映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「嘘八百」

嘘八百
TOHOシネマズ シャンテにて。2018年1月8日(月・祝)午前11時30分より鑑賞(スクリーン2/E-11)。

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。今年も当ブログでは、観た映画のレビューをつらつらと書き連ねていきますので、よろしくお願いいたします。

というわけで、ようやく今年最初の映画鑑賞である。記念すべき一本を何にするのか。悩みに悩み抜いた末に……といいたいところだが、実は何の考えもなしにヒョイと選んだのが「嘘八百」(2017年 日本)。素人にはよくわからない骨董の世界を舞台に、冴えない2人の中年男がコンビを組み、一世一代の大勝負に挑むコメディドラマである。監督は「百円の恋」の武正晴、脚本は「百円の恋」の足立紳NHK連続テレビ小説などを手がけた今井雅子の共同脚本。

主人公の2人の中年男とは、空振り続きの古物商・小池則夫(中井貴一)と落ちぶれた陶芸家・野田佐輔(佐々木蔵之介)。則夫は、娘のいまり(森川葵)を連れて千利休を生んだ茶の湯の聖地、大阪・堺へやってくる。そこで佐輔と知り合うのだが、その出会いがユニークだ。

則夫が「西に吉あり」というラジオの占いに従って車を走らせていると、蔵のある屋敷にたどり着く。そこにいたのが家主らしき男・佐輔だ。彼に掛け合って、蔵の中を調べさせてもらったことをきっかけに、則夫は利休形見の茶器を発見し、則夫をだまして安い値段で引き取る。だが、実はそれは真っ赤な贋物。そして、佐輔は家主でもなんでもなかったのだ!!

騙したはずの則夫が佐輔の大芝居に騙される。いかにも騙し騙されの骨董の世界らしい話である。当然、則夫は激怒するが、同時に自分の目を狂わせた佐輔の腕には感服せざるを得ない。

おまけに、2人には人生の負け組という共通項があった。則夫はある古美術店主と大御所鑑定士に一杯食わされ、妻子に逃げられた過去を持つ。一方、佐輔もかつては将来有望な陶芸家だったものの、その古美術店主と大御所鑑定士にいいように利用され、転落していった。妻子とはずっと一緒に暮らしていたが、その妻もとうとう家を出て行ってしまった。

とくれば、則夫が起死回生の大勝負を挑もうとするのも、無理からぬことだろう。そのターゲットはもちろん、かつて2人が煮え湯を飲まされた古美術店店主・樋渡(芦屋小雁)と大御所鑑定士・棚橋(近藤正臣)だった。則夫は佐輔を誘って、「幻の利休の茶器」を仕立てて一攫千金を狙おうとするのである。

このドラマは、2人のダメ男によるバディムービーであり、人生のやり直しのドラマである。2人は詐欺まがいの大勝負に挑むが、敵はさらなる悪党というわかりやすい構図になっている。そして、人生負け組の2人からは、そこはかとない哀愁が漂ってくる。だから、観客は素直に感情移入しやすいのだ。

全体のタッチは軽妙で笑いに満ちている。武監督の演出はこの手のコメディのツボを突いている。中井貴一佐々木蔵之介の丁々発止のやり取りに加え、脇役たちの存在も絶妙のスパイスになっている。特に佐輔の贋作仲間である飲み屋のマスター(木下ほうか)、表具屋(坂田利夫)たちが、いかにも大阪風の笑いを振りまく。バース、掛布、岡田の三連発の話など小ネタも満載。大物鑑定士を演じる近藤正臣と、古美術店主を演じる芦屋小雁の、大阪商人らしい振る舞いもユーモラスだ。

映画の中盤では、佐輔による贋物の茶器づくりのようすがていねいに描かれる。贋物とはいえ、真剣かつ高度な作陶過程だ。その躍動感と熱気にあふれた場面は、「百円の恋」でのボクシングシーンを連想してしまうほどで、自然に引き込まれてしまったのである。

そして、いよいよ大勝負の時。クライマックスでは贋物の茶器を前に、文化庁までも巻き込む騒動になる。そこでの中井貴一の迫力ある口上が見事だ。展開自体はほぼ予想がつくものの、最後まで飽きることはなかった。

問題はその後に描かれる後日談だ。意外などんでん返しが用意され、思わぬ人物に利益がもたらされる。正直なところ荒唐無稽なドタバタ喜劇風で、個人的にはちょっと引いてしまったのだが、難しいことを抜きにして楽しめるという点では、こういう展開もありなのだろう。

取り立てて目新しさはないし、人間ドラマとしての深みがあるわけでもない。それでもツボを心得た脚本と演出によって笑いと人情をほど良くブレンドしている。そして何といっても芸達者なベテラン俳優たちの演技が観応え十分だ。おかげでウエルメイドの味のある大人のコメディドラマに仕上がっている。

そういえば、昔はこういう誰でも気楽に楽しめる大人の喜劇が、お正月にはよく上映されていたような気がする。何の考えもなしにヒョイと選んだにしては、新年第一弾のセレクトとしてピッタリだったのではないだろうか。うーむ、オレの直観もなかなかのものだぜ。

と新年から自画自賛するバカ野郎なのであった。

●今日の映画代、0円。TOHOシネマズのシネマイレージカードの貯まった6ポイントで無料鑑賞。

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◆「嘘八百
(2017年 日本)(上映時間1時間45分)
監督:武正晴
出演:中井貴一佐々木蔵之介友近森川葵前野朋哉堀内敬子坂田利夫、木下ほうか、塚地武雅桂雀々宇野祥平、ブレイク・クロフォード、寺田農芦屋小雁近藤正臣
*TOHOシネマズ 新宿ほかにて全国公開中
ホームページ http://gaga.ne.jp/uso800/