映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」

奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2017年9月19日(火)午後12時15分より鑑賞(スクリーン5/自由席)。

長いタイトルの映画はけっこうあるが、その中でもこれは相当に長いほうだろう。しかも、「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」って、なんだ? このふざけたタイトルは? 責任者出てこい!!

と思ったら、渋谷直角という人のマンガ、それもサブカル色の濃いマンガが原作だとのこと。そちら方面には全く疎いのであしからず。

そんなユニークなタイトルのマンガを映画化したのは「モテキ」「バクマン。」などでおなじみの大根仁監督である。

タイトルにあるように、主人公は奥田民生に憧れて、彼のような“力まないカッコいい大人”を目指す33歳の雑誌編集者コーロキ(妻夫木聡)。おしゃれライフスタイル雑誌の編集部に異動となった彼は、仕事でファッションプレスの美女、天海あかり(水原希子)に出会う。そのあまりの可愛さに衝撃を受けたコーロキは、たちまち恋をする。そして思い切って交際を申し込む。

意外や意外、すぐにつきあうようになったコーロキとあかり。だが、あかりは、これまたタイトルにあるように、出会った男をことごとく狂わせてしまう魔性の女なのだった。あかりに見合う男になるべく、一生懸命に仕事をして、デートにも必死になるコーロキ。しかし、あかりの自由奔放な言動に振り回され、どんどん空回りして、身も心もボロボロになっていく……。

要するにコーロキの恋物語と、彼の編集者としての成長をリンクさせた物語である。とはいえ、恋物語にしては胸キュンだったり、切なかったり、キラキラ感だったりがあまり感じられない。正直ドラマ的には物足りなさを感じてしまったのだ。

だが、この映画にはそれを上回って余りある魅力がある。それは、何といっても、あかりを演じた水原希子の魅力である。大根監督といえば「モテキ」で、長澤まさみをこの世のものとは思えないほど魅力的に描いて(特に美脚がスゴかった)、女優として大成長させたわけだが、今回のターゲットの水原希子についてもぬかりがない。

初めて登場した時の破格のキュートさ、男たちとの親密なシーンでのエロチックさ、小悪魔というには限度を超えた自由奔放さ。いずれもが観客の(特に男性諸氏の)心をわしづかみにすること請け合いなのだ。そりゃあ、コーロキじゃなくても、メロメロになってボロボロになっちゃいますぜ。まったく。

そしてもうひとつの魅力が、強烈なキャラたちのはじけた言動だ。特に、リリー・フランキー演じるフリーライターの傍若無人な態度が爆笑モノ。まさに鼻つまみ者を地でいく演技である。それ以外にも、新井浩文演じるDV男、安藤サクラ演じる度を越した猫好きのコラムニスト、ワンシーンだけ登場する天海祐希の社長など、奇人変人大集合の趣なのだ。

サブカルネタやSNSツールを中心に、様々なネタをディテールにぶち込んで観客を楽しませるのも、いかにも大根監督らしいところ。テンポの良い演出、ポップで、けれん味たっぷりの映像も相変わらずである。

さて、奇人変人たちがひしめく中で、わずかにまともな人物として描かれているのが松尾スズキ演じる編集長だ。時には温かく、時には厳しくコーロキを一人前の編集者へと導く。コーロキも彼を大いに信頼する。

ところが、である。実はそんな編集長にも、大変な秘密があったのだ。それが明らかになる終盤は、予想もしない恐怖の四角関係へと突入する。何じゃ? こりゃ。まあ、一応、ラストではコーロキの編集者としての成長を示して終わるのだが、どうしてもドタバタな印象がぬぐえない。

とはいえ、そんなものを吹っ飛ばすのが、やっぱり水原希子なのである。最初のうちは、「ああ、確かにあんな性格のコいるかも」と思って観ていたのだが、次第にリアルでない部分が増幅するようになる。いったい何なのだ? この女。

最後まで観てようやく納得がいった。彼女はリアルな存在の美女というよりは、この世のものとは微妙に違う、それこそ天使や悪魔のように異界からやってきた存在だったのではないか。だからこそ、なおさら魅力的で妖しくて、男たちをメロメロにしてしまうのではないだろうか。

ラストシーンを観て、そんなことをつくづく考えてしまったのである。あの何ともいえない笑みは、絶対にこの世のものじゃないよなぁ~。

というわけで、この映画は水原希子のための映画といっても過言ではないだろう。彼女を観ただけで、モトを取った気分になったのである。

おっと、水原希子にばかり気を取られて忘れるところだったが、なにせ奥田民生を崇拝する主人公だけに、全編で奥田民生の曲が流れて、ドラマにも絶妙に絡んでくる。なので、奥田民生ファンにとっても見逃せない映画といえるだろう。

●今日の映画代、1500円。ユナイテッド・シネマの会員料金。

◆「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール
(2017年 日本)(上映時間1時間39分)
監督・脚本:大根仁
出演:妻夫木聡水原希子新井浩文安藤サクラ江口のりこ天海祐希リリー・フランキー松尾スズキ
*TOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて全国公開
ホームページ http://tamioboy-kuruwasegirl.jp/