映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「パーフェクト・レボリューション」

パーフェクト・レボリューション
TOHOシネマズ新宿にて。2017年10月2日(月)午前10時30分より鑑賞(スクリーン1/E-4)。

日常でそれほど障害者と触れ合う機会がないだけに、彼らとの接し方には戸惑ってしまうことがある。どの程度普通にすればいいのか。どの程度気遣えばいいのか……。

そんな中、「基本は同じ人間」なんだという至極当たり前のことを、あらためて気づかせてくれた映画が「パーフェクト・レボリューション」(2017年 日本)である。

障害者2人を描いたラブストーリーだ。主人公のクマ(リリー・フランキー)は、幼少期に脳性マヒを患い、頭と口はしっかりしているものの、手足を思うように動かせず車椅子生活を送っている。

彼の登場シーンが強烈だ。書店の女店員に高い場所にある本をとらせて、スカートの中を覗いているのだ。クマは女の子への興味も性欲も旺盛。世間の障害者に対する誤解を解こうと、「障害者だって恋もするし、セックスもしたい」と訴えるための活動を続けていたのである。

ちなみに、この映画は、障害者の性について発信する活動を続ける熊篠慶彦の実体験をもとにしたドラマで、主演のリリー・フランキーは彼と以前から親交があるとのこと。

さて、そんなクマが自身の著書のPRイベントで講演をしていると、そこにミツ(清野菜名)という女がやってきて、刺激的な質問をする。それに対するクマの受け答えに共感した女は、たちまちクマに恋をして、なりふり構わず猛アタックをかけてくる。

ミツのクマへのアタックぶりは常軌を逸していた。クマの戸惑いをよそにストーカーまがいの攻勢をかけてくる。「この女、なんか変だ」と思ったのだが、あとになって彼女が人格障害であることがわかる。しかも、彼女は風俗嬢をしていたのだ。

障害を抱えた2人の恋などというと、重たくてシリアスなドラマだと思うかもしれない。しかし、この映画はまったく違う。ミツの異常なはしゃぎ方が笑いを誘うこともあって、ラブコメ風で、ポップで、テンポの良いラブストーリーが展開される。

特に前半の躍動感はハンパではない。口ではラジカルなことを言いつつも、基本は常識人のクマ。それに対して、世間の常識など度返しして「2人で完全な革命を目指す!」というミツ。クマがかつてのトラウマによって、恋愛に奥手だという設定も効いている。

長年クマを介助する恵理(小池栄子)の応援を受けながら、2人が少しずつ距離を縮める様子がキラキラした輝きとともに描かれる。現実から少し足を浮かせたファンタティックな要素もある。もちろん障害者差別などの場面もあるのだが、暗い方向に流れることはない。観ているうちに、障害のことなど忘れて、ごく普通の男女によるラブストーリーに思えてくるから不思議なものだ。

ミツに連れ出されてクラブに行ったクマが、車椅子に乗ったままダンスをするシーンは、前半のハイライトだろう。

とはいえ、2人が障害者であることは紛れもない事実である。後半はその影の部分がクローズアップされてくる。

その中でも特にクマの実家での法事で、クマとミツは世間の障害者に対する考え方というものを思い知らされる。また、テレビ取材を受けることになったクマは、いわゆる「期待される障害者像」に違和感を持つ。こうして2人は重たい現実を突きつけられるのである。本作がただ楽しいだけのドラマでないことは、言わずもがなだ。

そんな中で、ミツは次第にコワれていく。彼女の過去なども明らかになる。死ぬの生きるののギリギリの展開もあり、ドラマはカオスに陥っていく。前半のラブコメタッチとはかなり様相が違ってくるのである。

それでもラストには心に染みるシーンが用意されている。クマとミツが踊る最後のダンス。それを通して、2人の成長を物語って余韻を残したままドラマは終わる。

と思ったら、終わっていなかった。え? まさか。そんな。というわけで、その後には驚きの結末が待っていたのだ。

無理やりドラマチックに盛り上げたような感じは拭えないが、前半の明るくポップでファンタジックなタッチから考えて、ああいう結末にするのは悪くないと思う。ただし、そこに至るまでがゴタゴタして、どうにもしっくりこない。もう少し終盤を整理したほうがよかったのではないだろうか。

とはいえ、全体を通してみれば期待以上に面白い映画だった。ことさらに障害だけをクローズアップするのではなく、あくまでもエンターティメントとして描き、「欠点だらけの2人の恋愛」という普遍的なドラマに昇華されているところが素晴らしい。考えてみりゃ、みんな何かしらの欠点を抱えているわけで、極論すれば「人間みんな障害者」といえないこともないわけだし。

主演のリリー・フランキーは相変わらず見事。いつも不思議に思うのだが、この人、専門的な演技のメソッドなど学んだことがないだろうに、よくもまあこれだけ幅の広い演技ができるものだ。

ミツを演じた清野菜名は初めて演技を観たが、前半の派手なぶっ飛び方と後半の沈み方をうまく演じ分けていた。今後が楽しみだ。2人の間を取り持つ小池栄子もさすがの演技。最近の彼女の演技はすべてハズレがない。

心地よくて爽快感が味わえるドラマで一見の価値がある。障害者を描いたという先入観を捨てて観てほしい作品だ。

●今日の映画代、0円。TOHOシネマズのシネマイレージカードの貯まった6ポイントで無料鑑賞。

●「パーフェクト・レボリューション
(2017年 日本)(上映時間1時間57分)
監督・脚本:松本准平
出演:リリー・フランキー清野菜名小池栄子岡山天音余貴美子、丘みつ子、螢雪次朗、林和義、池端レイナ、森レイ子、石川恋、榊英雄
*TOHOシネマズ新宿ほかにて全国公開中
ホームページ http://perfect-revolution.jp/