映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」

「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」
TOHOシネマズシャンテにて。2016年12月23日(金)午後12時50分より鑑賞。

天才バカボンのパパが、口癖で「賛成の反対なのだ」と言っていたが、あれは賛成のことなのか、反対のことなのか。何にしてもオレは平和に賛成である。戦争に反対である。だが、最近の戦争は、そう簡単に結論が出せないことが多かったりするから困ったものだ。

それをつくづく思い知らされたのが、「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」(EYE IN THE SKY)(2015年 イギリス)という映画である。ここで描かれる戦争では、ドローンが大活躍する。上空数千メートルからドローンでテロリストの行動を監視して、ミサイルを撃ち込んで彼らを殺害する。自分たちは犠牲を出さずに、完璧に敵をやっつけられるなんて素晴らしい!と思うかもしれないが、はたしてそうなのか。そこには様々な問題があることを、この映画が示している。

イギリス・ロンドン。英国軍のキャサリン・パウエル大佐(ヘレン・ミレン)は、国防相のフランク・ベンソン中将(アラン・リックマン)と協力して、英米合同テロリスト捕獲作戦を指揮していた。まもなく上空6000メートルを飛ぶ米国軍の最新鋭ドローン偵察機が、ケニアのナイロビで過激派アル・シャバブの凶悪なテロリストたちのアジトを突き止める。

当初の作戦はケニア軍がそこに突入して、テロリストたちを生け捕りにすること。ところが、彼らが自爆テロを決行しようとしていることが発覚し、パウエル大佐はドローンのミサイル攻撃によるテロリスト殺害へと作戦を変更する。

しかし、これが簡単にはいかない。イギリスはもちろん、アメリカの政府機関も巻き込んで、パウエル大佐の攻撃命令を許可するかどうか大騒ぎになる。何しろ、テロリストたちの中にはアメリカ国籍の男やイギリス出身の女性が含まれているのだ。

こうしたギリギリの作戦が、ドローンからの映像を使ってスリリングに描き出される。ドローンといっても飛行機だけではない。鳥の形をしたり、虫の形をしたドローンまである。それが家の中にまで入って様々な映像を送り出す。今どきのドローンがこんなことになっているなんて、ちっとも知らなかった。

そうした映像が、イギリス、アメリカ、ケニアの司令官や政府関係者たちがいる会議室のスクリーンに映しだされる。それを見ながら作戦を遂行する英米軍の人々。一見ゲームのように見えるが、もちろんそれはゲームではない。人命がかかっているだけに、安易な決断はできない。多面的に映されるドローンの映像が、ジリジリするような緊張感を生み出し、サスペンスとしての魅力を高める。

ようやく了解を取り付けたパウエル大佐は、ドローンを操作する米国ネバダ州の新人ドローン・パイロット、スティーブ・ワッツにミサイルの発射準備を命じる。ようやくこれで一件落着か。と思いきや、そこでなんと、アジトの真横でパンを売る少女の姿が発見される。ミサイルを撃ち込めば、彼女もかなりの確率で死んでしまう。それをめぐって、再び事態は混乱する。

パウエル大佐は、それでもミサイルを発射すべきだと決然と言い放つ。たとえ少女が死んでも、自爆テロによって大勢が死ぬよりはましだというわけだ。しかし、それに反対する人もいる。英米の政府機関や外遊中の政治家までをも巻き込んで、「ああでもないこうでもない」と議論が迷走する。あまりの難題に責任を回避しようとする政治家も現れる。

終盤に近付くにつれて、ハラハラドキドキ度はどんどん高まっていく。自爆テロの準備を着々と進めるテロリストたち。相変わらずパンを売る少女。そこにケニア軍の諜報員も絡んで、焼けつくような緊張感が続く。サスペンスとして一級品の映画であることは間違いがないが、同時にそこには戦争をめぐる重たいテーマも横たわっている。

パウエル大佐は、自分の主張を通すためにある工作まで行う。考えようによっては、とんでもない非人間的な人物にも見えるが、彼女の主張が100%間違っているとも言い切れない。確かに、自爆テロが起きれば大勢の人が亡くなる可能性がある。だからといって、ミサイルを発射した結果、少女が死んでもいいのか? 映画の中の司令官や政治家たちに突き付けられた難問が、スクリーンを通して観客にも突きつけられる。「さぁ、あなたならどうする」と。

エンタメ性の高いサスペンスなら、最後にはカタルシスが待っているに違いない。だが、この映画にはそんなものは用意されていない。ラストは修羅場の中で人間の善意をチラリと見せて、一筋の光を感じさせるものの、最後の最後に過酷な現実を示す。そこで観客に向けて再度の問いかけが行われる。「さぁ。あなたならどうする」と。

ヘレン・ミレン演じるパウエル大佐の冷酷さも戦争の一面なら、彼の指示でミサイル発射のボタンを押す若きパイロットの苦悩も戦争の一面。そして何よりも、「あなたたちは安全な場所で攻撃した」とベンソン中将に向かって投げつけられた言葉が、現代の戦争の本質を表している。自らの身を危険にさらすことなく、ボタン一つで敵のみならず無辜の市民まで犠牲にするこの戦争に、正義はあるのだろうか???

現代の戦争をリアルに、そしてスリリングに切り取って、そこに潜む問題を痛烈に提示した秀作である。観終わって重く、苦いものが残った。

●今日の映画代、1500円。久々にムビチケを購入。