映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ローガン・ラッキー」

ローガン・ラッキー
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2017年11月25日(土)午前11時10分より鑑賞(スクリーン1/D-07)。

1989年の監督デビュー作「セックスと嘘とビデオテープ」でいきなりカンヌ映画祭パルムドールを受賞し、その後も数々の見応えある作品を送り出してきたスティーヴン・ソダーバーグ監督。「最近、名前を聞かないなぁ~」と思っていたら、2013年の「サイド・エフェクト」を最後に映画から離れて、テレビの世界に活躍の舞台を移していたとのこと。

そのソダーバーグが、久々に映画監督に復帰した作品が「ローガン・ラッキー」(LOGAN LUCKY)(2017年 アメリカ)である。ソダーバーグ監督といえば「オーシャンズ」シリーズが有名だが、この映画も同じく強盗計画を描いた作品。ただし、そのタッチはかなり違っている。こちらは脱力感と笑いに満ちた映画なのだ。

冒頭の父娘のシーンから早くも脱力感が漂う。父のジミー・ローガン(チャニング・テイタム)が幼い娘に、自分の好きな歌手ジョン・デンバーのエピソードを語る。その後の強盗計画とは何の関係もない話だ。そんなどうでもいいような会話が満載の映画だが、これがなかなか味があって面白いのだ。

そのジミーは、学生時代はアメフトのスター選手だったものの挫折。今は足を悪くして仕事を失い、妻にも逃げられてしまった。娘は再婚した妻のもとで暮らしている。いわば負け犬人生を送っている男なのだ。

しかも、妻は今の夫の仕事の都合で、遠くに引っ越すという。このままでは娘ともなかなか会えなくなってしまう。そんなにっちもさっちもいかない人生に業を煮やしたジミーは、弟でバーテンダーのクライド(アダム・ドライヴァー)を誘って、自動車レース場の金庫を襲撃する強盗計画を練るのである。

ただし、それには金庫を爆破する専門家が必要だということで、刑務所に入っているジョー・バング(ダニエル・クレイグ)という男に協力を依頼する。犯行当日に彼を脱獄させて、強盗終了後に再び刑務所に戻すという作戦だった。結局、その3人にジミーの妹とジョーの2人の弟も加わって、犯行の準備を進めることになる。

この犯行グループの面々の個性が際立っている。ジミーとクライドのローガン兄弟は揃って無口。何を考えているかわからない。そして足の悪いジミーに対して、弟のクライドはイラク戦争で片腕をなくし、不格好な義手をつけている。

無口といえばジョーも無口だ。しかも、こちらは見るからにこわもてで凶暴そう。ところが、実は科学に造詣が深いという意外な素顔も見えてくる。さらに、ローガン兄弟の妹は美容師でありながら相当なカーマニア。一方、ジョーの2人の弟はどこか間抜けな雰囲気を漂わせながら、理屈ばかり並べ立てる。

そんなユニークなキャラを持つ彼らが、あまりにもユルい会話を交わすものだから、思わずクスクス笑ってしまうのだ。セリフの間も絶妙で、なおさら笑えてしまうのである。

彼らが練った強盗計画もユニークだ。金庫襲撃のためにゴキブリを使ったり、ジョーの脱獄のためにクライドがわざわざ犯罪者になったり。緻密なのか、ずさんなのか、よくわからない仕掛けがテンコ盛りだ。

それでもクライマックスは緊迫感に満ちているはず。なにしろ当初は小さなレースの日に犯行を企てたものの、予定が狂って全米最大のモーター・スポーツ・イベントNASCARのレース中に、犯行を実行する羽目になったのだ。盛り上がらないはずがないではないか!

などと期待してはいけない。最大の見せ場になるはずの金庫爆破のシーン。大量のダイナマイトを使ってド派手にぶっ飛ばすかと思いきや、何だ? あのセコい仕掛けは??? しかも、そこでおマヌケなワンクッションまで入れてしまうのだから、もうただひたすら笑うしかないのである。

もちろん、これは確信犯的な仕業に違いない。レベッカ・ブラウンによるオリジナル脚本、ソダーバーグ監督による演出は、本当なら最高潮に盛り上がるところで、わざわざ観客に肩透かしを食わせているのだ。何という遊び心!!

そして犯行は終了。その直後に描かれるのは、ジミーの娘の美少女コンテストを舞台にした父娘の絆のドラマだ。ここでは冒頭のエピソードが伏線となり、ジョン・デンバーの歌が効果的に使われる。そして、ジミーはある決断をする。まったく予想もしない心温まるエンディングである。

と思ったら、何だ、まだ後日談があるのか。サラ・グレイソン(ヒラリー・スワンク)というFBIの女捜査官が登場。彼女が事件の謎に迫るのである。

何やら蛇足にも思えたこの後日談。ところが、そこには驚きのどんでん返しが……。あらららら、そう来ましたか。なるほどね。完全にしてやられたぜ。そして、小憎らしくも気の利いたバーでの全員集合のラストシーンで締めくくるのである。

ローガン兄弟を演じたチャニング・テイタムアダム・ドライヴァーをはじめ、セス・マクファーレンケイティ・ホームズヒラリー・スワンクダニエル・クレイグなど役者たちもいずれもノリノリの演技。それがまたこの映画の楽しさを増幅させている。

緊張感たっぷりの犯罪劇を期待すると確実に裏切られるだろう。緊迫感は皆無。ひたすら脱力感に満ちた強盗映画だ。迫力や大仰さとはかけ離れた脱力系エンタメ映画で監督復帰を果たすのだから、何とも心憎いソダーバーグ監督である。

●今日の映画代、1400円。事前にムビチケ購入済み。

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◆「ローガン・ラッキー」(LOGAN LUCKY)
(2017年 アメリカ)(上映時間1時間59分)
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:チャニング・テイタムアダム・ドライヴァー、ライリー・キーオ、セス・マクファーレンケイティ・ホームズキャサリン・ウォーターストンヒラリー・スワンクダニエル・クレイグ
*TOHOシネマズ日劇ほかにて全国公開中
ホームページ http://www.logan-lucky.jp/