映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「SUNNY 強い気持ち・強い愛」

SUNNY 強い気持ち・強い愛
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2018年9月1日(土)午後2時25分より鑑賞(スクリーン9/E-12)。

~オリジナルの良さを生かして大根監督らしい色付けをしたリメイク版

2011年に製作され、日本でもヒットした韓国映画「サニー 永遠の仲間たち」は素晴らしい作品だった。末期ガンの仲間の存在をきっかけに、かつての女子高生グルーブが再結集を目指すドラマで、ノスタルジーと切なさと感動にあふれていた。オレも最後には思わず感涙にむせんでしまったものだ。

そんなヒット映画を日本でリメイクしようというのは、いかにもあざとい策略だ。関係者各位の商魂が丸見えである。しかも、オリジナルがあまりに素晴らし過ぎただけに、失敗に終わる確率が高いのではないか。

そんな不安を両手いっぱいに抱えつつ、リメイク版の「SUNNY 強い気持ち・強い愛」(2018年 日本)を鑑賞した。だが、結論を先に言えばオレの不安は杞憂に終わった。リメイクとしては成功の部類に入るよくできた映画だったのだ。

だって、そりゃそうでしょう。「モテキ」「バクマン。」などでおなじみの大根仁監督は、韓国版の設定やストーリー展開の骨子をそのまま踏襲しているのだから。それどころか、劇中で登場するエピソードもかなり似通っている。主人公の名前が奈美だというのも、韓国版の主人公ナミを意識したものだろう。

リメイクというと、あれこれ手を加えたくなるものだが、大根監督があえてそうしなかったのは、韓国版の素晴らしさを理解し、リスペクトしているからだろう。それがこのリメイク版の最大の勝因だ。

とはいえ舞台は日本だ。そこから派生する部分については、当然新しい要素を加えている。特に時代を1990年代に設定し、当時世間を席巻していたコギャルたちを主役に据えたアイデアが秀逸だ。

物語の主人公の奈美(篠原涼子)は専業主婦。母の見舞いに行った病院で、入院中のかつての仲間の芹香(板谷由夏)と再会する。コギャルブームが巻き起こった1990年代に青春の真っただ中にいた彼女たちは、女子高生6人の仲良しグループ“サニー”の一員だった。当時リーダーだった芹香は、末期ガンで余命わずか。「死ぬ前にもう一度みんなと会いたい」と願う。サニーのメンバーは、ある事件をきっかけに音信不通となってしまったのだ。その願いをかなえるべく、奈美は探偵を使ってみんなの消息を調べ、かつての仲間を再結集しようとするのだが……。

というわけで、奈美がかつてのメンバーを探す現在進行形のドラマと、彼女たちが高校生だった頃の過去のドラマが同時並行で進行する。両者のつなげ方は自然で、まったく違和感がない。

過去のドラマパートでは、阪神淡路大震災で淡路島の田舎から東京の高校に転校して来た奈美が、芹香たちと親しくなり、サニーのメンバーとしてダンスコンテストを目指すまでが描かれる。

そこで効果バッグンなのがコギャルである。韓国版のドラマの背景には、かつての学生運動があったのに、それがコギャル文化になってしまうのはどうなんだ? という気もしないではないが、日本の社会状況を考えれば無理からぬことだろう。

それより何より、このコギャルたちの傍若無人さが、映画全体の陰影を色濃くしている。ルーズソックスにミニスカートで、いつも笑い、ハイテンションでにぎやかに過ごす彼女たち。大根監督は、当時のコギャルをよりデフォルメして破格のきらめきを与えている。その無敵のキラキラ感が、現在進行形のドラマの切なさを倍加させるのだ。

何しろ現在の彼女たちは、けっしてバラ色の人生ではない。余命わずかな芹香。一見幸せそうに見える奈美も、夫や娘とのギクシャクした関係に悩んでいる。その他のメンバーも、それぞれが夫の借金や浮気に苦しんだり、自らアル中を抱えていたりと問題だらけなのだ。

そうした過去の青春のキラキラ感と現在のどんより感の対比が、ノスタルジーや切なさをよりクッキリとあぶりだす。笑顔を忘れそうになる現在の彼女たちに、おかしくもないのに笑ってばかりいたかつての彼女たちが、「もう一度笑おうよ!」と呼びかけるのである。

ただし、現在進行形のドラマパートも陰鬱なわけではない。むしろメンバーたちの個性的なキャラを生かした笑いが次々に飛び出す。あるメンバーの夫を懲らしめるために、かつてのコギャルファッションに身を包んで襲撃に出かける場面は爆笑モノだ(韓国版にも似たようなシーンがあったと思うが)。大根監督はアップやストップモーションを多用して、ケレンにあふれた場面を生み出している。

大根作品といえば、「モテキ」の長澤まさみをはじめ、女優がとびっきり輝いているのも魅力だが、今回もそれは変わらない。若き日のメンバーを演じた広瀬すず池田エライザ山本舞香野田美桜田辺桃子富田望生。そして今の彼女たちを演じた篠原涼子小池栄子ともさかりえ渡辺直美板谷由夏。いずれも実に魅力的に描かれている。どうすれば、こんなに女優を輝かせられるのか。毎回不思議で仕方がない。

韓国版では、70~80年代の懐かしの洋楽ヒット・ナンバーが効果的に使われていたが、このリメイク版でも90年代のヒット曲がふんだんに使われている。音楽を担当した小室哲哉の曲をはじめ、懐かしのヒット曲が満載だ。安室奈美恵の「SWEET 19 BLUES」、trfの「EZ DO DANCE」、JUDY AND MARYの「そばかす」などなど。ほーら、あの時代を知っている人にはたまらんはず。

怪しい探偵(リリー・フランキー)の手を借りつつ、少しずつメンバーの消息をつかんでいく奈美。その過程では、奈美の年上の初恋相手との再会なども描かれる。これも韓国版にあったエピソードだったと思うが、これまたノスタルジックで切ない場面である。

だが、メンバー探しは最後の最後まで一人の消息が不明のまま。そして、過去パートではかつて彼女たちをバラバラにしたある事件の顛末が描かれる。この伏線があるから、ラストの感動が大きくなる。

はたしてサニーの再結集は実現するのか。ネタバレになるので詳しくは伏せるが、最後の場面は韓国版とほぼ同様。それでも、わかっていても胸が熱くなってくる。小沢健二の「強い気持ち・強い愛」をバックにした、サニーのメンバーたちによるダンスシーンが観客の心を直撃する。そして、最後の最後に現れるあの人物……。

このあたりも韓国版の展開とほぼ同様だ。ただし、韓国版がここで余韻を残して終わったのに対して、大根監督はその後に観客へのプレゼントを用意する。韓国版にはなかった新旧のサニーのメンバーによるダンスシーンだ。

このキラキラしたダンスが、韓国版とは違った色合いを加えている。感動の後で幸せな気分を観客に味合わせ、心地よく映画館から送り出してくれるのである。大根監督らしいエンタメ度の高いエンディングといえるだろう。

結果的に、オリジナルの韓国版の素晴らしさをそのまま取り込んで、大根監督らしい新たな魅力を加えた点で、リメイク版としてはなかなかの映画になっていると思う。

そして、本作を観た方には、ぜひ韓国版も見てもらいたい。そちらがあってこその本作なのだから。

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◆「SUNNY 強い気持ち・強い愛
(2018年 日本)(上映時間1時間58分)
監督・脚本:大根仁
出演:篠原涼子広瀬すず小池栄子ともさかりえ渡辺直美池田エライザ山本舞香野田美桜田辺桃子富田望生三浦春馬リリー・フランキー板谷由夏
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ http://sunny-movie.jp/