映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「記者たち 衝撃と畏怖の真実」

「記者たち 衝撃と畏怖の真実」
TOHOシネマズ シャンテにて。2019年4月27日(土)午後12時50分より鑑賞(スクリーン2/C-11)。

イラク戦争に隠された真実を暴いた記者たちの実録ドラマ

9.11同時多発テロをきっかけに、アメリカは首謀者のビンラディンを捕まえるべく必死になった。ところが、なかなかその行方はわからず、代わりになぜかイラクサダム・フセイン政権が標的にされる。その大きな理由が、イラクが「大量破壊兵器」を持っているというものだった。そこに隠された真実を求めて奮闘した記者たちを描いた実録ドラマが、「記者たち 衝撃と畏怖の真実」(SHOCK AND AWE)(2017年 アメリカ)である。

監督はロブ・ライナー。1986年の出世作スタンド・バイ・ミー」をはじめ、「恋人たちの予感」「ミザリー」「ア・フュー・グッドメン」など様々なタイプの映画を撮ってきたライナー監督だが、本作のようなガチガチの社会派ドラマは過去にはなかったはず。それだけ彼の思いがこもった映画といえるだろう。

舞台となるのは新聞社。ただし、ニューヨーク・タイムズワシントン・ポストといった大手新聞社ではない。地方新聞31社を傘下に持つナイト・リッダー社だ。記者たちが書いた記事は、傘下の地方新聞に掲載される(ただし、新聞ごとに方針があり、必ず載るわけではないようだ)。

映画は議会の公聴会の場面から始まる。車椅子の元軍人がそこで証言する。彼はイラクの戦場で負傷し、車椅子生活になったという。そして、いくつかの数字を示して、イラク戦争の実態を証言する。そこからドラマはイラク戦争前へとさかのぼる。

2002年、ナイト・リッダーのワシントン支局長ジョン・ウォルコットロブ・ライナー監督が自ら演じる)は、ジョージ・W・ブッシュ政権が、イラクへの攻撃を計画しているという情報をつかむ。だが、9.11同時多発テロを起こしたテロ組織とイラクにつながりがあるというのは、どう考えても信じられないことだった。ウォルコットは部下の記者のジョナサン・ランデー(ウディ・ハレルソン)とウォーレン・ストロベル(ジェームズ・マースデン)に取材を命じる。

すると、やはり、それはどう考えても無理筋の話だった。だが、それでもブッシュ政権イラク攻撃へと突き進もうとする。その大きな理由が「大量破壊兵器」の保持。そこで、記者たちは、今度はそれが真実なのかどうかを追求する。そこには、ウォルコットに乞われて取材に参加した元従軍記者でジャーナリストのジョー・ギャロウェイ(トミー・リー・ジョーンズ)もいる。

社会派映画とはいっても、小難しい映画にしていないのはさすがにライナー監督である。そこかしこに見せる工夫があり、劇的な展開がないにもかかわらず最後まで飽きることはない。その中でも、特に興味深いのが記者たちの取材過程だ。大新聞などとは違ったニュースソースを持つ彼らは、あの手この手で関係者に接触し、ほんのわずかな情報でもつかみ取ろうとする。その硬軟取り混ぜた取材風景が素直に面白い。

そして個性派の記者たちの言動も面白い。いずれの記者も情熱に満ちあふれ、正義を貫こうとする。ブッシュ政権と結託して戦争を仕掛けようとするイラクの反体制派リーダーに対して記者がタンカを切る場面は、実に痛快なシーンだ。その一方で、彼らは常にユーモアを忘れず、人間味あふれる行動を取る。そこから、彼らの家族や恋人とのドラマも生まれる。そして、同時に記者たちにも深い苦悩がある。

記者たちにとって最大の苦悩は、自分たちの突き止めた真実と現実に起ころうとしていることのギャップである。記者たちの取材の結果、大量破壊兵器の証拠は見つからなかった。やがて、彼らはそれが政府の捏造である事を突き止める。にもかかわらず、戦争へ向かう動きはますます加速する。大新聞も政府発表をそのまま報道し、愛国心が高まる中で大半の議員も国民も戦争開始を支持する。ナイト・リッダーの記者たちは孤立してしまうのだ。そこが何ともやるせない。

ブッシュ大統領をはじめ、政府高官などが登場する当時の映像も効果的に使われ、戦争に突き進む当時のアメリカの状況の恐さと、それに抗うことの困難さを映し出すライナー監督。だが、それでもナイト・リッダーの記者たちの行動がけっして無駄ではなかったことを最後に示す。

冒頭の元兵士の数字の話を受けて、ラストも数字の話が飛び出す。これまたイラク戦争がいかにヒドい戦争だったかを示す数字だ。そして、何よりも大量破壊兵器は「0」だったのだ。それが明らかになったことにより、政府報道を垂れ流した大新聞は謝罪する。ナイト・リッダーの記者たちが報道したことは、間違いなく真実だったことが証明される。

映画の最後には、実際の記者たちが登場し、これがまぎれもなく真実の物語であることをダメ押しする。本作はジャーナリズムのあり方を問う映画であるのと同時に、それを取り巻く政治や世論の本質に迫る映画でもある。

さらにロブ・ライナー監督が今この映画を作ったのは、自分の意に沿わない報道機関を罵倒するトランプ大統領の存在があったのではないだろうか。そういう意味でも、今のこの時代に重要な意味を持つ作品だと思う。もちろん、それは日本とも無関係ではないはずだ。

◆「記者たち 衝撃と畏怖の真実」(SHOCK AND AWE)
(2017年 アメリカ)(上映時間1時間31分)
監督:ロブ・ライナー
出演:ウディ・ハレルソンジェームズ・マースデンロブ・ライナージェシカ・ビールミラ・ジョヴォヴィッチトミー・リー・ジョーンズ、ルーク・テニー、リチャード・シフ
*TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中
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