映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「この世界の片隅に」~その2

この世界の片隅に~その2
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2017年2月4日(土)午前11時15分より鑑賞(スクリーン5:H-11)。

東京国際映画祭で最初に観た時の感想はすでに書いたのだが、その時にはまさか5回も観ることになるとは思わなかった。原作:こうの史代、監督・脚本:片渕須直によるアニメ映画「この世界の片隅に」だ。

その時に書いた感想
→ http://cinemaking.hatenablog.com/entry/2016/11/03/212252

最初の鑑賞時の「もしやこれは傑作では?」という思いから(東京国際映画祭は関係者向け上映でタダだったし)、それを確かめに近所のシネコンに足を運び、さらに公開の本家本元でもあるテアトル新宿に2度観に行き。そしてまたしても近所のシネコンに足を運んでしまった。

その間に、もちろん最初の思いは確信に変わった。これは間違いなく傑作だ。おまけに世間的にもキネマ旬報ベストテンの日本映画1位になるなど、各方面から高く評価されて、異例の大ヒットを続けている。公開前にいち早く目を付けたオレとしては、実にうれしい限りだ。

さすがに5回も観れば、新しい発見などないかと思えばさにあらず。まだまだいろいろなことがわかってくる。それだけ細部までこだわって作られているということだろう。綿密なリサーチに基づいて描かれた絵は、同時に的確なデフォルメや省略も加えられ、全てのカットが息づいている。

そして何よりも、この映画には温かで心地よい世界が広がっている。戦争を描いた映画で、こんな気持ちになったことはいまだかつてなかったと思う。

音響も素晴らしい。特にシネコンの大きなスピーカーで聞くと、それが一層際立つ。空襲シーンのリアルな音なども印象深い。そしてコトリンゴの音楽だ。冒頭近くの「悲しくてやりきれない」やエンディングの「たんぽぽ」など、すべてが見事にこの世界を包み込んでいる。

登場人物の微妙な表情の変化がわかるのも、鑑賞回数を重ねたおかげだろう。例えば、結婚前のすずが水原に会った時の表情は、その後の2人の関係、さらに夫の周作との関係を納得できるものにしている。

今回5回目を観て再確認できたのは、これはすずの自分探しの物語だということだ。自分で選択することもなく(当時の時代性もあるのだろうが)、流されるままにお嫁に行った彼女が、日々の暮らし(当然そこには戦争の影が忍び寄る)の中から、やがて自分の居場所を見つけていく。表面的にはそれが以前と同じ場所だとしても、今度は自ら選び取ったものである。

しかし、それでも以前とは明らかに違うものがある。それこそが戦争が奪っていったものだ。玉音放送のあとのすずの怒りは、政府によって叩き込まれた好戦性によるものではなく、戦争の中でも必死に日常を生きようとした努力が、すべて否定されたかのように思えたからではなかったのか。

いずれにしても、戦争は突然どこかからやってくるものではなく、日常と地続きのものであることを強く意識させられる。

エンドロールは、いつ観ても泣けてくる。あの後日談をグダグダと描かなかったのは正解だ。おかげでよけいに余韻が残る。

そして最後に流れるクラウドファンディングの協力者たちの名前。何度も言うが、オレも入りたかったゾ~! 悔しい~!

たぶん、これからも何回も観ることになると思う。オレにとってそのぐらい特別な映画である。

●今日の映画代、0円。すいません。ユナイテッド・シネマの貯まったポイントで鑑賞しました。