映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「カメラを止めるな!」

カメラを止めるな!
TOHOシネマズ日本橋にて。2018年8月21日(火)午後7時30分より鑑賞(スクリーン7/F-18)。

~安っぽいゾンビ映画かと思ったら、意外な舞台裏のドラマへと転化

ついに観てしまったのだ。巷で話題の「カメラを止めるな!」(2018年 日本)を。

何が話題かといえば、もともとは映画専門学校「ENBUゼミナール」のワークショップ「シネマプロジェクト」の第7弾として製作され、都内2館だけの上映だったのだが、口コミで評判が広まり、8月からアスミック・エースが共同配給について全国で拡大公開された異例のヒット映画なのだ。

この日のTOHOシネマズ日本橋もかなりの入り。おい、君たち! ブームにばっかり乗っかってんじゃねえよ。オレが支援した「菊とギロチン」も観に行きなさい!!! と、思わず叫びたくなるような盛り上がりなのである。

さて、どんな映画なのかといえば、実はこの映画には仕掛けがある。前半と後半でまったくタイプの違う構成になっているのだ。

前半は完全なゾンビ映画。山奥の廃墟で、ある自主映画の撮影隊がゾンビ映画を撮影している。だが、そこに何と本物のゾンビが登場する。役者やスタッフは恐怖のどん底に突き落とされるが、あくまでも本物を追求するディレクターの日暮は大喜びで撮影を続ける。しかし、その間に撮影隊の面々は次々とゾンビ化していく……。

正直、前半は大して面白くもないゾンビ映画だった。撮影のつもりが本物の惨劇になるというのは、ホラー系の映画ではよくあるパターン。おまけに全体のつくりがチープだし、役者も大根揃い。何だか妙なシーンもたくさんある。

そんな中、唯一の見どころは全編ワンカットで描くカメラワークだ。そこから生まれるスリルがあるから、どうにか目をそらさずに観ることができたのだ。

だが、後半は一変する。前半のゾンビ映画が終わると、そこには意外なネタバラシが待っている。実は、前半のゾンビ映画は、新たに開局したゾンビ専門チャンネル製作による番組だったのだ。

しかも、それは37分ワンカットの生中継という無茶苦茶な企画。おかげで、他の監督にはみんな断られ、テレビの再現ドラマなどを手がけていた日暮にお鉢が回ってきたのである。

え! そうだったの? あらビックリ。

そんな観客も多いだろうが、残念ながらオレはこの仕掛けを事前に知っていたのだ。だから、なおさら前半のゾンビ映画が観るに堪えなかったわけだ。

後半の展開にも全く期待していなかった。ところが、である。実際に観てみるとこれが意外に面白かったのである。

後半に描かれるのは、撮影に臨むまでの準備期間に、ディレクターの日暮やスタッフ、役者たちが巻き起こす、すったもんだの大騒ぎだ。赤ん坊連れでリハに来る女優など、個性派、というかクセのありすぎる人々が勢ぞろいして、あれやこれやと問題を起こす。そこには元女優の日暮の妻、映画監督志望の娘なども絡んでくる。彼らによるドタバタが面白くて素直に笑ってしまったのだ。

さらに、その後は問題の撮影当日の様子が描かれる。つまり、前半のゾンビ映画の流れに沿って、その裏側で何が起きていたのかが明らかにされるのだ。

ここではワンシーンワンカットの生中継という設定が、抜群の効果を発揮する。何しろ中継を途切れさせることはできない。まさにタイトル通りに「カメラを止めるな!」という状況下で、撮影隊の面々がとる珍妙かつ必死の行動が笑いを誘うのである。

襲いくる数々のトラブルに必死で対処する役者やスタッフたち。前半のゾンビ映画を最初に観た時に、「あれ?」「何これ?」と思った変な場面も、なぜそうなったのかわかってくる仕掛けだ。不自然なカメラアングルや、唐突な役者の動きなどもすべてその謎が氷解する。日暮の妻の合気道「ポン」も、こうやって裏側を見せられると、なおさらおかしくなってくる。

最初はただの大根だと思っていた役者たちの演技も、それなりに理由があったりして、それがいい味になっていたりもする。同時に日暮の妻役のしゅはまはるみをはじめ、無名ながら実力ある俳優の演技も堪能できる。

クライマックスのクレーンカメラをめぐる大トラブルでは、撮影隊の絆と映画愛を綴る心憎い締めくくりが用意されている。監督・脚本・編集の上田慎一郎は、これが劇場用長編デビュー作だそうだが、なかなか才能のある人だと思う。今後メジャーでも面白い作品を作りそうだ。

ところでこの映画、現在、盗作疑惑が浮上している。この映画のユニークな構成をはじめ基本のアイデアは、今は解散したある小劇団の舞台劇のものだという。その作品名はエンドロールで「原作」ではなく「原案」として表示されている。また、作者や劇団関係者は「企画協力」だの、「スペシャル・サンクス」だの、不自然な形で表示されている。

まあ、本人たちが納得していればそれでもいいのだろうが、どうやらそうではなくて訴訟騒ぎになっているようだ。

ここからは推測になるが、おそらくプロデューサーも監督も、ここまでヒットするとは思わないで、そのあたりの権利関係の処理に関してルーズだったのではないだろうか。

だとすれば、実にもったいない。今からでも遅くないので、きちんと話し合いをして正しい道を選択して欲しいものですなぁ。深い人間ドラマこそないものの、エンタメとしてはなかなかに面白い映画なのだからして。

◆「カメラを止めるな!
(2018年 日本)(上映時間1時間36分)
監督・脚本・編集:上田慎一郎
出演:濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、長屋和彰、細井学、市原洋、山崎俊太郎、大沢真一郎、竹原芳子、吉田美紀、合田純奈、浅森咲希奈、秋山ゆずき、山口友和、藤村拓矢、イワゴウサトシ、高橋恭子、生見司織
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