映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「沈黙 -サイレンス-」

「沈黙 -サイレンス-」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2017年1月21日(土)午後3時30分より鑑賞。

作家の遠藤周作が「狐狸庵先生」と称されて、コーヒーなどのCMにたびたび登場していたのを知る人が、どれほどいるだろうか。時代は流れたなぁ~。

などと感傷に浸るオレではあるが、実のところ遠藤周作の小説はほとんど読んだことがない。どーもスイマセン。エッセーの類は何冊か読んだ記憶があるんですけどね。

そんなオレの前に遠藤周作原作の大作映画が現出した。しかも監督は、あの巨匠マーティン・スコセッシである。「沈黙 -サイレンス-」(SILENCE)(2016年 アメリカ)。何でもスコセッシ監督は、28年前に原作と出会ってから、ずっと映画化したいと思ってきたという。それだけに、その熱意がひしひしと伝わってくるような映画だ。

舞台は17世紀、キリシタン弾圧が激しさを増す江戸初期。冒頭は日本でキリスト教の宣教師たちが、残虐な拷問を受けるシーン。江戸初期の当時の日本では、キリスト教が弾圧されていたのだ。そして、その場面を見ているのが日本で布教活動を行っていたポルトガル人宣教師フェレイラ(リーアム・ニーソン)である。

続いて舞台はローマに移る。フェレイラが幕府の拷問に屈して棄教したという知らせが届く。弟子のロドリゴアンドリュー・ガーフィールド)とガルペ(アダム・ドライヴァー)は、どうしてもそれが信じられず、真相をつかむために日本に渡ることを決意する。そして、マカオで出会った日本人キチジロー(窪塚洋介)の手引きで長崎の隠れキリシタンの村に潜入する。

というわけで、前半で描かれるのは日本に渡ったロドリゴとガルペの苦難の日々だ。最初は長崎の隠れキリシタンの村の人々にかくまわれて、彼らの支えになる。しかし、不自由な潜伏生活が続き、肝心のフェレイラの消息はまったくわからない。そんな中、村人に対して長崎奉行・井上筑後守の厳しい追及の手が迫る。

長崎の雄大な大自然(といっても日本ではロケができずに台湾ロケを敢行)を背景に、過酷な運命を前にしながら、それでも信仰を貫く人々の姿が印象的だ。彼らの信仰は本来のものとは微妙に違っていたりするのだが、それでもその思いはホンモノ。それゆえロドリゴたちも心を動かされる。

その後、ロドリゴはキチジローの裏切りによってお上にとらわれ、井上筑後守から棄教を迫られる。井上はロドリゴを責め立てるのではなく、隠れキリシタンたちに拷問を加える。「お前のせいでキリシタンが苦しむのだ。彼らを救うために棄教しろ」というわけである。何とも巧妙なやり口だ。

これでもかと加えられる拷問。次々に犠牲になる人々。自分が犠牲になるのはいとわないロドリゴだが、人々が犠牲になることには耐えられない。そこに激しい葛藤が生まれる。いったい正しい道とは何なのか。ロドリゴは大いに惑う。

しかもそうした状況にもかかわらず、ロドリゴが信じる神は何もしてくれず、沈黙を続けているように見える。独白を中心に吐露されるその苦しみが、観客にもダイレクトに伝わってくる。基本は信仰をめぐる話ではあるものの、それを越えて極限状態に追い込まれた人間の生き様に圧倒される。そして観客にも厳しい問いが投げかけられる。「あなたならどうするのか?」と。

終盤ではフェレイラの消息がわかり、さらにロドリゴの後日談が描かれる。ラストにほんのチラリと示される彼の本当の心の内のようなものが、大きな余韻を残してドラマが終わる。

何にしてもスコセッシ監督の気迫と熱量に圧倒される映画である。グイグイと胸に迫ってきて、最後まで目が離せなかった。2時間42分という長尺の作品だが、まったく長さを感じさせなかった。

ハリウッド映画が日本を描くと、変なところがテンコ盛りで出てくるものだが、この映画にはそれもほとんどない(日本人が英語を話しすぎというのはハリウッド映画なので仕方ないでしょう)。自然の中に神を見出す日本の精神性のようなものにも言及する。原作があるとはいえよく描かれていると思う。

キャストも見事だ。アンドリュー・ガーフィールド、アダム・ドライヴァー、リーアム・ニーソン(着物姿も見られます!)などに加え、浅野忠信窪塚洋介、笈田ヨシ、塚本晋也イッセー尾形などの日本人キャストも充実。目立たないところでも、ミュージシュンのPANTA頭脳警察)、片桐はいり伊佐山ひろ子洞口依子青木崇高、映画監督のSABU、渡辺哲、プロレスラーの高山善廣黒沢あすかなど、すべてのキャストが存在感を発揮している。このあたりも見どころだと思う。

映像、脚本、衣装、美術、演技など、全てにおいてハイレベルな作品だ。よくぞこれだけの映画を作ったものだ。重たいテーだが、密度の濃い映画で観応え十分。絶対に観る価値がある。

さーて、遠藤周作の「沈黙」でも読んでみるか。今さらですが。

●今日の映画代、0円。ユナイテッド・シネマの鑑賞ポイントが貯まったので(6ポイント)無料鑑賞。