映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ブラック・クランズマン」

「ブラック・クランズマン」
TOHOシネマズシャンテにて。2019年3月28日(木)午後7時より鑑賞(スクリーン1/F-9)。

~黒人がKKKに潜入捜査!?スパイク・リーの社会派極上エンタメ映画

ドゥ・ザ・ライト・シング」「マルコムX」など、アメリカの黒人差別を様々な視点から告発してきたスパイク・リー監督。第71回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した「ブラック・クランズマン」(BLACKKKLANSMAN)(2018年 アメリカ)も、根底にはそうした姿勢が明確にある。だが、同時に極上のエンターティメント映画にもなっている。

黒人刑事が白人至上主義団体「KKK(クー・クラックス・クラン)」に潜入捜査した実話を描いた元刑事によるノンフィクションが原作だ。それをスパイク・リーも加えた脚本家たちが大胆にアレンジして脚色している。第91回アカデミー賞でも作品、監督など6部門にノミネートされ、脚色賞を受賞した。

ちなみに、このノンフィクションの映画化権を獲得したのは「ゲット・アウト」の監督ジョーダン・ピールだったが、「監督は自分よりもスパイク・リーの方がふさわしい」と考えて、製作に回ったという。

意表をついた形で映画が始まる。冒頭に登場するのは、映画「風と共に去りぬ」の一シーン。続いて、ある学者の差別的な言辞が描かれる。いったい、これは何を表しているのか。実は、これこそがKKKの思想的な源流なのだ。そして、ここでは黒人たちの背後にはユダヤ人がいると指摘する差別主義者の主張も披露される。これがドラマの伏線になっている。

続いてドラマが始まる。1970年代前半のアメリカ。1人の黒人青年ロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)が、コロラド州コロラドスプリングス警察署初の黒人刑事になる。だが、彼に与えられたのは資料室の仕事。しかも、そこで黒人に対する差別的な言動に直面する。

それに不満を持ったロンは配転を直訴。すると、与えられたのは黒人たちの集会への潜入捜査だった。仕事で参加したものの、カリスマ指導者クワメ・トゥーレの演説を目の当たりにしたロンは、思わず共感してこぶしを掲げる。そして、そこで集会を組織した学生たちのリーダーの女子学生パトリスと出会う。

まもなく、ロンはたまたま見かけたKKKのメンバー募集の新聞広告を見つけ、自ら電話を掛ける。いかにも自分が黒人差別主義者の白人であることを装って話すのだ。すると電話の相手の支部代表は、すっかりそれを信じ込んでしまう。とはいえ、黒人のロンが彼らに会いに行くわけにはいかない。そこで、ロンは同僚の白人刑事フリップ・ジマーマン(アダム・ドライヴァー)に協力を依頼する。こうして黒人のロンと白人のフリップがコンビを組み、潜入捜査が開始される……。

スパイク・リーの映画だけにメッセージ性は明確だ。同時に、様々なお楽しみの要素が詰まっている。まずは歌と踊り。これまでのリー作品と同様にご機嫌の音楽が奏でられ、ロンやパトリスたちのダンスが披露される。

そして笑い。KKKのメンバーたちとロンとの電話のやりとりが最高に面白い。彼らは黒人のロンを黒人差別主義者の白人であると信じて疑わない。「黒人は話し方でわかるんだ。あんたは絶対に白人だ」とまで言い切るのだ。何という皮肉! ロンがフリップたちに黒人独特の話し方をレクチャーするシーンなども笑える。

何せ潜入捜査もののドラマだけに、ハラハラドキドキのスリルもある。ロンとフリップのコンビによる潜入はかなり危険なもの。何度も身分がバレそうになる。しかもKKKのメンバーたちは黒人だけでなく、ユダヤ人も嫌っている。替え玉の警察官というだけでなくユダヤ人でもあるフリップだけに、ますます危険を背負っているわけだ。

ラブロマンスもある。ロンとパトリスの恋愛模様だ。ただし、ロンはパトリスに警官の身分を隠している。黒人たちにとって、警官とは差別丸出しの敵ともいえる存在だ。それだけに、簡単に身分を明かせなかったのだ。それが2人のロマンスを一筋縄ではいかないものにする。同時に、自分が黒人でありながら、警察の一員であることに対するロンの葛藤も見えてくる。

というわけで、エンタメとしての面白さが詰まった映画なのだが、当然ながら差別の実態も突きつけられる。例えば、KKKのメンバーたちが射撃訓練をする場面。そこで標的にされるのは黒人たちの姿をした的だ。それを目撃したロンの心中が察せられる。

KKKの本部のリーダーが地元を訪れるところで、ドラマは大きな転機を迎える。そこに地元のKKKのメンバーによる恐ろしい策略が絡んでくる。彼らは表向き非暴力をうたっていたが、一部のメンバーはそれを無視して、過激な行動を起こそうとしていたのだ。

そこを起点に転がるクライマックスは、実にスリリングなものである。KKKたちによる集会と、黒人たちによる集会を交互に映し出す。KKKの集会では、彼らが愛する「国民の復活」という映画が上映される。冒頭の「風と共に去りぬ」以外にも、当時の黒人映画などの話が飛び出す点で、本作には映画史を振り返る要素もある。

一方、黒人たちの集会では、長老がかつて目撃したおぞましい虐殺事件を語る。演じるのはベテラン有名歌手のハリー・ベラフォンテ。この起用も心憎い。2つの集会が交錯して緊迫感がどんどん高まっていく。おまけに、そこでロンはなぜかKKKの幹部の警備を担当し、フリップは自分の身分が露見する最大の危機を迎える。

ここまででも十分に面白いのだが、ラストもこれまた破格の面白さだ。詳しくはネタバレになるので避けるが、ある大きな出来事が起こった後に、観客がやきもきしていたある人物の安否を明らかにし、さらに潜入捜査の行く末を示す。そればかりか、その後にはまたまた大笑いの場面も用意される。ホッコリさせたり、シビアさを見せつけたり、笑わせたり。何だ? この凄まじいサービス精神は。

とはいえ、そこはスパイク・リー。最後にきっちり社会的メッセージを伝える。2017年に起きた白人至上主義団体と差別反対派の衝突。それをについて「双方に非がある」と発言したトランプ大統領の映像などだ。そこでは、トランプの「アメリカ・ファースト」がKKKの主張と同じであることも暴露される。

このラストについて、映画としてバランスが悪く不要だという意見もあるらしい。だが、これなくして、何のスパイク・リー映画か。お楽しみテンコ盛りのエンタメ性とメッセージ性が見事に融合した極上の映画だと思う。

主演のロン役のジョン・デヴィッド・ワシントンは、あのデンゼル・ワシントンの息子。父ちゃんとはタイプが違うが、実に良い味を出していた。そして相棒役のアダム・ドライヴァー(「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」「パターソン」「沈黙」など)が相変わらず存在感たっぷり。「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」でダメっぷりを見せつけたポール・ウォルター・ハウザーなど、KKKのメンバーたちも個性的で面白かった。

本作は、アカデミー賞作品賞を受賞した「グリーンブック」と何かと比較されるが、両者は全くタイプが違う。比べることはできないのだ。どちらも黒人差別を描いた素晴らしい映画である。

 

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◆「ブラック・クランズマン」(BLACKKKLANSMAN)
(2018年 アメリカ)(上映時間2時間8分)
監督:スパイク・リー
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライヴァー、ローラ・ハリアートファー・グレイス、コーリー・ホーキンズ、ライアン・エッゴールド、ヤスペル・ペーコネン、アシュリー・アトキンソン、ポール・ウォルター・ハウザー
*TOHOシネマズシャンテほかにて公開中
ホームページ http://bkm-movie.jp/