映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「エイリアン:コヴェナント」

エイリアン:コヴェナント
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2017年9月18日(月・祝)午後5時より鑑賞(スクリーン9/F-10)。

けっこう長いこと物書きをやっているのだが、金銭的には勧められる仕事ではない。もちろん売れっ子で、相当に稼いでいる物書きもいるのだろうが、残念ながらオレの周りに関しては皆無だ。むしろ最近は「食えないので転職した」などという話ばかりである。

それでもオレがいまだにこの仕事をしているのは、「低空飛行を続けつつも墜落しないから」という理由でしかない。仕事が途絶えて「いよいよ終わりかな」と思うたびに、なぜか仕事が入ってくる。

というわけで、ここ数日も仕事の連続で忙しく、映画館に足を運べなかった。映画中毒者にとって、禁断症状が出かねない非常に危険な状況だったのだ!!(大げさでスイマセン)

ようやく昨日の夕方になって時間ができたので、近所のシネコンに行こうと思ったのだが、うまいこと時間が合う作品があまりない。かろうじて「エイリアン:コヴェナント」(ALIEN: COVENANT)(2017年 アメリカ)に間に合いそうなので鑑賞した次第。

正直なところ事前には、あまり興味が引かれる映画ではなかった。1979年製作の初代「エイリアン」は、まさにSF映画の金字塔で、オレも大いに楽しんだのだが、それ以降の続編は何だかなぁ~、という感じ。なので、初代の前日譚を描いた2012年の「プロメテウス」も観ていない。今回はその続編ということもあって、パスしようと思っていたのだ。

だが、これが予想に反してなかなかに観応えある映画だった。まずオープニングのシーンが秀逸だ。アンドロイドのデヴィッド(マイケル・ファスベンダー)と創造主の社長(たぶん、ガイ・ピアース。でもなぜかクレジットはなし)と対話する。創造に関する対話で、およそコワイ映画に似つかわしくない静かで謎めいたシーン。これが物語全体の伏線になっている。

続いて、いよいよ宇宙空間に舞台が移る。滅びゆく地球からの人類移住計画を託され、多数の移住者と乗組員(ちなみに乗組員はみんなカップル)を乗せたコヴェナント号。新たな植民地となる惑星オリガエ-6を目指す。だが、突然のアクシデントで、船長をはじめ数十人が命を落としてしまう。

その直後、コヴェナント号は謎の電波を受信する。急遽、船長代理となったオラム(ビリー・クラダップ)は、亡くなった船長の妻で科学者のダニエルズ(キャサリン・ウォーターストン)の反対を押し切り、進路を変更して電波の発信元の惑星へ向かう。ところが、そこにはかつて誰かが住んでいた痕跡が残っていた……。

リドリー・スコット監督は映像のこだわりがハンパではない。ドラマ的にどうでもいいような映画でも、映像だけはいつも出色の出来なのだ。それだけに今回の映像も素晴らしい。特にコヴェナント号の人々が到着した謎の星の風景が圧巻だ。厚い雲が垂れ込めた雄大な自然、誰かが築いたらしい巨大な人造物など、不穏で怪しい雰囲気がスクリーンを覆っている。

そんな中、いよいよエイリアンの登場だ。そのあまりにもエグくて凶暴な姿が恐怖心を煽り立てる。特に生体前段階のネオモーフが壮絶だ。初代「エイリアン」から格段にパワーアップした凄味を感じさせる(もちろんCGなど技術の進歩が大きいのだろうが)。

そのエイリアンたちによって、1人、また1人と襲われていく乗組員たち。いつバケモノに襲われるかわからない恐怖をケレン味たっぷりに見せる。エイリアンの気配を観客に感じさせ、それに気づかない乗組員に対して「おい、ヤバイぞ!」とハラハラドキドキ感を煽り立てるあたり、さすがベテラン監督の職人技である。

エイリアンが人間を食い破って出てくる描写など、おぞましい描写が満載の映画なのだが、個人的には独特の映像美のおかげでスクリーンから目を離さずに済んだ。

そんな中、この映画の大きなテーマが浮かび上がってくる。それは、「誰がエイリアンを創造したのか」。そのカギを握るのはアンドロイドだ。

謎の星に到着した乗組員たちの前には、冒頭のシーンに登場したアンドロイドのデヴィッドが現れる。彼は以前この星に到着したプロメテウス号の生き残りだという。そしてコヴェナント号にもアンドロイドのウォルター(マイケル・ファスベンダー)がいる。2体のアンドロイドの対面。そこから物語は大きく動く。

デヴィッドとウォルターの二役を演じたマイケル・ファスベンダーの演技が見事だ。当然ながら見た目はそっくりなのだが、それぞれの全く違う心根を繊細な演技で表現している。マッドサイエンティストを思わせるデヴィッドの生物実験室の造形なども、背筋ゾクゾクものの映像である。

はたして、エリイアンの正体は何なのか? そして乗組員たちは無事にコヴェナント号に戻ることができるのか? 終盤は宇宙船でのスリリングなバトルが展開する。そこでキャサリン・ウォーターストンが、初代のシガニー・ウィーバーを思わせる表情で鬼気迫る演技を披露しているのも面白い。

観客は終盤に一度ホッとするだろう。だが、その後にどんでん返しが待ち受けている。その背景にあるアンドロイドの暴走は、SFではけっして目新しい話ではない。しかし、AIが発達し、人間の能力を超える可能性さえささやかれる今だからこそ、リアルに感じられる。これもまた、エイリアンとは違った恐怖といえるだろう。

ドラマ的には、さして目新しさはないし、予想がつく展開も多い。だが、独特の映像美と世界観で最後まで飽きさせない。今年79歳のリドリー・スコット監督だが、まったく衰えを感じさせないのがうれしい。そして、久々に初代の「エイリアン」がまた観たくなったのである。

●今日の映画代、1300円。ユナイテッド・シネマの会員向けクーポンを利用。

◆「エイリアン:コヴェナント」(ALIEN: COVENANT)
(2017年 アメリカ)(上映時間2時間2分)
監督:リドリー・スコット
出演:マイケル・ファスベンダーキャサリン・ウォーターストンビリー・クラダップ、ダニー・マクブライド、デミアン・ビチル
*TOHOシネマズ日劇ほかにて全国公開
ホームページ http://www.foxmovies-jp.com/alien/