映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「まく子」

「まく子」
テアトル新宿にて。2019年3月18日(月)午後12時5分より鑑賞(B-11)。

~大人になることを嫌う少年と不思議な少女の交流

大量に貯まっている映画のチラシをどうすべきかは、永遠の命題だ。場所を取るのは確かだが、捨てるには忍びない。だったら持って帰らなければいいではないかというかもしれないが、劇場で目にしたら、魅入られたように手に取ってしまうのだから仕方がない。

そんな中でも、最近、妙に心に引っかかったのが「まく子」(2018年 日本)という映画のチラシだ。でかでかと描かれているのはサルの顔か? だいたい「まく子」って何なんだ? 疑問が膨らむばかりで、ついつい映画館に足を運んだのである。

「まく子」は、直木賞作家・西加奈子の同名小説を、新鋭の鶴岡慧子監督が映画化した作品。鶴岡監督は、長編第1作「くじらのまち」が国内外で高く評価されたとのこと。

ドラマの舞台となるのは温泉街(ロケは群馬県四万温泉で行われた模様)。そこで旅館“あかつき館”を営む両親(草なぎ剛須藤理彩)と暮らす小学5年生のサトシ(山崎光)が主人公だ。サトシはちょうど思春期。自分の心と体の変化に戸惑い、大人になることに嫌悪感を持っている。

そんなある日、サトシの前に転入生コズエ(新音)が現われる。コズエは仲居として働き始めた母親(つみきみほ)と一緒にあかつき館に住み込む。美少女だがおかしな言動をするコズエに戸惑うサトシ。すると突然コズエは、「自分はある星から来た」と思いも寄らぬ秘密を打ち明ける……。

というわけで、いわゆるファンタジータッチで小学生の男の子の成長を描くドラマだ。成長に戸惑い、大人を嫌悪する彼が、いかにして変化や成長を受け入れるのか。それがドラマの肝だろう。

そこでカギになるのが異星人を自称する転校生の存在である。彼女の星では「死」というものがなく、成長も変化もないという。そんな彼女との交流を通して、主人公のサトシが変わっていく。

とはいえ、この転校生。仲居の母親ともども最初から宇宙人モード全開である。個人的な好みでいえば、はたして、あそこまで宇宙人モードを全開にする必要があるのか疑問。初めは、「奇妙なことを言う女の子」程度にしておいた方が、クライマックスの光のシーンのインパクトが高まって、もっと余韻が残った気がするのだが。

コズエが楽しそうに行う「まく」行為も、テーマとの結びつきがイマイチしっくりこないように感じた。再生のようなものを表現しているのかもしれないが、そこがスッと胸に落ちてこなかった。

この映画には、サトシとコズエの交流以外にも様々な要素がある。サトシの父の不倫、学校に来ない同級生、子供たちに漫画を読んでくれる風変わりな大人、再生を象徴するらしい奇妙な祭り、はては放火事件まで起きる。それらの様々なものが混沌としたまま入り混じって、整理しきれていない感じがする。原作は未読なので断定的なことは言えないが、原作にあるものをそのまま詰め込んだのだろうか。

ドラマの展開として、サトシとコズエとの交流は比較的じっくり描かれているし、父親との関係もそれなりによく見えてくる。その反面、母親や中居たちについては十分に描き切れていないと思う。サトシとの関係性もやや曖昧だ。そのあたりをもう少し描いてくれたなら、サトシの成長がよりクッキリと見えてきたのではないか。

とまあ、ネガティブなことを言ってきたが、もちろん良いところもたくさんある映画だ。いや、むしろ全体としては思春期映画としての魅力を十分に備えていると思う。特に山崎光、新音をはじめ子役たちの好演もあって、少年少女たちの瑞々しい描写は出色だ。恋心も含みつつ、コズエに対して微妙に揺らぐサトシの心理が、手に取るように伝わってきた。

誰しも、ああいう年頃には、サトシと似たような思いを持った経験があるのではないだろうか。そんなかつての自分を思い起こして、グッとくる人も多いことだろう。

サトシの成長がメインとなるテーマだが、それ以外にも多様なテーマが見えてくるのも面白いところ。人間の死、人を信じること、人を愛することなどなど……。全てのテーマがきちんと追求されているわけではないが、それでも確実に作品に奥行きを生み出している。

映像も魅力的だ。温泉街の風景を活かしつつ、アニメなども使い、鮮度の高い映像を繰り出す。温かで幸福感が漂うラストにも好感が持てた。鶴岡監督が、なかなかの才能の持ち主なのは間違いない。今後の活躍に期待したい。

ところで、サトシの父親を草なぎ剛が演じているのだが、その半端でないテキトー男っぷりが素晴らしい。少し前に公開になった「半世紀」での稲垣吾郎のただのオッサンっぷりともども、実に良い味を出している。これも「新しい地図」効果なのだろうか?

 

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◆「まく子」
(2018年 日本)(上映時間1時間49分)
監督・脚本:鶴岡慧子
出演:山崎光、新音、須藤理彩つみきみほ村上純、橋本淳、内川蓮生、根岸季衣小倉久寛草なぎ剛
テアトル新宿ほかにて公開中
ホームページ http://makuko-movie.jp/