映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「あの頃、君を追いかけた」

「あの頃、君を追いかけた」
池袋シネマ・ロサにて。2018年10月16日(火)午前10時50分より鑑賞(シネマ・ロサ2/自由席)

~甘酸っぱくて、切なくて、ノスタルジックな台湾の青春映画を忠実にリメイク

リメイク映画は数々あるが、どの程度オリジナルに忠実かは千差万別だ。オリジナルを大幅にアレンジして、まったく雰囲気の違う作品にしたケースもあれば、オリジナルを忠実になぞった作品もある。

先ごろ公開になった大根仁監督の「SUNNY 強い気持ち・強い愛」は、主人公たちをコギャル世代に設定し、ラストでキャスト総出演のダンスを披露するなど、けっこう大胆なアレンジも加えていたが、基本となる部分はオリジナルの韓国版の要点をほぼ踏襲していた。

だが、それ以上にオリジナルに忠実なリメイク映画がある。「あの頃、君を追いかけた」(2018年 日本)だ。オリジナルは同名の台湾映画。台湾の作家、ギデンズ・コーが自作の自伝的小説を2011年に映画化し、台湾はもちろん日本でもヒットした。甘酸っぱくて、切なくて、ノスタルジックな青春映画だ。

今回のリメイク版がどの程度オリジナルに忠実かといえば、人物のキャラ設定やストーリー展開、エピソードの数々がそっくりなのだ。それだけではない。舞台となる高校の制服をはじめ、細かなディテールもかなり似通っている。ドラマを映すカメラワークまでそっくりだ。

劇中では、どう考えても台湾としか思えない異国情緒あふれる風景も登場する。主人公たちの受験風景では、みんなが半袖の夏服を着ているのだが、それもオリジナルに合わせたものらしい。これは完全コピー。いわゆる完コピではないかっ!!

ここまで完コピしたリメイク版は見たことがない。うーむ、いったいなぜ? 裏に何か事情があったのか。それとも単純にオリジナルをリスペクトしたからなのか。疑問は膨らむばかりだが、それはとりあえず置いておこう。

大人になった主人公が、高校生時代を振り返る形でドラマが始まる。クラスの悪友たちとバカなことばかりして、お気楽な高校生活を送る水島浩介(山田裕貴)。ある日、そんな浩介の態度に激怒した教師は、彼をクラス一の優等生・早瀬真愛(齋藤飛鳥)の前の席に座らせて、真愛にお目付け役を命じる。

真愛は中学時代から仲間たちのマドンナ的存在。その真面目さに反発しつつ、少し心がときめく浩介だった。やがて教科書を忘れた真愛のピンチを浩介救ったことをきっかけに、真愛は浩介に真剣に勉強を教える。最初は嫌がっていた浩介も、巧みな真愛の教え方に乗せられて、次第に成績がアップしていく。こうして2人は距離を縮めていく。

オリジナル同様に、前半は浩介と真愛を中心に、高校生たちのキラキラした青春の日々を生き生きと綴っている。マンガチックで笑える場面もあったりする。たとえば、浩介は自宅で全裸で過ごす。「何だコイツは?」と思ったら、父ちゃんも全裸だった……などというオチ(これもオリジナルと同じ)に思わず笑わせられる。ちなみに生田智子演じる母ちゃんは、ちゃんと服を着ている。

さて、距離を縮めた浩介と真愛だが、そのままお気楽に恋人関係に突入したりはしない。お互いに「自分に自信が持てない」「本当の私を知ったら嫌われるかも」などと微妙な心理を抱えて、その関係は遅々として進展しないのだ。

そんな2人に対して、もどかしさを感じると同時に、「そうだよなぁ。初恋ってあんなものだよなぁ」と共感し、自分の過去ともリンクして甘酸っぱさがこみあげてくるのだった。

そして高校卒業。浩介や真愛が仲間とともに海に遊びに行くシーンが、とびっきり輝いていて印象深い。それ以外にも印象深いシーンがたくさんある映画だ。もちろん、その多くはオリジナルを踏襲したものではあるのだが。

卒業後、彼らはそれぞれの道を歩み出す。そんな中、離れて暮らすことになった浩介と真愛だが、それでも微妙な関係は続く。久しぶりに再会した2人が、お互いの気持ちを書いた気球を飛ばすシーンが心に染みる。まさに胸キュンのシーンである。

だが、それでも2人が恋人になることはない。小さなすれ違いが決定的な亀裂に発展してしまうのだ。それはどう考えてもバカバカしいこと。大人になって振り返れば笑い話で終わりそうだが、若さゆえシリアスな事態に至ってしまう。それがとても切ない。

その後、疎遠になった2人が地震をきっかけに、連絡を取り合うエピソードもオリジナル通り。そして、ラストの結婚式でのユーモラスで微笑ましいエピソードもまた然り。

というわけで本当に何から何まで完コピなだけに、さすがに驚きはないものの、「甘酸っぱくて、切なくて、ノスタルジックな青春映画」というオリジナルの魅力は、そのまま受け継がれているのは間違いない。

時間が経って青春時代を振り返った時に、「あの時ああだったら……」という思いは誰もが持つのではなかろうか。そんなちょっぴり苦い思いと共鳴して、心を揺さぶられてしまう映画なのである。

そういう点で、リアルタイムに青春を過ごしている若者よりも、大人の観客の方がよりグッとくるのかもしれない。

主演の山田裕貴はいかにもあの年代の男の子らしさを熱演。同じく主演の「乃木坂46」の齋藤飛鳥は、何だか人形みたいで可愛いですなぁ。彼女の無二の親友を演じた松本穂香ともども、なかなかの演技で今後が楽しみである。

リメイク映画を紹介する時には、「オリジナル版もぜひ」とお勧めするのだが、これだけ完コピだと、ちょっと戸惑ってしまう。けれど、やはりオリジナルはオリジナル。やっぱり、そちらも観てもらいたい。ホントに素晴らしい青春映画なので。

f:id:cinemaking:20181017103321j:plain

◆「あの頃、君を追いかけた」
(2018年 日本)(上映時間1時間54分)
監督:長谷川康夫
出演:山田裕貴齋藤飛鳥松本穂香、佐久本宝、國島直希、中田圭祐、遊佐亮介
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ http://anokoro-kimio.jp/