「食べる女」
シネマサンシャイン池袋にて。2018年9月23日(日)午後2時より鑑賞(シネマ2/E-8)。
~様々な女たちの恋愛事情を料理と絡めて描いた群像劇
「料理をする男子はモテる」とどこかに書いてあったが、それは本当なのか? 昔、けっこうマメに料理をしていた時期があるが、モテた記憶などこれっぽっちもない。おまけに、今では面倒くさくなって、料理などほとんどしなくなってしまった。だから、最近はろくなものを食べていない。外で美味いものを食べる金もない。
そんなオレにとって、実にうらやましい映画が「食べる女」(2018年 日本)である。ベテラン脚本家・筒井ともみの短編小説集を自身が脚本を手がけて映画化した。監督はかつてTBS社員として、数々のヒットドラマを演出し、その後映画監督として「手紙」などを監督した生野慈朗。
様々な悩みを抱える8人の女たちの群像劇だ。その中心にいるのが文筆家で古書店“モチの家”の女主人・餅月敦子(小泉今日子)。料理をこよなく愛する彼女の家には、様々な悩みを抱えた女たちが集まってくる。幼なじみでごはん屋の女将・鴨舌美冬(鈴木京香)、編集者の小麦田圭子(沢尻エリカ)、ドラマ制作会社の白子多実子(前田敦子)。さらに、彼女たちの周辺には、外国人主婦の豆乃・リサ・マチルダ(シャーロット・ケイト・フォックス)、古着屋店員の本津あかり(広瀬アリス)、パーツモデルの米坂ツヤコ(壇蜜)、バーの店長・茄子田珠美(山田優)などもいる。
彼女たちの悩みは主に恋愛、つまり男関係についてだ。美冬は、自分の店の若い従業員に次々に手を出して店を去られている。圭子は、すっかり恋愛にご無沙汰だ。多実子は、ときめかない男との関係を続け結婚を申し込まれている。マチルダは、料理下手で離婚の危機を迎えている。あかりは、酔って行きずりの男と関係を重ねている。ツヤコは2人の子供を抱え逃げた夫に未練たっぷり。珠美は、妊娠中だがその子の父は意外にも……。
というように、それぞれが複雑な事情を抱えているのである。そんな中、キョンキョン演じる敦子については、派手な男関係などは出てこない。ただし、彼女も恋愛に関する過去の傷があり、今は一人で暮らしているという設定だ。
こんなふうに複雑な事情を抱えた女たちを描いてはいるのだが、けっして深刻なドラマではない。全体のタッチは明るく、ほんわかしている。ユーモアも随所に散りばめられている。ツヤコが子供とともに別れた夫を訪ねるシーンなどは、女の情念を感じさせて背筋ゾクゾクものなのだが、そうしたシビアな場面はそれほど多くない。男女の絡みのシーンもけっこうあるが、それも適度なところで止めている(よってR15ではなくPG12指定です)。
しかし、まあ、これだけの人数の女性の人生を描くのだから、個々のエピソードについて薄味気味なのは否めないところ。それを補うのは、やはり女優陣の豪華さだろう。小泉今日子、沢尻エリカ、前田敦子(勝地涼と知り合ったのはこの映画なのか???)、広瀬アリス、山田優、壇蜜、シャーロット・ケイト・フォックス、鈴木京香。よくもまあ、これだけバラエティーに富んだ女優たちを集めたものである。彼女たちの存在が各エピソードに深みを与えている。それぞれの個性が十分に発揮されて、絶妙のハーモニーを奏でている。
そして、この映画のもう一つの大きな魅力が料理である。タイトル通りに、女たちは美味しい料理を作り食べる。「美味しい料理と愛しいセックス」には相関関係があるというのが、この映画のコンセプトらしい。そういえば、登場する女性たちの名前も、料理に関係したものが多い。軽い女であるあかりを、安くて手軽なひき肉にたとえる比喩なども面白い。
ドラマが進むにつれて、悩める女たちは少しずつ変化していく。新しい恋に出会う者、今までの関係を清算して前に踏み出す者、新たな自分を発見する者など様々だ。そこにも料理が効果的に使われている。伊丹十三監督の「タンポポ」を彷彿させる、料理をセックスに絡めたシーンなどもあったりする。
劇中に登場する料理は、いずれも美味しそうに撮られている。ファーストフード&インスタント食品づけのオレにとってはまさに目の毒である。ラストに登場する卵かけご飯など、卵かけご飯が苦手なオレでも、思わず食べたくなってしまったほどだ。
各エピソードは最後まで破綻をきたすことはない。ほんわかと温かな余韻を残してエンディングを迎える。それもこの映画にはふさわしい。女性たちのおおらかさとたくましさも伝わってきた。
どうしても女優陣に注目が行く映画だが、脇役の男性陣もなかなかの存在感を見せている。ユースケ・サンタマリア(あまりの変身ぶりで途中まで気づかなかった!)、池内博之、勝地涼、小池徹平などなど。オレンジレンジのRYOや頭脳警察のPANTAも、出番は少ないながらいい味を出しています。このあたりにもご注目を。
というわけで、豪華女優陣と料理を堪能する映画である。驚きや興奮、深い思考を促す場面などはないけれど、たまにはこういう映画もよいのではないだろうか。心にそよ風が吹いて、足が地についた生活の大切さを痛感させられたのである。
◆「食べる女」
(2018年 日本)(上映時間1時間51分)
監督:生野慈朗
出演:小泉今日子、沢尻エリカ、前田敦子、広瀬アリス、山田優、壇蜜、シャーロット・ケイト・フォックス、鈴木京香、ユースケ・サンタマリア、池内博之、勝地涼、小池徹平、笠原秀幸、間宮祥太朗、遠藤史也、RYO、PANTA、眞木蔵人、小島聖、宇田琴音、鈴木優菜、瀧福之助
*丸の内TOEIほかにて全国公開中
ホームページ http://www.taberuonna.jp/