映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」

ふたりの女王 メアリーとエリザベス」
Bunkamuraル・シネマにて。2019年3月25日(月)午後1時25分より鑑賞(ル・シネマ1/C-5)。

~対照的な2人の女王、シアーシャ・ローナンマーゴット・ロビーの必見の演技

ただ昔のことを描いただけの時代劇には、あまり興味が持てない。それがどこかで現代に通じていないと、面白くない。16世紀の英国を舞台に、従姉妹でありながらそれぞれスコットランドイングランドの女王として対峙していくメアリー・スチュアートとエリザベスI世の数奇な運命を描いた歴史ドラマ「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」(MARY QUEEN OF SCOTS)(2018年 イギリス)は、500年も前のドラマながら、確実に現代ともつながっている。

中心的に描かれるのはメアリーのドラマだ。スコットランドに生まれたメアリー・スチュアートシアーシャ・ローナン)は、0歳でスコットランド女王になるものの、幼少時にフランスへ渡り、16歳でフランス王妃となる。だが、18歳で未亡人となり、スコットランドへ帰国する。その帰国シーンからドラマが始まる。

メアリーはイングランド女王になる野望を持っている。そのため、エリザベスに対して自分を後継者として認めるように要求する。だが、自分の地位が脅かされる危険性があるだけに、エリザベスはそれに応じようとしない。

つまり、2人はライバル関係にあるのだ。それぞれの波乱の日々を描くとともに、2人の屈折した関係を描くのがこのドラマの柱だ。ただし、2人が直接対峙するのはラストのみ。それ以前にも一度その機会が訪れそうになるが、エリザベスが天然痘にかかったために実現しなかった。それでも2人の思いは様々に交錯する。

メアリーは周囲に翻弄される。再婚をめぐるあれこれに巻き込まれる。それは当然単なる恋愛感情による結婚ではない。権力をめぐるドロドロした争いだ。イングランド側は、エリザベスの側近を再婚相手に差し向けるが、メアリーはそれを断固として拒否する。

宗教をめぐる争いもある。メアリーはカトリックだったが、スコットランドではプロテスタント勢力が勢いを増していた。彼らは女性君主は神の意に反すると、女王の存在を快く思っていなかった。そうしたこともあって内乱が起きる。イングランドはそれに加担する。そこには、メアリーと異母兄との確執も関係してくる。

やがてメアリーは自分で選んだ相手と再婚する。だが、幸せな結婚生活など望むべくもない。その後も数々の波乱が起きる。周囲では次々に陰謀が巻き起こり、彼女を翻弄する。だが、それでもメアリーは毅然として自分の意思を貫こうとする。

一方、エリザベスは跡継ぎを望む周囲の声を無視して、独身を貫く。恋人らしき側近もいるのだが、結婚はしない。生き方もメアリーと対照的で、立場的にも2人は対立関係にある。とはいえ、メアリーを常に敵視するわけではない。時には部下の強硬方針に反対することもある。そこには、メアリーに対する彼女の微妙な感情が見て取れる。そして彼女もまた周囲の人物たちの権謀術数に巻き込まれる。

同じように周囲に翻弄される2人の女王。ここから見て取れるのは、周囲で策謀を巡らせるのが男たちだということだ。これが長編デビュー作となるジョージー・ルーク監督は、男たちの策謀に巻き込まれながらも、毅然として生きようとする2人の女王に対して、明らかに共感の目を向けている。それは、今の社会にも通じるテーマと言えるだろう。女性の権利を主張する最近の世界的な潮流とも、決して無関係なドラマではないのだ。

やがてメアリーは出産する。だが、その後も様々な波乱が続き、夫は亡くなってしまう。まもなく再再婚するはめになる彼女だが……。

追い詰められたメアリーとエリザベスが対峙するクライマックスが素晴らしい。郊外の小屋のようなところで、幾重にもかけられたカーテンをくぐりながら、まるでかくれんぼうをするように会話を交わす2人。

そこから見えるのは、両者の屈折した感情だ。エリザベスにとってメアリーは、美しく、結婚して子供を産んだ全く自分とは違う人物。それに対して、複雑な思いを抱きつつ、その一方で魅了されていく。それはメアリーにとっても同様だった。2人の思いは、まさに幾重にもかけられたカーテンのよう複雑なものであり、それがこのクライマックスでぶつかり合う。

このクライマックスはもちろんだが、そこに至る過程でも、それぞれの言動や手紙のやりとりなどを通して、2人の女王の揺れ動く心理がリアルに伝わってきた。その功績は、何といってもシアーシャ・ローナンマーゴット・ロビーの演技にある。

持ち前の演技力を全開にして、波乱万丈の人生を生きたメアリーの様々な表情を演じるシアーシャ。彼女に比べて出番こそ少ないものの、要所要所でツボを押さえた演技を見せるマーゴット。どちらも譲らない熱演だ。

まあ、どちらかというとマーゴットの方が役得と言うか、クライマックスの白塗りの顔のインパクトはもちろん、おなかに布を当てて自分の妊娠姿を想像してみるあたりの巧みな心理描写なども見事な演技だった。

基本は正統派の時代劇だが、ハッとさせられる場面がいくつもあった。終盤に登場するエリザベスの刺繍画(?)や、ラストのメアリーの真紅のドレスなど、鮮やかなヴィジュアルにも魅せられる。

2人の女の屈折した関係を描き、そこに控えめながら現代も投影させた映画である。西洋の歴史に疎いオレでも楽しめた。見どころ十分だ。

 

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◆「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」(MARY QUEEN OF SCOTS)
(2018年 イギリス)(上映時間2時間4分)
監督:ジョーシー・ルーク
出演:シアーシャ・ローナンマーゴット・ロビー、ジャック・ロウデン、ジョー・アルウィンジェンマ・チャン、マーティン・コムストン、イスマエル・クルス・コルドバ、ブレンダン・コイル、イアン・ハート、エイドリアン・レスター、ジェームズ・マッカードル、デヴィッド・テナントガイ・ピアース
*TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほかにて公開中
ホームページ http://www.2queens.jp/