映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」

ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男
TOHOシネマズシャンテにて。2018年4月27日(金)午前11時20分より鑑賞(スクリーン2/D-11)。

東京・日比谷に「ミッドタウン日比谷」がグランドオープンしたのは3月29日。そこには13スクリーン、約2,800席の都内最大級のシネコン「TOHOシネマズ日比谷」がある。これが実に素晴らしい劇場だと評判なのだが、オープンから1か月近く経ってもなかなか足を運ぶ機会がなかった。

そんな中、ついにその時が来たのだ。「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」を観に、TOHOシネマズ日比谷に行くぞ!! と思ったら、なんと同館での上映はすでに終了しているではないか。現在上映しているのは、近くにあるTOHOシネマズシャンテ。仕方がない。そちらに行くことにしよう。

ちなみにTOHOシネマズシャンテは、TOHOシネマズ日比谷のオープンに伴って閉館になるという噂もあったのだが、結局は存続となってメデタシメデタシ。

というわけで、「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」(DARKEST HOUR)(2017年 イギリス)(上映時間2時間5分)である。第二次世界大戦の時にイギリスの首相に就任して、ヒトラーの脅威に立ち向かったウィンストン・チャーチルの伝記映画だ。監督は、「プライドと偏見」「つぐない」のジョー・ライト

この映画のスゴイところは、実際のチャーチルとは似ても似つかないゲイリー・オールドマンを主演に起用したところ。その無謀ともいえるチャレンジを可能にしたのが、特殊メーキャップ・アーティストの辻一弘をはじめとしたスタッフたちだ。

何しろスクリーンに登場するのはチャーチルそのもの。黙っていたら、演じているのがゲイリー・オールドマンだとは誰も思わないだろう。この映画でアカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞したのも当然の驚異的な技術なのだ。

もちろん、ただ外見が似ているだけではない。そこはさすがに名優ゲイリー・オールドマン。政治家として、人間として、多様な表情を見せるチャーチルを見事に演じ分けている。彼が演じていなかったら、ここまで魅力的なチャーチルにはならなかっただろう。

第二次世界大戦初期の1940年5月。首相就任からダンケルクの戦いまでの27日間を描いたドラマである。

英国議会における野党・労働党党首の熱気あふれる演説からスタート。与党・保守党と挙国一致内閣を組む条件としてチェンバレン首相の退陣を求めたその演説をきっかけに、ウィンストン・チャーチルゲイリー・オールドマン)が首相候補に浮上する。

ただし、彼は保守党内の嫌われ者。その嫌われ者ぶりを秘書のエリザベス(リリー・ジェームズ)の視点からコンパクトに描いたパートが印象的だ。ベッドで朝食を食べながら、手紙の文言を考えてエリザベスにタイプさせる。しかし、途中でブチ切れて彼女を追い出す。頭は切れるが、口が悪く、短気な男なのが一目瞭然のシーンだ。おそらく観客の多くが、「こんなヤツとはつきあいたくない!」と心底思うのではないだろうか。

とはいえ、ただの嫌われ者ではドラマにはならない。それとは違った側面もきちんと見せていく。巧みな演説をはじめとした政治家としての有能さ、彼の欠点を容赦なく指摘する妻のクレメンティーン(クリスティン・スコット・トーマス)に頭のあがらない恐妻家ぶり、意外なユーモアのセンス、そして深い苦悩を抱えた姿。そうした様々な姿を見ているうちに、観客は次第に彼の魅力に引き込まれていくのだ。

首相に就任したチャーチルにとっての難題はナチス・ドイツへの対応だ。当時、ヒトラー率いるナチス・ドイツはヨーロッパを席巻し、フランスは陥落寸前で、イギリスにも侵略の脅威が迫っていた。そんな中でチャーチル首相は、就任演説で徹底抗戦を主張する。

だが、戦況は悪化する一方で、イギリス軍はフランス・ダンケルクの海岸で絶体絶命の状況を迎える。初めは確固たる信念で、徹底抗戦の道を突き進もうとするチャーチルだが、外相ハリファックスら和平推進派の攻勢もあって、次第に追い詰められていく。ヒトラーとの和平交渉か徹底抗戦か、究極の選択を迫られるのである。

ここで印象深いのは、チャーチルにも、和平推進派にも、どちらにも肩入れしない描き方だ。両者とも「このままでは祖国がなくなる。もっと多くの人が犠牲になる」という危機感に突き動かされて行動を起こしている。同じ危機感を持ちつつも、選択する手段は決定的に違う。だからこそ、チャーチルの苦悩や葛藤がより深いものになるのである。

迷いに迷った末に、一度は和平に傾きかけるチャーチル。だが、そこで意外な人物の変心が彼を翻意に導く。そして、そこで用意されたサプライズ。一国の首相が庶民の声に耳を傾けるというアイデアは、けっして悪くはないと思うが、クライマックスの演説に至る過程は少々あざとすぎるのではないか。

終盤になると、「ナチスと闘うんだ! 祖国を守るんだ!」の大合唱になり、個人的にはちょっとシラケてしまった。実際はもっと複雑な事情があっただろうし、戦争の描き方も薄っぺらに感じられた。まあ、そういうことは承知の上で、ヒトラーという人物に焦点を当てることに専念したのだろうが。

何にしても、そこからクリストファー・ノーラン監督の映画でも有名なあのダンケルクの撤退戦へと続くことになる。それをきっかけに反転攻勢に転じたイギリス軍は、他の連合国軍とともにヒトラーを倒し、チャーチルは英雄になったのである。

そういう歴史のお勉強としても、稀代のユニークな首相の伝記映画としても、見応えは充分にあると思う。何よりも、ゲイリー・オールドマンの成りきりぶりを堪能するだけでも、十分に元は取れる映画だろう。そのぐらい見事な一世一代の演技である。

それにしても、オレがTOHOシネマズ日比谷に足を運ぶのはいつになるのやら。

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◆「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」(DARKEST HOUR)
(2017年 イギリス)(上映時間2時間5分)
監督:ジョー・ライト
出演:ゲイリー・オールドマンクリスティン・スコット・トーマスリリー・ジェームズスティーヴン・ディレイン、ロナルド・ピックアップ、ベン・メンデルソーン
*TOHOシネマズシャンテほかにて全国公開中
ホームページ http://www.churchill-movie.jp/