映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「角川映画祭」その3~「時をかける少女」

角川映画祭」その3~「時をかける少女
2016年8月7日(日)角川シネマ新宿にて。午後2時より鑑賞。

言わずと知れた「時をかける少女」である。筒井康隆の小説で、何度も映画やテレビドラマ化された名作である。その中でも、特に有名なのが1983年の角川映画時をかける少女』だ。ところが、なんとこのオレは生まれてこの方、この映画を一度も観たことがなかったのだ。

その理由は、原田知世のアイドル映画という印象が強かったからだ。大林宣彦監督作品とはいえ、ヒネクレもののオレは、アイドル映画をバカにしていたのである。それからウン十年。角川映画祭で上映されるとあっては、観に行かないわけにはいくまい。

高校1年生の芳山和子(原田知世)は放課後に学校の理科教室の掃除をしているうちに、実験室で白い煙とともに立ちのぼったラベンダーの香りをかいで、意識を失い倒れてしまう。それ以来、不思議な現象に悩まされるようになった和子は、同級生の深町一夫に相談するのだが……。

タイムトラベルもののSF青春ドラマである。そして、これはまがいもなく正真正銘のアイドル映画である。特に前半を中心に、主演の原田知世をひたすら初々しく、瑞々しく、「これでもか!」とばかりに魅力タップリに見せていく。エンディングで原田知世が主題歌を歌いながら小芝居する展開なども、まさしく今に続くアイドル映画の伝統である(そういえば、ももクロの『幕が上がる』のエンディングもそうだったっけ)。

とはいえ、そこはやっぱり大林宣彦作品。映像的に見どころが満載だ。オープニングとエンディングの画角の狭い映像。モノクロが風景の一部から少しずつカラーに変化するところ。後半で原田知世が真実を知り、理科室で倒れた後に登場するアバンギャルドなシーンなどなど。最近の大林作品にも受け継がれているアート的な要素が、いたるところに詰めこまれている。

この映画は、「転校生」「さびしんぼう」とともに、大林監督の尾道三部作であり、ロケの多くを広島県尾道市で行っているわけだが、その土地柄も巧みに生かしつつ叙情的な世界を構築している。それを背景に、タイムトラベルに寄りすぎず(てか、前半なんてほとんどそれと関係ないシーンだし)、思春期の少女の恋愛への目覚めに焦点を絞った切り口が素晴らしい。

原田知世のカワイさは桁外れだが、それ以外のキャストもなかなか面白い。上原謙入江たか子の老夫婦は、さすがに名優同士だけあって味わいがある。岸部一徳根岸季衣の教師コンビの若々しさも印象的。原田知世の相手役の高柳良一は典型的な二枚目男子。むしろ尾美としのりの三枚目ぶりが際立つ。あの人、当時から飄々としてたのね。

というわけで、基本は原田知世のためのアイドル映画ではあるが、それにとどまらない魅力をもつ作品だ。あのライムスター宇多丸も絶賛しているらしいが、なるほどと思わせられた。もっと早く観ておけばよかったな。