恋」
ヒューマントラストシネマ渋谷にて。2016年7月24日(日)午後2時5分より鑑賞。
ここだけの話だが(と言いつつ、今まで何度も話している気がするが)、今よりも経済的に余裕があったン十年前にヨーロッパを旅行したことがある。ツアーではなく全部自前の強行スケジュールだったが、その間パリにも一泊した。
その際に最も印象的だったエピソードがある。レストランの予約をしようと思ったものの、片言の英語ぐらいしかできない当方が、電話で「Can You Speak English?」と聞いてみたところ、次々に「No!」と完全拒否されたのだ。「商売っ気のねぇヤツらだなぁ」と呆れたのだが、後で聞いてみるとフランス人の中には、フランス語に誇りを持っていて、英語を理解していても理解していないフリをする連中が多いらしい。
そんな頑固なフランス人をオレはどうにも好きになれないのだが、少なくとも映画に関してはかの国は名作を次々に送り出してきた映画先進国である。日本でも毎年フランス映画祭なるものが開催されている(オレは行ったことがないが)。その今年の上映作品の1本が一般公開された。『ミモザの島に消えた母』(2015年 フランス)である。
ナチスの収容所を体験した少女と、事件の真相に迫るアメリカ人女性ジャーナリストを描いた『サラの鍵』(2010年)の原作者タチアナ・ド・ロネの小説を映画化したミステリードラマだ。
「ミモザの島」と呼ばれるフランス大西洋の美しい島。30年前に、この島の海で若い母親が溺死した。その死に疑問を抱いた彼女の息子アントワン(ローラン・ラフィット)は、真相を突き止めるために、妹のアガット(メラニー・ロラン)を伴い島へと向かう。だが、父も祖母も母の死について頑なに口を閉ざし、語ろうとしなかった。ますます不信感を募らせ、当時のことを調べるアントワンだったが……。
「ミモザの島」とは、正式な名がノワールムティエ島というフランス大西洋の島。実はこの島は干潮時には陸続きになり、そこを渡っていくことができる。これが、母の死の真相とつながってくる仕掛け。この仕掛けが実に秀逸だ。
アントワンが関係者に話を聞き、古い写真なども使って真実を追うという展開は定番ではあるものの、スリリングでミステリーとしての魅力がある。特に肝心の父親と祖母が全く語ろうとせず、アントワンをいさめようとする展開が謎を増幅させていく。
その一方で、アントワンが調査に引き込んだ妹のアガットは、兄ほど母への思い入れがなく、継母の存在もあって及び腰になるなど、兄妹のすれ違いもきちんと描かれている(それが冒頭の大きな事故を招いたりして……)。
そんなミステリー的な側面と同時に描かれるのが、アントワンの心の軌跡。40歳の彼は母の死が今もトラウマとなり、仕事もうまくいかず、妻とも別れ、子供ともたまにしか会えない。精神状態も不安定でカウンセリングを受けている。
とくれば、そんなアントワンが事件を追ううちに少しずつ心情が変化して、やがてポジティブに人生に向き合うようになる……という展開を想像しがちだが、そこまでキッチリとは描かれていない。アントワンに新しい恋人ができたり、最初のトラウマもなんのその、途中からは正義のヒーローも真っ青の猪突猛進ぶり。おかげで、ストレートに胸に響いてこないのである。父親などの家族の心情も、ツッコミ不足で描き切れていない。
原作モノということもあるのだろうが、もう少しいろんなものを整理して、一本筋の通ったドラマにしたほうが良かったと思う。詰め込みすぎて散漫になってしまった印象はぬぐえない。
とはいえ、最初は男性との不倫・自殺を疑わせた母の死の意外な真相や、それをめぐる親子の確執などは興味深いし、ミステリー的な側面から見れば、まあまあよくできた映画だと思う。
アントワンを演じた『ムード・インディゴ うたかたの日々』『クリムゾン・リバー』のローラン・ラフィット。妹アガットを演じた『イングロリアス・バスターズ』のメラニー・ロランなど、俳優陣の演技もなかなかのものだ。
今日の教訓 あれからン十年!(きみまろ風に)フランスも大変なことになっておりますなぁ。
●今日の映画代1300円(テアトル系の会員料金です。テアトル系の映画館にいくら金を使ってるんでしょう。表彰して欲しいほどだわぁ~)