映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「レッド・スパロー」

レッド・スパロー
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2018年4月1日(日)午前11時40分より鑑賞(スクリーン6/E-8)。

ロシアがイギリスで元二重スパイの親子を化学兵器で殺害しようとしたとかで、世界的に騒ぎになっているようだ。真相は知らないが、まあ、そのぐらいのことはやりかねないだろうなぁ~。と思ってしまうのは、たくさんスパイ映画を観てきたツケだろうか。

レッド・スパロー」(RED SPARROW)(2018年 アメリカ)は、そのロシアの女スパイのお話。元CIAの工作員だったジェイソン・マシューズの小説を「ハンガー・ゲーム」シリーズのフランシス・ローレンス監督が映画化した。タイトルにあるスパローとは、敵をハニートラップにかける女スパイのことだ。

主人公のドミニカ・エゴロワ(ジェニファー・ローレンス)は、ボリショイ・バレエ団バレリーナ。彼女が病気の母親の世話をしたのちに劇場へ向かい、ステージに上がるところからドラマが始まる。スポットライトを浴びながら華麗に踊るドミニカ。ところが次の瞬間、ドミニカは事故にあって足に大ケガをしてしまう。

一方、スクリーンにはもう一人の男が登場する。ネイト・ナッシュ(ジョエル・エドガートン)というCIAの工作員。彼はモスクワ市内で情報源の男と接触を試みる。だが、その直後、ナッシュはアクシデントから発砲してしまい、警察に追いかけられることになる。

この2つの緊迫したドラマを同時並行で描いた導入部が秀逸だ。何が何やらワケのわからないうちに、スクリーンの中に引きずり込まれてしまう。

冒頭の事故でバレリーナの道を絶たれたドミニカは、ボリショイ・バレエ団での地位を失う。おまけに、家を追い出され、母の病気治療もままならなくなるピンチに直面する。そこに現れたのが情報機関に勤める叔父だ。生活のために、スパイになるようにドミニカを誘う叔父。しかも、彼はドミニカに様々な仕掛けをして、彼女の選択の余地をなくしてしまう。こうしてドミニカはロシア政府の極秘スパイ養成施設に送られてしまう。

そこからは、スパイ養成施設で訓練を受けるドミニカの姿が描かれる。これがまあ、とにかく理不尽でエゲツない訓練なのだ。スパローになるためには、自らの肉体を使った誘惑や心理操作などを駆使して情報を盗み出すテクニックを学ばなければならない。にしてもだ。「いくら何でもそこまでやるか???」といったことのオンパレードなのである(エロいシーンもそこそこあります)。

その訓練を施すのは、名優シャーロット・ランプリング演じる女教官。まるでバケモノのような冷徹かつ狂気の存在を圧巻の演技で見せる。背筋ゾクゾクもののコワサである。

だが、ドミニカはひるまない。この子、バレリーナというイメージとは裏腹に、最初からけっこう肝が据わっているし、反骨精神旺盛だ(だからこそ、スパイにスカウトされたのだろうが)。自分をレイプしようとした男に向かって、教官や生徒の前で全裸になって脚を広げ啖呵を切るシーンが壮絶だ。彼女の芯の強さを象徴する出来事である。

やがてドミニカはその才能を買われて、ロシア情報庁の内部に潜むアメリカの二重スパイをあぶり出す任務を任される。そして、ブダペストに飛んでCIA工作員への接近を図る。その男こそ、冒頭に登場したネイト・ナッシュである。

ここからはドミニカとナッシュの虚々実々の駆け引きが展開する。互いに惹かれあいながらも、それぞれのキャリアや忠誠心、国家の威信をかけてだまし合いを繰り広げていく。ハニートラップによってナッシュを手なずけ、ロシア情報庁の上層部に潜む内通者を聞き出そうとするドミニカ。

だが、敵もさるもの。ナッシュは早くにドミニカの正体をつかみ、やがて彼女をアメリカの二重スパイにしようと働きかける。複雑な様相を見せ始める2人の関係性。はたして、そこに本物の愛情はあるのか……。

ドミニカの本心がまったく読めないことが、スパイ映画としての面白さを倍加させている。ほぼ無表情を通しながら、微妙な感情の揺れを覗かせるものの、いったい何を考えているのかは最後までわからない。

ドミニカを演じるのは、デヴィッド・O・ラッセル監督の「世界にひとつのプレイブック」(2012)でアカデミー賞主演女優賞を受賞しているジェニファー・ローレンス。「X-MEN」シリーズや「ハンガー・ゲーム」シリーズにも出演しているから、こういうタイプの映画に出ても驚かないが、それにしても今回のタフで堂々たる演技ときたら。例えば同じ女スパイものの「アトミック・ブロンド」のシャーリーズ・セロンのようなキレキレのアクションこそないものの、得体の知れない存在感とタフさでは引けをとらない。

終盤、ドミニカはロシア当局に疑いをかけられて拷問を受ける。スパイ映画にはありがちな場面とはいえ。ここはけっこうエグいシーンが続くので、気の弱い方はご注意を。しかし、まあ、それに耐えるドミニカの姿には鬼気迫るものがある。

そして、クライマックスでは意外な裏切り者の正体が明らかになり、それをめぐってドミニカが大きな罠を仕掛ける。その果てに訪れるのは壮絶な復讐劇だ。

実は、冒頭近くでドミニカはすでにある復讐を敢行している。自身の運命を狂わせたものに鉄槌を下すのだ。そして、ラストでまたしても人生を狂わせた相手に復讐の刃を下す。なるほど。本作はドミニカの復讐のドラマといっても過言ではないだろう。

難を言えばモスクワ、ブタペスト、ウィーンなどドラマの舞台が点々としているのに、それがあまり効果的に使われているように見えない点だろうか。

それから、この映画、あちこちに細かな伏線が張られているので、気を許すと途中でワケがわからなくなる可能性大。そのあたりにも注意が必要かもしれない。

いずれにしても、ジェニファー・ローレンスの度胸の座った演技をはじめ見応えは充分。なかなかのスパイ映画だと思う。

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◆「レッド・スパロー」(RED SPARROW)
(2018年 アメリカ)(上映時間2時間20分)
監督:フランシス・ローレンス
出演:ジェニファー・ローレンスジョエル・エドガートンマティアス・スーナールツシャーロット・ランプリングメアリー=ルイーズ・パーカージェレミー・アイアンズ
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ http://www.foxmovies-jp.com/redsparrow/