映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「君の名前で僕を呼んで」

君の名前で僕を呼んで
新宿武蔵野館にて。2018年5月23日(水)午後7時40分より鑑賞(スクリーン1/B-8)。

新宿武蔵野館の客席に足を踏み入れたら、そこは女の園だった……。

というのは大げさでもなんでもなく、そのぐらい女性が多くてほぼ9割が女性客。上映された映画は「君の名前で僕を呼んで」(CALL ME BY YOUR NAME)(2017年 イタリア・フランス・ブラジル・アメリカ)。タイプの違う2人のイケメン君が恋愛を繰り広げるドラマなのだ。そりゃあ、女性比率が多くなるはずである。

舞台は1983年の夏の北イタリア。両親とともに避暑地にやって来た17歳のエリオ(ティモシー・シャラメ)は、大学教授である父(マイケル・スタールバーグ)がインターンとして招いた24歳のアメリカ人大学院生オリヴァー(アーミー・ハマー)と出会う。自信にあふれ、自由奔放に振る舞うオリヴァーに最初は反発するエリオだが、次第に特別な思いを抱くようになっていく。

少年から大人になりつつある若者と、年上の青年の同性愛を描いてはいるが、それをことさらに強調するようなことはしない。今から30年以上も前の話だけに、周囲の偏見などもありそうだが、そうしたものとの戦いなども登場しない。あくまでも、ごく普通の恋愛ドラマとして描いているのが、この映画の特徴だ。

初めて会った相手のふるまいに苛立ち反発するものの、交流を重ねるうちに次第に惹かれていくというのも、よくある恋愛のパターン。接近しつつ、戸惑い、それでもやっぱり・・・といった恋の心理の揺れ動きが繊細に描かれている。

その媒介として、キラキラと輝く夏の陽光の中、一緒に泳いだり、自転車で街を散策したり、本を読んだり、音楽を楽しんだりといった要素を巧みに織り込んでいる。エリオの父が考古学者だという設定から、古代の彫刻なども2人の恋愛を盛り上げる小道具として効果的に使われる。

一度はオリヴァーへの思いを断ち切るかのように、友達の女の子と親密になるエリオ。だが、やがてオリヴァーと結ばれる。タイトルの「君の名前で僕を呼んで」とは、その時にオリヴァーがエリオに言う言葉。2人が一つになったことを如実に物語る言葉だが、これはやはり同性愛ならでは。だって、男の子と女の子がお互いの名前で呼び合ったら、それはほとんどギャグの世界である。

さて、出会いがあれば別れもあるということで、やがてオリヴァーがアメリカに帰る日が来る。その時に父がエリオに話すシーンは感動的だ。けっして同性愛を否定したりせず、自らの経験も込めて優しく受け止める。結局のところ、マイケル・スタールバーグ演じる父ちゃんが、この映画で一番の儲け役かもしれない。

ラストの後日談も印象深い。しばらくのちに、エリオはオリヴァーからある事実を告げられる。映画はエンドロールとともに、それを聞いたエリオの表情を延々と映し出す。胸に去来する様々な思いを、その表情だけで示すエリオ役のティモシー・シャラメが素晴らしい。間違いなく、今後の活躍が期待される新星だ。

オリヴァー役のアーミー・ハマーの安定した演技も見もの。年齢もタイプも違うこの2人のイケメン君が観られるのだから、女性ファンにとって目の保養になること請け合い。

際どい性的描写も多い映画だが、けっして下品にならないのは、「日の名残り」「眺めのいい部屋」の名匠ジェームズ・アイヴォリー監督が脚本を執筆したせいだろう(原作はアンドレ・アシマンの小説)。アイヴォリー監督は、この作品で第90回アカデミー脚色賞を受賞した。

いずれにしても、同性愛という要素に関係なく、とてもていねいに作られた恋愛映画である。瑞々しくて切なさにあふれている。女性に限らず、恋愛映画が好きな方はぜひどうぞ。

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◆「君の名前で僕を呼んで」(CALL ME BY YOUR NAME)
(2017年 イタリア・フランス・ブラジル・アメリカ)(上映時間2時間12分)
監督:ルカ・グァダニーノ
出演:アーミー・ハマーティモシー・シャラメマイケル・スタールバーグ、アミラ・カサール、エステール・ガレル、ヴィクトワール・デュボワ
新宿武蔵野館ほかにて公開中
ホームページ http://cmbyn-movie.jp/