映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ユダヤ人を救った動物園~アントニーナが愛した命~」

ユダヤ人を救った動物園~アントニーナが愛した命~」
TOHOシネマズ みゆき座にて2017年12月26日(火)午後12時55分より鑑賞(I-6)。

動物園にはほとんど行ったことがない。大学時代にキャンパス近くに動物園があったが、そこにもめったに足を運ばなかった。学生のデートコースだという噂もあったから、彼女のいないオレはなおさら近よらなかったのだ。しかし、まあ、動物園の魅力は何となく理解できる。なにせいろんな動物がテンコ盛りだから動物好きにはたまらんだろう。オレも行けば、その魅力にはまるのかもしれない。

ユダヤ人を救った動物園~アントニーナが愛した命~」(THE ZOOKEEPER'S WIFE)(2016年 チェコ・イギリス・アメリカ)は、そんな動物園を舞台にした映画である。といっても、楽しい動物映画ではない。ナチス占領下のポーランドで、300人ものユダヤ人の命を救った夫妻の実話をもとにしたドラマだ。監督は「クジラの島の少女」のニキ・カーロ。

1939年、ポーランドワルシャワにあるワルシャワ動物園。ヨーロッパ最大規模のこの動物園を運営するのは、ヤン(ヨハン・ヘルデンベルグ)とアントニーナ(ジェシカ・チャステイン)の夫妻である。

冒頭で描かれるのは、アントニーナがいかに動物をかわいがり、動物に尽くしているかを物語る場面だ。朝起きたアントニーナ。そのベッドの上には動物がいる。そしてベランダに出ると夫のヤンが動物を散歩させている姿が目に飛び込む。

アントニーナもすぐに動物園に行き、自転車で朝の見回りをする。その後ろを子供のラクダがついていく。たくさんの動物たちに声をかけるアントニーナ。それに応えるかのような生き生きとした動物たちの姿。何とものどかで幸福なシーンである。

続いて登場するパーティーシーン。そこにはアントニーナとヤンたちとともに、ヒトラー直属の動物学者ヘック(ダニエル・ブリュール)がいる。見るからにくせ者だ。彼がこの映画の敵役になる(「ヒトラーへの285枚の葉書」もそうだったが、ダニエル・ブリュールはなぜかナチス絡みの役がよく似合う)。

そんな中、動物園のゾウにアクシデントが起きる。アントニーナが駆けつけると、生まれたばかりの子ゾウが息をしていない。アントニーナは親ゾウに攻撃される危険も顧みずに近づいて、小ゾウを蘇生させようとする。

アントニーナの動物に対する献身的な愛と信頼が伝わるシーンだ(ちなみに、アントニーナが動物を好きになった背景には、過去の悲しい出来事があったことが後ほど明らかになる)。アントニーナと動物との幸せな日々を描いたこうしたシーンが、その後の波乱をより際立たせる。

まもなくドイツがポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が勃発する。動物園は爆撃されて多くの動物が亡くなる。さらに、ナチスの方針によって動物園の存続は危機に瀕し、ヘックが現われて“希少動物を救いたい”と申し出る。

一方、ナチスユダヤ人をゲットー(ユダヤ人強制居住区)に連行する。それを見たヤンはアントニーナに「この動物園を隠れ家にする」という提案をする。最初は驚いたアントニーナも提案を受け入れ、協力してユダヤ人たちを動物園に匿おうとする。

当然ながらその計画は危険なものだ。ナチスに見つかれば、アントニーナたち家族も命がどうなるかわからない。そこでヤンは面白い作戦を考える。動物園を養豚場にして、その餌の残飯をゲットーから運ぶ隙にユダヤ人たちを動物園に連れてくるのだ。

そして、動物園の地下室の動物用の檻を寝床にしてもらい、温かい食事と毛布などを振る舞う。また、園内に駐在するドイツ兵の目を欺くために、アントニーナのピアノの合図で隠れたり静かにしてもらうなど、様々な工夫をする。

とはいえ、危険なことに変わりはない。夫妻は何度も危ない目に遭う。そうした展開をスリリングに描くとともに、アントニーナの行動の源泉を正攻法から描いていく。

それはズバリ、愛である。冒頭で見られたアントニーナの動物への献身的な愛は、家族へも、そしてユダヤ人にも注がれる。彼女にとって、命はどれも大切なものであり、そこに分け隔てはないのだ。そのために勇気を持って行動する。

彼女のまっすぐな愛と勇気が、周囲の人々を動かしていく。ユダヤ人たちを救うために、ヘックに接近したアントニーナはヤンから疑惑の目を向けられ、一時的に夫婦仲が険悪になる。しかし、それでも彼女の信念は揺るがない。

ゲットーでドイツ兵に暴行された少女が、アントニーナの献身によって心を開いていくエピソードも印象的だ。それもまたアントニーナの愛と勇気のなせる業だろう。

終盤は、ホロコーストの犠牲になったコルチャック先生(作家・教育者としても知られるポーランドの偉人とのこと)や、民衆による武装蜂起のエピソードなども盛り込みつつ、アントニーナにとってギリギリの場面を映し出していく。

エンディングに描かれるのは戦後の後日談だ。そこでは大きなサプライズが用意されている。そのあたりも含めて、やや都合よすぎの展開はあるものの、何しろ実話ベースのドラマなので仕方のないところだろう。いずれにしても感動的なラストで心が温かくなる。

アントニーナを演じたのはジェシカ・チャステイン。強烈な個性の女性ロビイストを演じた「女神の見えざる手」とは一転して、今回は優しく、聡明で、その中に芯の強さを秘めた女性を好演している。これだけ幅広い役柄を演じ分けられるのだから、見事なものである。

ホロコーストにまつわる意外なドラマを知るとともに、愛と勇気の大切さをあらためて伝えてくれる作品だ。移民排斥など排他的な雰囲気が漂う今だけに、なおさら心に響く作品である。

●今日の映画代、1400円。毎週火曜は、TOHOシネマズのシネマイルカードの割引料金。

◆「ユダヤ人を救った動物園~アントニーナが愛した命~」(THE ZOOKEEPER'S WIFE)
(2016年 チェコ・イギリス・アメリカ)(上映時間2時間7分)
監督:ニキ・カーロ
出演:ジェシカ・チャステイン、ヨハン・ヘルデンベルグダニエル・ブリュール、マイケル・マケルハットン、イド・ゴールドバーグ、ゴラン・コスティッチ
*TOHOシネマズ みゆき座ほかにて全国公開中
ホームページ http://zookeepers-wife.jp/