「七つの会議」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2019年2月7日(木)午前11時30分より鑑賞(スクリーン9/E-11)。
~サービス精神満点のエンタメ企業ドラマにメッセージ性も
大ヒット映画を避けて、ミニシアター系の映画ばかり観ているヤツだと思われがちだが、別に意識してそうしているわけではない。たまたまである。
というわけで、2月4日付の全国週末興行成績ランキングで、初登場1位に輝いた「七つの会議」(2018年 日本)を観てきたのだ。
「下町ロケット」をはじめ数々の作品がドラマ化されている人気作家・池井戸潤の小説が原作だ。監督は「半沢直樹」「下町ロケット」など池井戸潤原作のヒット・ドラマを多数手がけている福澤克雄。そして、キャストも過去の池井戸ドラマでおなじみの役者がたくさんいる。そのため、驚きこそないものの安心して楽しめる作品に仕上がっている。
タイトルの「七つの会議」とは劇中に登場する会議の数のようだ。映画の冒頭で、いきなり最初の会議が始まる。都内にある中堅メーカーの東京建電の定例の営業会議だ。そこで営業部長の北川(香川照之)は、原島課長(及川光博)率いるノルマ未達の営業2課を厳しく叱責する。その一方で、ノルマをクリアした坂戸課長(片岡愛之助)率いる営業1課を称賛する。そして全員に激しい檄を飛ばす。
そんな中、いびきが聞こえてくる。営業1課の万年係長・八角民夫(野村萬斎)だ。彼はいわゆる「ぐうたら社員」。それを見た北川部長は激怒する・・・かと思いきや、そうはならないのだ。
この映画のCMでは、八角と北川のド迫力の対決シーンが登場する。「どっちが罪が重いんだろうなあ」とすごむ北川に、八角が「まるで犬だな」と返すやつだ。八角を演じる野村萬斎は狂言師。北川を演じる香川照之は、歌舞伎役者・市川中車としても活躍する。むむ、狂言VS歌舞伎の古典芸能対決か? と期待したのだが、肩透かしを食らってしまった。だが、実は、この行動の背景には、ある大きな秘密が存在していたのである。
それにしても、この最初の会議、実際にこんなことをやっている会社があったなら、完全なブラック企業だろう。社員は次々にやめていくはず。この人手不足の折に、「こんな会社、ありえな~い!」と思う人も多いのではないか。
だが、おそらくこれは意図的なもの。この映画、映像、演技、演出などすべてが仰々しくてマンガチック、そして勧善懲悪の時代劇風でもある。そうやって全体のタッチはエンターティメントに徹して、誰でも気軽に楽しめる映画にしようというのが、作り手の狙いなのだと思う。ユーモアも随所に織り込まれている。
もう一つ、特徴的なことがある。この映画は中盤まで、モノローグによってドラマが進行する。普通はモノローグといえば、主人公など一人の人物のものだが、この映画では次々に主要な人物が交代でモノローグを担当する。それが視点の変化を促し、謎も増幅していく。
さて、その後もぐうたら社員ぶりを発揮する八角。そんな彼を、年下のエリート課長・坂戸が激しく叱責する。すると、八角は坂戸をパワハラで訴える。その結果、坂戸は意外にも左遷させられてしまうのである。
ここからドラマが動き始める。同時に、親会社の横暴、社内の権力争いなども描かれる。全体のタッチにリアリティはなくても、ドラマの展開はリアリティ充分。どこの会社でも起こりそうなことが、巧みに散りばめられている。これが池井戸作品の魅力なのだろう。
まもなく営業VS経理のバトルの中で、八角の疑惑が浮上する。コストの安い下請けを切って、コスト高の下請けに切り替えていたのだ。はたして、その裏に何があるのか。
中盤以降は、左遷された坂戸に代わって、新たに営業1課長に着任した原島と、不倫の果てに退社を決意した女子社員・浜本優衣(朝倉あき)の2人が、八角が抱えている秘密を探る展開になる。
一連の不可解な出来事の裏に、どんな秘密があるのか。それはネタバレになるから書かないが、これまた不正、隠蔽など、現実の事件ともリンクするリアリティのあるネタが用意されている。
基本的な展開は、「一見無能に見えるダメダメ男、すっかりなめてたら、あららら失礼しました」というよくあるパターンなのだが、一筋縄ではいかない。八角は何度か挫折しかけるし、ワルの親玉が次々に代わる。「こいつこそラスボスか?」と思うたびに、また違うワルが登場するのだ。
さらに、八角の過去の人生をさりげなく描き、その心の傷を行動の源泉に据えているから、不自然さがない。それも含めて、様々な要素をテンコ盛りに詰め込んでいるのに、オーバーフローになっていない。そのあたりもよくできている。
クライマックスの会議も大迫力だ。その後の展開も面白い。そして、エンドロールでの八角の言葉。不正や隠ぺいに加担する日本人の心根をサムライにまでさかのぼって分析し、それでも少しは改善できるかも・・・という明確なメッセージを放っている。単なるエンターティメントだけでなく、メッセージ性もある映画なのだ。
しかし、まあ、豪華なキャストである。「いかにも」な使い方をしている音尾琢真、鹿賀丈史、橋爪功、北大路欣也、意外な魅力を発揮している藤森慎吾など、どのキャストも魅力十分。土屋太鳳、小泉孝太郎、溝端淳平あたりはチラッとしか顔を出ない豪華さだ。ついでに、ノンクレジットの役所広司まで最後のワンシーンに登場する。
サービス精神満点の企業エンタメ映画であるのと同時に、企業や組織、そこで働く人々のあり方などをさりげなく問うあたり、なかなかよくできた作品だと思う。
*画像(チラシ)がないので公式ホームページでチェックしてね。
◆「七つの会議」
(2018年 日本)(上映時間1時間59分)
監督:福澤克雄
出演:野村萬斎、香川照之、及川光博、片岡愛之助、音尾琢真、藤森慎吾、朝倉あき、岡田浩暉、木下ほうか、吉田羊、土屋太鳳、小泉孝太郎、溝端淳平、春風亭昇太、立川談春、勝村政信、世良公則、鹿賀丈史、橋爪功、北大路欣也
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ http://nanakai-movie.jp/