映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「美人が婚活してみたら」

「美人が婚活してみたら」
シネマカリテにて。2019年3月30日(土)午後12時35分より鑑賞(シアター1/A-8)。

~波乱の婚活劇を通して自分を見つけるヒロイン

松岡茉優主演、大九明子監督による「勝手にふるえてろ」は、オレにとって2017年の日本映画の上位にランクされる快作だった。ハジケたつくりながら、主人公の女の子の心理がリアルに伝わってきて、とても後味の良い作品だった。

その大九監督が、同名コミックスを映画化したのが「美人が婚活してみたら」(2018年 日本)。吉本興業と各テレビ局のコラボで映画を製作する沖縄国際映画祭の企画「TV DIRECTOR'S MOVIE」の1本としてテレビ朝日との共同で製作された作品とのこと。

勝手にふるえてろ」は大九監督自身による脚本だったが、今回はお笑いコンビ「シソンヌ」のじろうが脚本を手がけている。タイトル通り美人の婚活を描いたドラマだが、そこは大九監督。ただの婚活ドラマでは終わらない。

主人公は32歳のWEBデザイナーのタカコ(黒川芽以)。彼女が婚活を始めるきっかけが面白い。冒頭に登場するのは、公園ののどかな光景。そこにタカコが現れる。ベンチに座ると隣には犬を連れた男。タカコはその犬にポップコーンを与えてみる。だが、犬は見向きもしない。

そこで今度は鳩にポップコーンを与えてみる。すると、鳩は次々にそれを口にする。だが、次の瞬間、子供がやってきて鳩を蹴散らす。そこで、タカコはつぶやく。「死にたい……」。

いや、別にタカコは公園での出来事のみで、死にたくなったわけではない。その背景には過去の恋愛経験がある。親友のケイコ(臼田あさ美)との会話を通して、タカコは3回も不倫を続けていたことが明らかになる。望んで不倫をしていたのではない。独身だと思ってつきあった相手が、いずれも既婚者だったのだ。ケイコはタカコに言う。「アンタは美人過ぎて独身男にとって高嶺の花。その代わり、既婚者が火遊びしたくなるタイプ」だと。

ケイコはタカコに「何かやりたいことはないのか」と聞く。すると、彼女は思わず言うのだ。「結婚したい」。こうして婚活サイトに登録したタカコの恋愛模様が描かれる。

勝手にふるえてろ」と同様に、笑いがたくさんある映画だ。最初はタカコの婚活相手のユニークな言動で笑わせる。変なブレスレット芸を披露するレイザーラモンRG扮する久保田をはじめ、どれも強烈な個性の持ち主ばかり。それ以外にも、様々なネタを繰り出して観客を笑いの渦に巻き込んでいく。

それでもようやくタカコは1人の男と出会う。超マジメでお人好しの園木(中村倫也)だ。このキャラの見せ方も面白い。園木はいつもシャツをズボンからはみ出させている。タカコの美しさに気後れして、わざと歩幅を合わせないようにする。見るからにいい人なのだ。ただし、どう見ても女性にモテるタイプではない。

そんな中、タカコはシングルズバーでイケメンの歯科医・矢田部(田中圭)と知り合う。彼は典型的なプレイボーイ。バツイチであることも、後で明らかになる。

タカコはこの2人の間で揺れる。結婚を視野に入れるなら、誰が見ても選ぶのは園木だろう。矢田部は結婚など考えていないのが見え見えだ。だが、それにもかかわらずタカコは矢田部と関係を持ってしまう。そして、激しい自己嫌悪に陥る。

勝手にふるえてろ」でもそうだったが、大九監督はこのあたりの女性の心理描写が抜群にうまい。おっさんのオレにも、タカコの心理がリアルに伝わってくる。タカコの行動を「バカだなぁ~」と思いつつ、「そういうこともあるんだろうなぁ~」と一方で納得もしてしまうのだ。それが単なるラブ・コメを超えた深みをドラマに生み出している。

終盤ではタカコとケイコとのバトルも用意されている。ケイコは既婚者で自身の結婚生活に悩んでいた。そのこともあって、タカコが結婚というものについてきちんと考えていないように思えて苛立ち、説教をしてしまう。そして2人は大げんかをする。

はたしてタカコは、ドツボにはまった末にどんな選択をするのだろうか。詳細は伏せるが、最後に用意されたのは、ありのままに自分らしく生きて行こうとするタカコの決意だ。周囲の人々や男どもに何かを決められるのではなく、自分というものを貫こうとするのだ。

それを象徴するのが、寿司屋での彼女の行動だ。自分が食べたいスタイルで寿司を食べる彼女の幸福そうな表情が素晴らしい。もちろん、その隣に男はいない。

そして、ケイコとの友情にも落とし前がつけられる。そのケイコ自身の生き方にも変化が訪れる。

ラストで、タカコが楽しげに歩きながら口ずさむ歌が味わい深い。ミュージカル的な雰囲気も感じさせる。心地よい余韻が残るエンディングだった。

前作で松岡茉優をキラキラと輝かせた大九監督。今回は黒川芽以を輝かせている。もともと年齢の割にキャリアが豊富で、最近とみに演技力に磨きがかかっている彼女だが、今回はそれをいかんなく発揮している。ケイコ役の臼田あさ美ともども、見事な演技だった。

婚活ドラマとしてスタートしながら、着地点ではタカコという女性の成長と友情物語をクッキリと刻む。ハジケた作風ながら、リアルに地に足の着いたドラマになっているところが、「勝手にふるえてろ」と同様に見事な手腕の大九監督である。同世代の女性はもちろん、それ以外の人も楽しめて、共感できる映画だと思う。

 

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◆「美人が婚活してみたら」
(2018年 日本)(上映時間1時間30分)
監督:大九明子
出演:黒川芽以臼田あさ美中村倫也田中圭村杉蝉之介レイザーラモンRG市川しんぺー萩原利久矢部太郎平田敦子、成河
*シネマカリテほかにて全国公開中
ホームページ http://bijikon.official-movie.com/