映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「エル・クラン」

「エル・クラン」
YEBISU GARDEN CINEMAにて。2016年9月23日(木)午後10時10分より鑑賞

東京・恵比寿のサッポロビール工場跡地の再開発事業として、1994年に開業した「恵比寿ガーデンプレイス」。その一角にミニシアターの「YEBISU GARDEN CINEMA」がある。この映画館、なかなか波乱にとんだ歴史をたどっている。オープン後、ウディ・アレンの映画など味のあるラインナップで人気を博していたが、2011年1月28日で休館。同年5月、なんとK-POP専用劇場「K THEATER TOKYO」となってしまったのだ。それを聞いて、「これでオレがガーデンプレイスに行くことは二度とないだろうな」としみじみ思った次第。ところが、2015年3月28日に以前の名前をほぼ引き継いだ(てか横文字になっただけやん!)「YEBISU GARDEN CINEMA」として再生したのだ。ブラボー!!

その背景には、経営に関する複雑な事情がありそうだが、この際、そんなことはどうでもいい。こうして、オレは再び恵比寿に足を踏み入れることになった。小ぶりながらオサレな映画館だ。1~2か月に一度はここで映画を観て、ガーデンプレイス内のバーガーキングでハンバーガーを食べるのである(別にどこでもいいんですけど)。しかも、経営はユナイテッド・シネマだ。このシネコン・チェーンの会員になっているオレは、安い会員料金で映画が観られるのだヨ。マンモス、ウレピー!(古くてスマン)。

さて、この日もオレはYEBISU GARDEN CINEMAにやってきた。今日観る映画は「エル・クラン」。誘拐事件をめぐる犯罪映画だ。舞台は軍事独裁政権から民政への移行期にあった1980年代のアルゼンチン。裕福なプッチオ家では、父アルキメデス(ギレルモ・フランセーヤ)を中心に妻と子供たちが幸せな暮らしを送っていた。しかし、マルビナス戦争フォークランド紛争)の敗戦がきっかけで、政府の情報管理官を務めていたアルキメデスは職を失ってしまう。それからまもなく、アルキメデスは長男アレハンドロの友人を誘拐し、自宅に監禁するのだが……。

プッチオ一家は、父親アルキメデスと妻、3人の息子、2人の娘からなる裕福な家庭。一見、普通の家庭人に見える父親とその子どもたち。だが、実は彼らは大きな秘密を抱えている。父のアルキメデスは身代金目的の誘拐を繰り返し、金を奪うと人質を次々に殺していたのだ。それだけならよくある話。ところが、そこにはさらに驚愕の事実が存在する。

それは何かというと、人質がプッチオ家のバスルームや地下室に監禁されていること。当然ながら、彼らは叫んだり、泣きわめいたりする。その声が時々聞こえたりするわけだが、一家は何事もなかったかのように普通に暮らす。凶悪な犯罪と一家だんらんが同居する風景がシュールすぎる。あまりのシュールさに最初は笑ってしまうのだが、次第に背筋がゾクゾクしてくる。ホラー映画も真っ青の展開だ。

とはいえ、全体のつくり自体はコワさを強調しているわけではない。父親たちの犯罪と、それと裏腹の家族の幸せな姿を、ポップな音楽(キンクスの曲など)をバックにテンポよく映し出している。それが逆にコワさを増幅させているのである。

ドラマの焦点は、父アルキメデスと長男アレハンドロの関係に当てられている。ラグビーのスター選手であるアレハンドロは、自分の友人を誘拐するなど悪事の限りを尽くす父親に反発を感じるものの、運転手役をやらされるなど結果的に片棒を担がされている。何とか父親と距離を置こうとするが、なかなかうまくいかない。

普通のドラマなら、このアレハンドロが最後に父親を告発して、すべてが露見する……てな展開になるのだろうが、そうはならない。事実は意外なところから露見するのである。

実は、この映画、冒頭から闇の組織の存在が匂わされる。アルキメデスは元独裁政権の情報組織に属していて、それとアルキメデスの行動は深くかかわっているようだ。「大佐」なる謎の人物たちが彼らの庇護者らしいのだが、激動の時代の中で彼らの態度も変化し始めたようで、それがアルキメデスたちを追い詰めていく(そのへんの事情は当時のアルゼンチンの状況を知らないと、ややわかりにくいかもね)。

ラストの展開は衝撃的。そして、その後にテロップで語られる後日談も驚愕の内容。まさかそんな……。まるで冗談みたいな話である。

しかし、これは冗談でもなんでもなく、なんと実話をもとにした映画だとのこと。「事実は小説より奇なり」とはよくいわれるが、これはまさにその典型。だからなおさら恐ろしいのだ。主人公一家の姿もコワければ、その背景になった社会の闇もコワい。いろんな意味でコワすぎる映画である。

コワいといえば、父親役を演じたギレルモ・フランセーヤの演技も見もの。特にあの目はハンパないコワさ。ああいう目をしたヤツがほんとのワルなんだろうな。

●今日の映画代1000円(ユナイテッド・シネマ系なので会員サービス料金で鑑賞。)