映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「おとなの恋の測り方」

「おとなの恋の測り方」
ヒューマントラストシネマ有楽町にて。2017年6月17日(土)午後2時30分より鑑賞(スクリーン1/E-12)。

昔から「ノミの夫婦」という言葉がございまして。小柄な夫と大柄な妻の夫婦を指す言葉でございます。何でも、虫の蚤はメスのほうがオスよりも一回りほど大きいことから、こう言うようになったらしいですな。まあ、最近は女性もけっこう背が高かったりしますから、昔ほどノミの夫婦も珍しくないかもしれません。

とはいえビックリなカップルがおりまして。なんたって、あなた、彼氏の身長が136㎝しかないってんですから。これだけ男性の“身長”が低けりゃ、女性の側はどうしても恋に“慎重”になります……。お後がよろしいようで。

と、落語調の書き出しにしたのは、ただの気まぐれである。特に意味はない。

何にしても、そんな逆身長差カップルが登場するのが、「おとなの恋の測り方」(UN HOMME A LA HAUTEUR)(2016年 フランス)という映画なのである。

簡単にいえば、フランス製のラブコメだ。主人公は3年前に離婚した元夫と、今も共同で仕事をしている弁護士のディアーヌ(ヴィルジニー・エフィラ)という女性。ただし、最近はその元夫と仕事でもめている模様。そんなある日、彼女はレストランに携帯電話を忘れてしまう。まもなく、それを拾ったアレクサンドル(ジャン・デュジャルダン)という男性から電話がかかってくる。

その電話ときたら、実にユーモラスでウィットにとんでいる。それに好感を持ったディアーヌは、翌日会うことを承諾する。もちろん、彼女の頭の中にあるのは長身でイケメンの白馬の王子様だ。ところが、目の前に現れたアレクサンドルは、何と身長が136㎝しかなかったのだ!!!

ただし、アレクサンドルを演じるのは「アーティスト」でオスカーに輝いたジャン・デュジャルダン。背は低いものの、なかなかのイケメンのオヤジである。おまけに有能な建築家でお金も持っている設定。そして、何事にも積極的で自信家のアレクサンドルは、すぐにディアーヌを強引に誘い、ドキドキのスカイダイビング初体験をさせてしまうのだ。

とくれば、そりゃあディアーヌでなくても好きになっちゃうでしょ。身長以外は完璧なんだから。どうせなら、顔もブ男にして美女と野獣みたいにすればよかったのに……と思うのは、ただのオレのやっかみである。

この映画、ラブコメだから当然笑いの要素がある。その中心はアレクサンドルの身長ネタだ。背の低いアレクサンドルが、大きな愛犬になつかれて大変な目に遭うシーンなど、無条件に笑えるシーンがあちこちにある。

あれ? でも、ジャン・デュジャルダンって、そんなに背が低かったっけ? と思ったら、実際の彼は身長180㎝を越えているらしい。なので、ディアーヌと一緒に映るシーンなどではVFXによって身長を低く見せているようだ。その反面、顔のアップなどはそのまま映している。その微妙なアンバランスさも、笑いを増幅させている。

ただし、個人的には期待したほど笑えなかった。ハリウッドのラブコメなら、もう少し突き抜けた笑いがありそうだが、フランス映画はやはり異質なのかもしれない。

ともあれ、ドラマの柱はディアーヌとアレクサンドルのロマンスの行方だ。そこには紆余曲折がある。アレクサンドルに惹かれてどんどん距離を縮めるディアーヌだが、やがて自分たちカップルを見る周囲の好奇の目に耐えられなくなってしまう。

中盤以降のディアーヌの葛藤や苦悩は、演じるヴィルジニー・エフィラのキャラもあってやや薄味に感じられるが、ドラマ全体はそつなくまとめられている。

この映画でオレが一番気になったのは、アレクサンドルが10年前に離婚した妻との間にもうけた息子の存在だ。いい年して定職も持たず、父親のすねをかじって生きている青年だけに、ドラマに大きな展開をもたらしそうな予感がしたのだが、結局、アレクサンドルの素晴らしい父親ぶりを示すだけに終わってしまった。父親とディアーヌの恋愛に絡むこともない。できれば、彼の存在をもう少し効果的に使ってほしかった。

ついでに言えば、ディアーヌの元夫とアレクサンドルのバトルが、チラリとしか描かれないのも物足りない。どうせなら、宣言通りの卓球対決を実現させれば面白かったのに。

しかし、まあ、そのあたりのさじ加減も、この映画の持ち味なのかもしれない。「なんかスゲェー」という突き抜けた部分はない代わりに、適度に笑えて、感動して、最後には心をホッコリさせられる。実にバランスの良い映画といえるだろう。

低身長のアレクサンドルに加えて、ディアーヌの継父に耳が不自由な障がい者を配するなどして、「人間は外見じゃない」「差別してはいけない」というさりげないメッセージも綴られている。そのあたりもそつがない。

オレのようにひねくれた見方をしないで、素直に観れば安心して楽しめそうな映画である。ラブコメ好きにはおススメです。

●今日の映画代、1300円。TCGメンバーズの会員料金で。