映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「未来のミライ」

未来のミライ
TOHOシネマズ日比谷にて。2018年7月25日(水)午後7時40分より鑑賞(スクリーン9/F-13)。

~妹が生まれて戸惑う男の子が遭遇する不思議な出来事

初めてTOHOシネマズ日比谷に足を踏み入れた。そこは噂通りの素敵な空間・・・と言いたいところだが、上映開始時間ギリギリに駆け込んだので、周囲の様子などまったく目に入らなかったのだ。今度ちゃんと観察してきます。

というわけで、今回観たのは「サマーウォーズ」「バケモノの子」「おおかみこどもの雨と雪」の細田守監督の新作「未来のミライ」(2018年 日本)である。舞台はほぼ主人公一家の家のみ。そこからファンタジー的世界に突入するものの、過去作に比べて小ぶりな印象は否めない。とはいえ、それは細田監督にとって新たなチャレンジなのかもしれない。

山下達郎のテーマ曲とともに俯瞰で映し出される主人公の小さな家。続いて、主人公一家の長女誕生の経緯がオープニングタイトルとともにコンパクトに描かれる。そして、再び俯瞰で映される家。増築されている! うーむ、この構成、うまいよなぁ~。

というわけで、いちいちうならされる場面がたくさんある。さすが細田監督である。

甘えん坊の4歳の男の子“くんちゃん”(声・上白石萌歌)が主人公のドラマだ。彼に初めての妹“ミライちゃん”ができる。だが、それまで両親(声・星野源麻生久美子)の愛情を独占してきたくんちゃんは、どうやらご機嫌斜め。何かと両親を困らせる。

オレに子供はいないし、自分の子供時代の記憶もほとんどないが、それでも、くんちゃんの気持ちは何となくわかる。こういうケースで、赤ちゃん返りする子供もいたりするらしい。

とくれば、当然、くんちゃんがそこからどう成長していくかが、このドラマの肝ということになる。はたして、くんちゃんはどんな体験をするのだろうか。

くんちゃんは庭で数々の不思議な経験をする。最初は、かつて王子だったという謎の男の出現だ。何のことはない一家に住むあるものが人間化したのだが、なぜに王子なのだ?

続いてもう一人の人物が出現する。くんちゃんを“お兄ちゃん”と呼ぶセーラー服の少女だ。彼女はなんと、未来からやってきたミライちゃん(声・黒木華)だったのだ。

この未来のミライちゃんと、自称王子、そしてくんちゃんが協力してあることを成し遂げる。それは、父親が留守の母親から頼まれていたのに、すっかり忘れていたひな人形の片づけだ。

その後も、未来のミライちゃんが活躍するかと思いきや、また新たな人物が登場する。今度は幼いころの母親だ。彼女は片付けが大の苦手で、散らかすのが大好き。ちょうど今のくんちゃんと同じである。そんな2人が家の中を散らかし放題にする。

続いて登場するのは、くんちゃんの死んだひいおじいさん。ただし、若い頃の彼だ。くんちゃんと一緒に馬に乗ったり、バイクに乗ったりして冒険をする。

こうした不思議な体験を通して、くんちゃんはちょっぴり成長していくのである。

正直なところ、くんちゃん自身が行動するというよりは、謎の人物に従っているだけで冒険譚としては弱い気がする。まあ、くんちゃんはまだ4歳だから仕方ないのだろうが。

個人的に一番しっくりこなかったのが、最後のエピソードだ。家族でお出かけすることになったものの、ズボンが気に入らないと駄々をこねるくんちゃん。そんな彼が不思議な電車で着いたのは近未来のような怪しい東京駅。そこで危険な目に遭いながらも、ミライちゃんを助けるのだ。

それまでのエピソードは、家族の歴史をたどるもので、ごく自然なくんちゃんの成長にもつながるのだが、この最後のエピソードはちょっと荒っぽい感じ。結局のところ、「僕はミライのお兄ちゃんなんだ」という自覚につなげているのだが、あまりにも荒唐無稽なエピソードなので違和感がぬぐえない。

とはいえ、難しいことを考えずにシンプルに観たら、面白いのは確かである。くんちゃんや家族のユーモラスな言動が笑えるし、隅々まで計算された完成度の高い絵も見応えがある。特に人物の表情の豊かさは特筆ものだ。

そして、くんちゃん役の上白石萌歌、ミライちゃん役の黒木華、両親役の星野源麻生久美子、ひいじいちん役の福山雅治など、豪華な声優陣もみんなハマリ役。これまた見応え(というか聞き応え?)十分である。

この映画の発想の原点には、どうやら細田監督の幼い子供の存在があるらしい。いわばごく個人的な映画といってもいいかもしれない。それをこれだけ楽しく見せるのだから、娯楽作品としての質はそれなりに高い。

そういえば、劇中では初めて本格的に子育てする父親がやけに頼りない。そんな夫を妻がディスる場面もある。また、彼女自身も「どうして怒ってばかりいるんだろう」と子育て中の自分に自己嫌悪するシーンもある。こうしたリアルな子育ての現実も、細田監督自身が体験したものなのかもしれない。そのあたりを中心に、子どもを持つ人なら共感するであろう部分もけっこうある。

家族の歴史のドラマとしても、くんちゃんの成長物語としても、やや薄味に感じたのは事実。それでも素直に面白い映画だし、全体を包むほのぼのとした温かさは心地よい。細田監督の過去作のことは忘れて、気楽に観たほうがいいかもしれない。

◆「未来のミライ
(2018年 日本)(上映時間1時間38分)
監督:細田守
声の出演:上白石萌歌黒木華星野源麻生久美子、吉原光夫、宮崎美子役所広司福山雅治
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ http://mirai-no-mirai.jp/