映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「PK」

「PK」
マスコミ試写(京橋テアトル試写室)にて。2016年9月2日(金)に鑑賞。

インド映画といえば、歌と踊りが満載で、いろんな要素もテンコ盛り。何が何でも観客を楽しませようとするのが特徴だろう。では、インドの人はみんなハッピーで楽しい毎日を送っているのか? 

そんなことはないはずだ。聞くところによると、厳しいカースト制度という身分制度があって、そういう憂さを晴らすためにも人々は、ひたすら楽しい映画を求めているという話もある。

だとしたら、ひたすら楽しいエンタメ映画にも、社会的な問題が織り込まれたりしないのだろうか。と思っていたら、まさにそういう映画に出会ってしまった。『PK』(2014年 インド)である。エンタメ映画の基本はきっちり押さえつつ、それだけでは終わらない作品だ。

映画の冒頭は宇宙船から宇宙人が降りたつシーン。しかし、この宇宙人、なぜか裸で登場。さらに、直後に宇宙船を呼び戻すリモコンを盗まれてしまう。何ともオマヌケなSFコメディー調の滑り出しである。

次は一転してラブロマンスが描かれる。舞台はベルギー。留学中のインドの女の子、ジャグー(アヌシュカ・シャルマ)は恋に落ちる。ここで早くも歌と踊りが登場。まさに青春ミュージカル!! ところが、相手の青年はパキスタン人のイスラム教徒。ジャグーはヒンドゥー教徒。宗教に入れ込むジャグーの父の反対もあって、この恋は悲恋に終わってしまうのだった。

それから少しして、ジャグーはインドに帰ってテレビのレポーターになっている。ある日、彼女は地下鉄で黄色いヘルメットを被って大きなラジカセを持ち、あらゆる宗教の装飾を身に付けて「神様が行方不明」と書かれたチラシを配る奇妙な男を見かける。テレビのネタになると思ったジャグーは、「PK」(アーミル・カーン)と呼ばれるその男に話を聞くのだが……。

そうである。そのPKこそが冒頭に登場した宇宙人なのだ。いったいなぜ彼が神様を探しているのか。PK(酔っ払い)という名前が付いたのはなぜか、などの事情がコミカルに描かれる。例えば、言葉を覚えようとして、他人の手を握ろうとして怒られて、結局娼婦の手を握ったエピソードなど、慣れない地球で苦労するPKの奇妙な言動が、自然に笑いを振りまいていくのだ。いや、ホントにかなり笑えるコメディーです。

とはいえ、それで終わらないのがこの映画のスゴイところ。ジャグーの悲恋のあたりから宗教ネタが登場するのだが、中盤から後半へ進むにつれてそれがますます強烈になっていく。PKがリモコンを取り戻そうとして宗教に翻弄される姿を描き、無条件に宗教に頼る民衆を懐疑的にとらえるとともに、宗派間対立や宗教の形式主義などを痛烈に皮肉ってみせるのである。もちろん、その間も歌と踊りは満載だし、エンタメ性はけっして失わない。

そして、ジャグーはPKをテレビに出して、宗教に対する疑問や矛盾を紹介していく。そこでのPKの「間違い電話で人々の願いが神様に届かない」という指摘がなかなか鋭いところだ。

そんな中、宗教に対する批判的精神は、ますますエスカレートしていく。「外見だけで宗教を判断している」「宗教は恐怖を煽っている」などのPKの鋭い言葉が飛び出す。宗教の金儲け主義に対しても鉄槌が下される。はては爆弾テロまで起こして、宗教に疑問を呈する。

「ホントにここまで言ってもいいの?」と思うほどの痛烈さだが、PKが宇宙人という設定と、あくまでも楽しいエンタメ映画として描いているから、許されてしまうのではないだろうか。

クライマックスはテレビ番組でのPKと導師(ジャグーの父が心酔し、なぜかPKのリモコンを持っている)のケレン味タップリの対決だ。そこで、ジャグーの悲恋の裏に隠された意外な事実が明らかになり、観客を感動の渦に引き込んでいく。そしてPKの優しさと思いやりが伝わる温かな結末へ。

最後には後日談もある(ここまでやるしつこさもインド映画らしい)。そこでも、「神様に会わせるといわれたら逃げろ」と宗教にダメ押ししているのだ。ホントにスゴイぞ。この映画。おそらく作り手たちは、宗教自体を否定しているのではなく、現在の宗教の様相に強い疑問を抱いているのだろう。それがよくわかる作品である。

この映画は、日本でもロングランヒットを記録したインド映画『きっと、うまくいく』のラージクマール・ヒラーニ監督と、主演のアーミル・カーンの再タッグ作。もう40代半ばでありながら、相変わらず年齢不詳で、まばたきを一度もしない怪演を見せるアーミル・カーンの演技も必見だ。それに加えて、ヒロインのアヌシュカ・シャルマが美しぃ~!!

歌と踊り満載で、SFコメディーやラブロマンスなどたくさんの要素がギッシリ詰まった楽しいエンタメ映画。おまけに宗教を風刺した社会性も備えているのだから、これを快作といわずにいられようか。オレが過去に観たインド映画の中でも(といっても、そんなにたくさん観ているわけではありませんが)、最高の部類に入る映画である。ぜひオススメだっ!!!(ちなみに公開は10月29日からです。新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて)

それにしても、日本でもこんな映画を作ってくれないものだろうか。インドほど複雑じゃないにしろ、宗教をめぐってはいろんな問題があるんだし、それを笑い飛ばしちゃうってのはどうでしょう?

●今日の映画代0円(フリーマン・オフィスさん。マスコミ試写ご招待ありがとうございます!)