映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「はじめてのおもてなし」

はじめてのおもてなし
シネスイッチ銀座にて。2018年1月24日(水)午後6時50分より鑑賞(シネスイッチ2/D-8)。

銀座の老舗映画館・シネスイッチ銀座。昔は日本映画と外国映画を交互に上映していたから、この名がついたという話をどこかで聞いたことがあるが、今は特にそうしたシステムはない。それでも2つのスクリーンで上映される映画は、どれも「うーむ、なるほど」と納得させられるセレクションで、ハズレがない。

今回鑑賞したのは「はじめてのおもてなし」(WILLKOMMEN BEI DEN HARTMANNS)(2016年 ドイツ)。

ミュンヘンの閑静な住宅地に暮らすハートマン家。ある日、元教師の母アンゲリカ(センタ・バーガー)がいきなり難民を一人受け入れると宣言する。大病院の医長を務める夫のリヒャルト(ハイナー・ラウターバッハ)をはじめ家族の反対を押し切って、ナイジェリアから来た難民の青年ディアロ(エリック・カボンゴ)を自宅に住まわせるアンゲリカ。それがきっかけで、ハートマン家の周辺では大騒動が巻き起こる……。

ヨーロッパで、いや世界中で問題になっている難民を扱ったドラマだ。難民問題を扱った映画は多いが、ここまで徹底して笑いの要素を盛り込んだ作品は珍しい。リアルな素材をユーモアとうまく融合させている。

その源泉は、登場人物のユニークなキャラにある。元教師の妻アンゲリカは、ヒューマニストでいい人なのだが、暇を持て余していることもあって、時々とんでもない行動に出る。大病院の医長を務める夫のリヒャルトは、老いに恐怖を感じてプチ整形に励み、フェイスブックを始めたりする。長男のフィリップはやり手弁護士で仕事漬けの日々。妻と離婚したシングルファーザーだ。そして長女のゾフィは30過ぎても自分探しを続け、いまだに学生をやっている。

それ以外にも本作には、ヒップホップ好きのフィリップの息子、どこまでもゾフィを追いかけるストーカー男など、強烈な個性の面々が登場する。こうした人たちのエキセントリックな行動が、自然に笑いを生み出すのである。

その笑いは、時としておバカ映画の世界にまで突入する。ナイジェリア青年ディアロを引き取った直後に、アンゲリカの友達が主催して開いたパーティはまるで「ハング・オーバー」の世界だ。大量の人々が押しかけて、大どんちゃん騒ぎを繰り広げる。なんと本物のシマウマまで登場。ついに警察沙汰にまでなってしまうのだ。

それでも、ただ笑える映画で終わらないのが本作の魅力である。アンゲリカをはじめデフォルメされたキャラではあるものの、どれも本質的には身の回りにいそうな問題を抱えた人々。だから、どんなにおバカをやっても、ドラマからリアルさが消えることはないのである。

異質なものが家に入り込んできたことで、ハートマン家の家族は少しずつ変わっていく。アンゲリカは、ディアロにドイツ語を教え、庭仕事を指導するなどするうちに、次第に輝いてくる。一方、リヒャルトはストレスがたまり、部下にあたりちらし、職場で孤立。さらに夫婦仲もますます険悪になる。

そんな家族に転機をもたらすのが、ディアロだ。彼はドイツ人とは違う価値観を持ち出して家族に影響を与える。夫婦仲が悪くなって、ついに別居したハートマン夫妻に、「夫は妻を守り、妻は夫を支えるべきだ」と主張したり、独身のゾフィに男性を紹介しようとしたりもする。

その異質さに反発しつつも、同時に大切なものを再確認していくことによって、やがて家族は良い方に向かっていく。そこにディアロの亡命申請をめぐる一件を絡ませたところが、なかなか見事な構成である。

ヒップホップのビデオ制作のため学校にストリッパーを呼んだフィリップの息子は、退学の瀬戸際に追い込まれ。授業でイスラム過激派に関する発表を行う。そこでディアロが、ナイジェリアで自分の家族に何が起きたかを語るシーンが心を揺さぶる。それまで、ほとんど語ろうとしなかった事実だけに、なおさらである。

そして、その後に最大のクライマックスがやってくる。一度亡命申請を却下されたディアロの裁判が行われるのだが、そこにハートマン夫妻とフィリップ父子の絆の再構築劇と、ゾフィのロマンスを絡ませていく。このあたりも、素直に胸に響く展開だ。

本作のドラマの背景には、当然ながらドイツの難民問題がある。難民を積極的に受け入れてきたドイツだが、そこには依然として差別や偏見がある。この映画にも、それがあちこちに出てくるのだが、けっしてシリアスに流れ過ぎず、あくまでもコメディー映画の枠内で、それを描こうとしている。それこそが作り手の狙いだろう。

よく考えれば都合よすぎの展開も多い。ディアロが良い人過ぎるのも、不自然といえば不自然。ラストのほうで、イスラム教徒のディアロにビールを飲ませるのも、やりすぎだろう。

とはいえ、難民や家族の問題を笑いに包んで、しっかり届けてくれる作品なのは間違いない。観終わって心が温まってくる。エンドロールのあとに極めつけのジョークが用意されているのも、楽しいところだ。

●今日の映画代、1500円。前日に渋谷チケットポートで鑑賞券を購入。

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◆「はじめてのおもてなし」(WILLKOMMEN BEI DEN HARTMANNS)
(2016年 ドイツ)(上映時間1時間56分)
監督・脚本:ジーモン・ファーフーフェン
出演:センタ・バーガー、ハイナー・ラウターバッハ、フロリアン・ダーヴィト・フィッツ、パリーナロジンスキー、エリアス・ムバレク、エリック・カボンゴ
シネスイッチ銀座ほかにて公開中。全国順次公開予定
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