映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「マイ・プレシャス・リスト」

マイ・プレシャス・リスト

ヒューマントラストシネマ有楽町にて。2018年10月21日(日)午後2時10分より鑑賞(スクリーン1/D-12)。

~主演のベル・パウリーが魅力的な引きこもりの天才少女の成長物語

空回りするイタい女性を描いた映画には、なかなか面白い作品が揃っている。「フランシス・ハ」「スウィート17モンスター」「若い女」、そして日本の「勝手にふるえてろ」……。

そして、そこにまた新たな作品が加わった。「マイ・プレシャス・リスト」(CARRIE PILBY)(2016年 アメリカ)である。カレン・リスナーの原作小説を、プロデューサーとして「さよなら、僕らの夏」などを手がけ、本作が長編初監督作品となる女性監督のスーザン・ジョンソンが映画化した。

主人公のキャラ設定が秀逸だ。ニューヨークのマンハッタンで暮らすキャリー・ピルビー(ベル・パウリー)は、IQ185の超天才少女。ハーバード大飛び級で卒業している。それで何がイタいのか?

実は彼女はコミュニケーション能力ゼロ。自分が天才ゆえか人を見下して、減らず口ばかり叩いている。そのため仕事もせずに引きこもり気味で、孤独な毎日。自宅でひたすら読書ばかりしているのだ。

そんなキャリーの唯一の話し相手は、父の友人でセラピストのペトロフネイサン・レイン)。映画の冒頭はキャリーがそのペトロフを訪ねて、「ロンドンに住む父が感謝祭に来られないと言ってきた!」と不満を吐き出すシーンだ。ほとんど一人芝居のように、自分のことを速射砲のようにまくしたてる。そのシーンを観ただけで、彼女がどんな女の子かがすぐにわかってしまう。やっぱり孤独でイタい女の子なのだ。

とはいえ、完全に孤独な現状に甘んじているわけではない。どこかで絆を求め、「このままでいいのか?」と疑問を抱いていることも、チラリチラリと顔を覗かせる。

まあ考えてみれば、普通ならまだ大学生。天才だからこそ、飛び級などというものでいち早く卒業してしまったわけだ。しかも、あとあとになってわかるのだが、それはけっして彼女自身が望んだものではなかったのだ。そうしたことも、彼女の現状に影響を与えている。そのあたりのキャリーの描き方のバランスがとても良い。

セリフにも感心させられる。何せ天才のキャリーだけに、文学から哲学、音楽など様々な学問ネタを散りばめながら、ウィットに富んだセリフが次々に飛び出す。そこから彼女の微妙に変化する心理が見て取れる。

主人公を演じるベル・パウリーがとびっきり魅力的だ。「ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出」「ミニー・ゲッツの秘密」などに出演しているらしいが、個人的には今回初めて見る女優。大人なんだか子供なんだかわからない微妙な表情や言動の変化が、この役にピッタリと合っている。実際に目の前に彼女がいたら、「ウザイなぁ」と思いつつも、何となく放っておけなくなりそうだ。

キャリーに変化をもたらす大きな要素は、セラピストのペトロフが彼女に渡すリストにある。そこには、6つの課題が書かれている。それをクリアすれば、彼女の現状は変わるというのだ。そこで、キャリーは半信半疑ながらも、実行しようとする。

「ペットを飼う」という課題には金魚を買ってきたり、「子どものころ好きだったことをする」という課題には、昔好きだったチェリーソーダを飲み始めたりする。極めつけは「デートに出かける」という課題だ。何とキャリーは新聞広告で相手を探す。それも底意地の悪いある策略をめぐらせるのだ。

そんなことをしつつ、キャリーは様々な人と出会う。彼女が嫌々始めたバイト先の社員たち、婚約者がいるのに迷っているエリート男、隣の家の風変わりな音楽家などなど。そして、想定外のことも含めて様々なことを経験していく。

それによって少しずつ彼女は変化していく。ただし、直線的にポジティブな方向に向くわけではない。行きつ戻りつしながら、あれこれ迷いながら少しずつ前へ進む。おかげで、彼女の変化がリアルに受け止められる。

同時に、彼女の過去のトラウマも見えてくる。現在進行形のドラマの合間に、ところどころ挟まれる大学教授との恋愛。キャリーの妄想なのかと思ったら、実はそうではなかった。また、父親との大きな確執も見えてくる。そうしたものを通して、天才という側面とは違う普通の女の子としてのキャリーの姿が見えてくるのだ。

個人的に最も好きなシーンは、キャリーが音楽家の青年と夜のマンハッタンを歩くシーン。そこでも等身大の素のキャリーが見られる。実に微笑ましくて、心温まるシーンだ。最初は天才という観客には縁遠い存在だったキャリーだが、ドラマが進むにつれて身近な存在になっていくのである。

終盤、キャリーにとって懸案だった父との関係が、もつれながらもある方向を向く。それはまさに彼女の成長を物語っている。世の中は複雑で割り切れないけれど、だからこそ捨てたものではない。キャリーはそう理解したのではないだろうか。

ほのぼのとしたラストシーンも心を温めてくれる。キャリーが間違いなく変化したこと、これからは前を向いて歩いていくことを印象付ける。そんな彼女を見て勇気づけられる女性も多いことだろう。

というわけで、キャリーに共感しやすいのはやはり女性だと思うが、男性のオレにとってもなかなか面白い映画だった。キャリーの成長物語であるのと同時に、ラブコメ的な魅力も備えているので、気軽に観ても楽しめると思う。

f:id:cinemaking:20181023151830j:plain

◆「マイ・プレシャス・リスト」(CARRIE PILBY)
(2016年 アメリカ)(上映時間1時間38分)
監督:スーザン・ジョンソン
出演:ベル・パウリー、ヴァネッサ・ベイアー、コリン・オドナヒュー、ウィリアム・モーズリー、ジェイソン・リッター、ガブリエル・バーンネイサン・レイン
新宿ピカデリーほかにて公開中
ホームページ http://my-precious-list.jp/