映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「gifted/ギフテッド」

「gifted/ギフテッド」
TOHOシネマズ シャンテにて。2017年11月28日(火)午後7時45分より鑑賞(スクリーン1/H-10)。

ときどき天才少年少女の話を聞くと、「はたして彼らが大人になったらどうなるんだろう」と想像してしまう。アメリカなどでは普通の子たちと切り離されて、英才教育が施されることが多いようだが、はたしてそれは当人にとって良いことなのかどうか。才能を伸ばせても、人間として何かが欠落してしまわないのだろうか。

「gifted/ギフテッド」(GIFTED)(2017年 アメリカ)に登場するメアリー(マッケナ・グレイス)という7歳の少女も、数学の天才である。彼女は、フロリダの小さな町で独身の叔父フランク(クリス・エヴァンス)と片目の猫フレッドと暮らしていた。

まもなくメアリーは小学校に入学する。すると、たちまちその才能が明らかになる。学校は英才教育で有名な学校への転校を勧める。だが、フランクはあくまでもメアリーを普通の子として育てることにこだわり、それを断固として拒否する。

映画の冒頭から、フランクがメアリーを心から愛していることが伝わってくる。2人の会話はまるで本物の親子のような温かさに満ちている。メアリーは天才少女ということもあって口が達者で、それがなおさら2人の会話をユーモアとウィットに富んだものにしている。見ているだけで、自然に心が温かくなってくるのである。

フランクがメアリーを普通の子として育てることにこだわるのは、愛情からだけではない。実は、メアリーの母親は天才数学者だったが、メアリーが生まれて間もなく自殺してしまったのだ。弟のフランクは、それを止められなかった悔恨の思いを抱え、「姉の願いはメアリーを普通の子として育てることだった」として、英才教育を拒否しているのだ。

そんなある日、メアリーの祖母(つまりフランクの母)イブリン(リンゼイ・ダンカン)が現われて、孫に英才教育を施したいと申し出る。だが、フランクはこれも拒否する。そこでイブリンは、フランクを相手に裁判を起こしてメアリーの親権を主張する。そのため、映画の中盤からは実の母と息子が裁判で対決する法廷劇も描かれる。そこでの弁護士も含めた両者のやり取りもなかなか面白い。

イブリンの行動の源泉にも、メアリーの母(つまり、イブリンの娘)の存在がある。彼女は、娘の自殺は数学者として挫折したことにあると考え、孫にはそうならないように徹底して英才教育を施そうとしているのだ。

つまり、フランクもイブリンも、どちらもメアリーの母親の存在が大きな影を落とし、それによって真反対の行動をとっているわけだ。この対立構造が物語を進める原動力となる。それによって幼いメアリーが翻弄されてしまう。見ている観客はどんどん切ない思いに駆られてしまうのである。

それにしても、メアリーを演じるマッケナ・グレイスの可愛さがハンパではない。いや、ただ可愛いだけでなく演技が達者だ。全身を使って子供らしい感情や怒り、悲しみなどを表現する。その健気さが観客の胸をわしづかみにする。新たな天才子役の誕生かもしれない。

一方、そんな彼女の感情をしっかりと受け止めるクリス・エヴァンスの演技も素晴らしい。フランクはけっして完全無欠な人間ではない。間違いも犯すし、悩み苦しみもする。自身の決断に自信を持ちつつも、その裏側で「本当にそれでいいのか?」という疑問をチラリと見せるあたりの演技が絶品だ。

2人が心を通わせるシーンはどれも素晴らしいのだが、特に病院でのシーンが印象深い。あることで深く傷ついたメアリーに対して、フランクは思わぬ行動をとる。彼女が祝福されて生まれてきたことを身を持って体験させる予想外のこのシーンには、無条件に胸を熱くさせられた。

この映画の後半には二度に渡って感涙必至の場面がある。「何があっても一緒だ」とメアリーに約束していたフランク。ところが……。両親の離婚に翻弄される子供を描いた映画などではよくあるシーンだが、やはりマッケナ・グレイスとクリス・エヴァンスのツボを突いた演技が、涙腺を強烈に刺激する。

そして、二度目の感涙シーンは意外な仕掛けによって訪れる。それまでドラマのスパイス役として登場していた片目の猫フレッドが大きな役割を果たす。おまけに、それまで全く秘されていたメアリーの母親の驚くべき真実が明かされ、それを背景にしたメアリーとフランクの姿が、再び涙腺を刺激する。

ラストは、その後のメアリーとフランクを描く。天才と普通の子の狭間で苦闘していたメアリーに、一つの理想的な形を与えて、誰もが納得できる温かな余韻を残してくれるのである。

観客を感動させることを義務付けられたような素材を、きっちりとまとめて理想的な方向へと導いたのは、「(500)日のサマー」「アメイジングスパイダーマン」のマーク・ウェブ監督。瑞々しい恋愛映画だった「(500)日のサマー」を思い起こさせるような、生き生きとした描写が実に見事である。

メアリーの祖母役のリンゼイ・ダンカン、担任教師役のジェニー・スレイト、メアリーとフランクを温かく見守る隣人役のオクタヴィア・スペンサーなども存在感のある演技だった。

正真正銘のヒューマンドラマ! 泣きたい人、心を温かくしたい人には絶対におススメの映画である。

ところで、オレも幼稚園の頃に相当にIQが高くて、親は先生から「この子は天才かもしれません」と言われたらしい。だが、何のことはない。その後はただの凡人街道まっしぐらである。まあ、たいていはそんなものだろう。

●今日の映画代、1500円。事前にムビチケ購入済み。

◆「gifted/ギフテッド」(GIFTED)
(2017年 アメリカ)(上映時間1時間41分)
監督:マーク・ウェブ
出演:クリス・エヴァンス、マッケナ・グレイス、リンゼイ・ダンカン、ジェニー・スレイト、オクタヴィア・スペンサー、グレン・プラマー、ジョン・フィン、エリザベス・マーヴェル、ジョナ・シャオ、ジュリー・アン・エメリー、キーア・オドネル、ジョン・M・ジャクソン
*TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開中
ホームページ http://www.foxmovies-jp.com/gifted/