映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「アウトレイジ 最終章」

アウトレイジ 最終章」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2017年10月8日(日)午後2時40分より鑑賞(スクリーン3/E-15)。

子供の頃に、「あそこの家の息子はヤクザだからあんまり近づくな」と注意されたことを覚えている。それからほどなく、その男は何かの事件で警察に捕まったと記憶しているが、いずれにしても現実のヤクザとの接点といえばその程度だ。

それに比べて、映画やテレビドラマではたくさんのヤクザを見てきた。その描かれ方は多種多様だ。その中でも、バイオレントさでは他に引けをとらないのが、ヤクザ同士の抗争を描いた北野武監督・主演の「アウトレイジ」シリーズだろう。

第一作の「アウトレイジ」は過去の北野映画の中で最大のヒットとなり、続編「アウトレイジ ビヨンド」も大ヒット。それに味を占めてシリーズ第3弾「アウトレイジ 最終章」(2017年 日本)の登場だ。とはいえ、さすがにこれ以上作るのは無理なようで、そのタイトル通りに一応最終作ということになっている。

前作で展開された関東の山王会と関西の花菱会という暴力団同士の巨大抗争が終結した後、ヤクザの大友(ビートたけし)は韓国へ渡り、日韓を牛耳るフィクサーの張会長(金田時男)のもとにいた。冒頭は、彼が手下の市川(大森南朋)と釣りをするシーン。大友は明らかに暇をかこっている。何か行動を起こしたいのだが、それが許されない状況だ。

そんな中、花菱会の幹部・花田(ピエール瀧)が滞在中の韓国でトラブルを起こす。というと何やらきな臭いが、何のことはない風俗嬢に変態プレーを要求して大モメしただけなのだ。

そこに登場したのが大友である。「落とし前をつけろ」と言う花田に、逆にド迫力ですごみ、金を払わせることで決着する。だが、大友の素性を知らない花田は、約束を反故にして子分に張会長の手下を殺させてしまう。これがきっかけで、張会長率いる張グループと花菱会は一触即発の緊張状態に突入する。

一方、花菱会は内部抗争の火種を抱えていた。新たに会長となっていた野村(大杉連)は元証券マンで、生え抜きのヤクザではない。おまけに金儲け第一主義で、それまで組が避けていたシャブの取引にまで手を出している。そして権力をかさに着て、古参の幹部たちをバカにする。若頭の西野(西田敏行)、若頭補佐の中田(塩見三省)らは、それがどうにも気に入らない。

そんな様子を見た野村は、中田を焚きつけて西野を殺させようとする。花菱会の内部抗争の幕開けである。

そこに市川を連れて帰国したのが大友だ。前作と本作で抱えた様々な恨みを晴らすべく、彼は満を持して行動を開始する……。

大友の基本にあるのは、いわば義理人情を重んじる古い気質のヤクザである。冷酷非道に人を殺すが、それも自己の利益のためではなく、彼なりの理屈があってのものなのだ。それに対して、抗争を繰り返す既成のヤクザたちは、自分や組織の利益のために行動する。大友とは、そもそも行動原理が違うわけだ。そこから両者の軋轢によるバイオレンスが生まれてくるのである。

ただし、過去作以上に直接的なバイオレンスの色彩は薄い。それよりも言葉の応酬が中心に展開される。登場するヤクザたちは、常に誰かを罵倒し、脅かし、なだめすかし、懐柔しようとする。そのあまりに大げさな言動が、笑いを引き起こす。ただし、爆笑には至らないところで寸止めする。この絶妙なさじ加減が北野監督の真骨頂だろう。さすがに漫才師出身の監督だけのことはある。

それらを通して伝わってくるのは、ヤクザの怖さよりも、滑稽さや愚かさである。観ているうちに、「コイツらしょーもないなぁ」とあきれて、苦笑しまうのだ。だが、次の瞬間、ヤクザたちが繰り広げている抗争劇の構図は、考えてみれば一般企業や様々なコミュニティーなどにも共通するものであることに気づく。そして、そのことにまたしても苦笑してしまうのである。

何しろそのヤクザを演じて怒鳴り合いの丁々発止を繰り広げるのが、日本を代表する実力派のベテラン俳優たちなのだ。ビートたけし西田敏行大杉漣塩見三省岸部一徳などなど。彼らの演技は、もはや伝統芸能のような雰囲気さえ漂わせている。彼らの競演を見ているだけでも楽しい映画である。

当然ながらバイオレントなアクションシーンも登場する。そのほとんどは銃によるものだ。しかも、誰かが誰かをあっさり撃ち殺すシーンが多い。その一方で、時には銃を突きつけただけで引き金を引かない場面もあり、「いったいいつ引き金を引くのか」というスリリングさにつなげている。

銃撃の最たるものは、終盤のパーティーでの無差別乱射シーンだろう。ここはケレン味たっぷりでサービス精神旺盛なシーン。そこで右往左往する組幹部が笑える。

その後には二度に渡って、エグイ暴力シーンがある。だが、これもまたコントにも思える大げさかつ滑稽な仕掛けのせいで、凄惨さはまったく感じられない。むしろ笑いさえ生んでしまうのだ。

ラストシーンは壮絶な死。あれはやはり、昔気質の古いヤクザが現実には存在しえない時代を象徴したものだろうか。いずれにしても、最終作を飾るにふさわしいものだ。

けっして傑作と呼べるような作品ではない。警察内部の上からの圧力など、ありがちな展開も多い。というか、そもそも全体の話自体が既視感ありありだ。たが、おそらくそれは北野監督にとって承知の上。確信犯的に、過去の様々な映画のエッセンスや、過去の北野映画のエッセンスをあちこちに散りばめているのだろう。そういう点で、実に興味深い映画だと思う。はたして次の北野映画の進む先は?

●今日の映画代、1500円。ユナイテッド・シネマの会員料金で鑑賞。

◆「アウトレイジ 最終章
(2017年 日本)(上映時間1時間44分)
監督・脚本・編集:北野武
出演:ビートたけし西田敏行大森南朋ピエール瀧松重豊大杉漣塩見三省、白竜、名高達男光石研原田泰造池内博之津田寛治、金田時男、中村育二、岸部一徳
丸の内ピカデリーほかにて全国公開中
ホームページ http://outrage-movie.jp/