映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「家族はつらいよ2」

「家族はつらいよ2」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2017年5月27日(土)午後1時30分より鑑賞(スクリーン5/G-13)。

山田洋次監督といえば、「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯を使い、姓は車、名は寅次郎、人呼んで "フーテンの寅" と発します・・・」でおなじみの「男はつらいよ」シリーズの監督なわけだが、実はけっこう社会的テーマが明確な作品も撮っていたりする。夜間学校を舞台にした1993年の「学校」、戦争の怖さを訴えた2007年の「母べえ」などは、その代表例だろう。

ただし、それらの作品もあくまでも娯楽作品としての枠の中で描いている。それこそが山田監督の真骨頂だと思う。そんな社会派の要素と娯楽の要素を見事にミックスしたのが、「家族はつらいよ2」(2017年 日本)である。2016年の喜劇映画「家族はつらいよ」の続編で、前作同様に、東京郊外に暮らす三世代同居の平田家を舞台に、家族が起こす大騒動を描いている。

前作は熟年離婚をネタに大騒動が勃発したが、今回は高齢者の運転をめぐる問題が浮上して、大変な騒ぎになる。

最近、周造(橋爪功)の車に傷が目立ち始めたのを気にした平田家の家族。「人身事故でも起こしたら大変だ」ということで、運転免許を返上させようとする。しかし、頑固な周造に誰が話をするのか、同居する長男夫妻をはじめ、長女夫妻、次男夫妻がお互いに役目をなすりつけ合う。それを察知した周造は激怒してしまう。

さすがに、長年喜劇を作り続けてきた山田監督だけに、全編笑いが途切れない映画だ。個性的な家族によるテンポの良い会話で、爆笑からクスクス笑いまで、様々な笑いを散りばめている。まるでコントのようなベタな笑いもある。絶妙の間も印象的で、これぞ喜劇という感じである。

とはいえ、ただ笑えるだけではない。社会問題をきっちり織り込む。それは高齢化社会をめぐる様々な問題だ。

妻の富子がカルチャースクールの仲間とともに、海外にオーロラを見に出かけたのをいいことに、周造はお気に入りの居酒屋の女将を乗せて車を走らせる。その途中で、工事現場の交通整理をしている人物に出会う。彼は広島の高校時代の同級生の丸田(小林稔侍)だった。丸田は高校時代はモテモテで実家も裕福だったのに、その後事業に失敗して、今は家族とも別れて一人で粗末なアパートに暮らしている。彼を通して、「下流老人」「無縁社会」という深刻なテーマが見えてくる。

周造は丸田のために即席の同窓会を開き、その帰りに彼を自宅に泊める。しかし、翌朝、丸田は冷たくなっている。そこからの描き方が秀逸だ。救急車の到着、死亡確認、そして警察に移管されて刑事の到着というように、こうした場合の対応がリアルに描かれる。

ただし、それでもそこには笑いが満ちている。たまたま集合していた家族に加え、小心な新米警察官、調子のいい鰻屋なども配置して、次々に笑いを生み出す。人の死を扱いながら、これだけ笑わせる映画はそうはないだろう。家族が刑事の事情聴取を受ける場面は、まるで舞台劇のような面白さだ。

そして、その後には強烈なメッセージが用意されている。周造の口を借りて、今の日本社会の理不尽さをストレートに、怒りを込めて告発する。政治家や官僚たち、いや日本人全員がこのメッセージに耳を傾けるべきだろう。

終幕近くもなかなか味わい深い展開だ。丸田の葬儀をめぐる一件で、平田家の家族の人情の機微をすくいとり、観客をホロリとさせる。しかも、次なる瞬間に、またまた笑える仕掛けを用意する。銀杏をああいうふうに使うとは恐れ入った。そして、すかさず葬儀所の職員として「あの人」が登場。そりゃあ、絶対に笑うでしょう。

平田家の家族を演じたのは、前作に引き続き橋爪功吉行和子、西村雅彦、夏川結衣中嶋朋子林家正蔵妻夫木聡蒼井優。彼らの息の合った演技が、この映画をさらに楽しいものにする。実は彼らは、前作の前に山田監督が撮った「東京家族」でも共演している。それだけに、絶妙なアンサンブルが楽しめる。

丸田役の小林稔侍、小料理屋の女将役の風吹ジュン、刑事役の劇団ひとりなどの脇役も、味のある演技を披露している。

前作もなかなか面白かったのだが、個人的には今作のほうがさらに良かったと思う。社会問題を取り上げて、これだけ明確なメッセージを発しながら、無条件に楽しく笑わせてくれて、ちょっぴりホロッとさせる。これはもはや熟練の職人技としか言いようがない。

山田監督の映画の観客の年齢層は、どうしても高めになりがちなのだが、この職人技は若い人にもぜひ目撃してもらいたいものである。

●今日の映画代、1500円。ユナイテッド・シネマの会員料金。