映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「去年の冬、きみと別れ」

去年の冬、きみと別れ
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2018年3月18日(日)午前11時40分より鑑賞(スクリーン2/E-8)。

いや、本当は仕事的に映画など観ている場合ではないのだ。ヒジョーにヤバい状況になっているのだ。もしかしたら崖っぷちかもしれないのだ。だが、それでも足が向いてしまうのが映画貧乏の恐いところ。

それにしても何だか最近、猟奇殺人事件を扱った映画が多いような気がするのはオレだけ? まあ、現実におぞましい事件がけっこう起きていたりするわけだから、それが投影されているのかもしれないが。

去年の冬、きみと別れ」(2018年 日本)も、かなりエグイ事件をネタにしたサスペンス・ミステリーだ。原作は芥川賞作家・中村文則の小説。

最初に登場するのは、盲目の若い女性が点字で手紙を書くシーン。続いて壮絶な火災現場が映し出される。そこでは盲目の女性が焼死し、彼女を監禁・殺害した容疑でカメラマンの木原坂(斎藤工)が逮捕される。ところが、木原坂の姉・朱里(浅見れいな)が手配した弁護士の力もあり、木原坂が重罪に問われることはなかった……。

というドラマの発端となる事件を手際よく、コンパクトに提示した導入部が印象的。何しろ監督は、サスペンス・ミステリーの佳作「犯人に次ぐ」(2007年)の瀧本智行。全編に渡って、この手のドラマの壺を押さえた手際よい演出が光る。

そして始まる「第二章」。え? 何で第一章じゃないの? そのワケは最後まで観ると理解できます。いずれにしても、耶雲恭介(岩田剛典)というフリーライターが雑誌に企画を持ち込むところから話が始まる。その企画は冒頭に登場した不可解な焼死事件のスクープ記事。耶雲は木原坂には秘密があると確信し、事件の真相を探ろうというのだ。

前半は、耶雲が取材を重ねて真相に迫る様子が描かれる。木原坂本人に接近し、様々な角度から事件について問いただすと同時に、彼に関わりのあった人間からの証言を集める。そんな中から、不気味で謎めいた木原坂の素顔が浮かび上がる。そして、木原坂と姉の朱里の幼少時に起きた恐ろしい事件も浮上する。

実のところ、このあたりまでのストーリーに奇抜さはない。児童虐待に起因するある事件、それによってゆがんだ姉弟の性質と異常な関係性といったネタは、既視感たっぷりだ。木原坂が耶雲の婚約者の百合子(山本美月)に接近する展開も、十分に予想がついてしまう。

ただし、それでは割り切れない何かが感じられる。耶雲が企画を持ち込んだ雑誌のデスク小林(北村一輝)も、この一件に深くかかわっていることが判明し、さらに大きな事件の全体像を予感させる。

まもなく、再度の悲劇が起きる。そしてドラマは動き、すべての真相が明らかになる。なんだ、やっぱりそれだけのことだったのね。真相は意外に単純。デカい全体像を予感したオレがバカでした。だけど、この映画、まだ上映時間が40分以上も残ってるのにどうするんだ?

と思ったら、そこから先に待っていたのは驚愕の展開だった。ただ事件を追っていただけに見えた耶雲自身にも大きな秘密があり、それが彼を動かす原動力になっていたのだ。そのあまりにもおぞましい策略ときたら!!!

そうした真相を、耶雲が書いた本で種明かしする構図が効果的だ。第二章からドラマが始まる構成の理由が判明し、そこまでに張られた数々の伏線が見事に回収される。

このドラマの根底にあるのは純愛だ。それを示す情感あふれるシーンも挟み込まれる。とはいえ、数々の凄惨で恐ろしい出来事のせいで、素直に感動できるかどうかは微妙なところ。むしろオレ的には人間の悪魔性が強く印象に残る。

本作の原作は未読なのだが、中村文則の作品はもっと人間の内面をあぶりだしているのではないだろうか。人間の奥底にある闇や狂気、復讐心などについて深く掘り下げているのではないかという気がする。

しかし、映画ではそのあたりは薄味な感じだ。それよりも驚愕のストーリー展開や、サスペンスとしての面白さを追求することに注力している。

確かに猟奇殺人事件というネタだけでも重たいのに、そこに人間の本質に関わる重厚なテーマ性まで載せたら、そりゃあ観客が引いてしまうかもしれない。あえてそれを避けて、エンターティメントとしての道を突き進んだのかも。これはこれでアリだろう。何しろ面白いのは確かなのだから。

役者は全体的に抑制的な演技で、この映画に合っている。主演の岩田剛典は「EXILE」「三代目J Soul Brothers」のパフォーマーらしいが、アクのなさが逆に底知れなさを感じさせる印象的な演技だった。浅見れいなの怖さ&エロさ、盲目の女性役の土村芳のピュアな演技もなかなかのもの。

原作を読んだ人には物足りないかもしれないが、普通に面白い映画だと思う。まだ原作を読んでいない人は、映画を観てからにしたほうがよいのでは?

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◆「去年の冬、きみと別れ
(2018年 日本)(上映時間1時間59分)
監督:瀧本智行
出演:岩田剛典、山本美月斎藤工浅見れいな土村芳Mummy-D利重剛小林且弥山田明郷堀内正美林泰文永倉大輔、毎熊克哉、松田珠希、菊地麻衣、大山蓮斗、辻大樹、佐藤貢三、円城寺あや、でんでん、北村一輝
丸の内ピカデリーほかにて全国公開中
ホームページ http://wwws.warnerbros.co.jp/fuyu-kimi/