映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ダンスウィズミー」

「ダンスウィズミー」
グランドシネマサンシャインにて。2019年8月21日(水)午後12時25分より鑑賞(シアター9/C-11)。

~催眠術でミュージカルスター!?矢口史靖監督によるミュージカル・コメディ

新たな映画館に足を踏み入れた。東京・池袋のグランドシネマサンシャインである。シネコンが今ほど林立していない時代から、池袋の地でシネマサンシャイン池袋というシネコンの走りのような映画館を営業してきた佐々木興業が、ほど近い場所に新たにオープンしたシネコンだ(これに伴い既存のシネマサンシャイン池袋は閉館)。

スクリーン数は12。IMAXや4DXなどの最新テクノロジーを駆使したスクリーンもある。とはいえ、個人的に一番興味を引かれたのは、エスカレーター脇などの名画ポスターギャラリー。古今東西の名作映画140作品のポスターコレクションが展示されている。映画好きなら垂涎ものの展示である。

さて、そんな初のグランドシネマサンシャイン体験で鑑賞したのは、「ダンスウィズミー」(2019年 日本)。「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」「ハッピーフライト」などの矢口史靖監督によるミュージカル・コメディだ。

最近の矢口監督といえば、厳しい状況にある林業をテーマにした「WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~」や、明らかに東日本大震災を意識したと思われる「サバイバルファミリー」といった作品があるが、基本的にはそれらも含めて楽しく笑えるエンタメ映画を得意とする監督。今回も無条件に楽しめる映画だ。

映画の冒頭、ある催眠術師によるテレビショーが登場する。歌って踊って、どことなくいかがわしい感じのする催眠術師の名前はマーチン上田(宝田明)。彼こそが、このドラマの鍵になる人物である。

続いて登場するのは、一流商社で働くOLの静香(三吉彩花)。ある日、彼女は姪っ子と訪れた遊園地で怪しげな催眠術師から、音楽を聞くと歌って踊らずにはいられない催眠術をかけられてしまう。まるでミュージカルスターのように。

それ以来、所かまわず歌ったり踊ってしまうようになった静香。大事な会議の途中やデートの途中でも音楽が鳴ればもう駄目だ。困ってしまった静香は、催眠術を解いてもらおうと再び催眠術師のもとを訪れる。だが、すでに彼の姿はなく、借金取りが押しかけていた。

そう。この催眠術師こそがマーチン上田である。途方に暮れた静香は、マーチン上田のサクラをしていた千絵(やしろ優)とともにマーチン上田の行方を捜すのだが……。

いかにも矢口監督らしい作品だ。過去の矢口作品をほとんど観ている者にとって、既視感があるのは否めないし、笑いのテイストもほぼ予想通りだが、逆に言えばそれだけ安心して楽しめる作品とも言えるだろう。

特に後半に繰り広げられるロードムービーは、なかなかに楽しい。静香と千絵のコンビネーションが抜群で、珍道中の中から次々に笑いが生まれてくる。途中で男に捨てられたストリートミュージシャンの山本洋子(chay)が絡むあたりからは、ますます面白さが加速していく。どうにも怪しい興信所の男・渡辺(ムロツヨシ)などの存在も彩りを加える。こうした後半の展開は矢口監督の真骨頂だろう。

実は静香には幼少時のトラウマがあり、催眠術師探しの旅がトラウマ克服と、自分探しの旅につながる……というあたりも、さりげない人間ドラマとしてそつなくまとめられていると思う。

その反面、ミュージカル的な興趣は後半は減速していく。前半は静香が同僚たちとともに派手に歌い踊るなど、いかにもミュージカル的な華やかな場面が何度か登場するのだが、後半はそうした場面があまり出てこない。静香や千絵が歌う場面こそあるものの、とてもミュージカルのような華やさはない。

まあ、催眠術にかかっているのは静香だけだから、そう簡単にド派手なミュージカルシーンを出すのは難しいだろうが、それにしてももう少しハジけてもよかったのでは? そもそも「催眠術にかかって歌って踊る」などという設定自体がリアリティのないものなのだから、もっと飛躍や誇張を詰め込んで大胆にぶっ飛んでも良かった気がするのだが。

それでもクライマックスのショーの場面は大いに盛り上がる。華やかに歌って踊ってまさにミュージカル! 当然ながら、様々なネタで笑わせることも忘れない。

「タイムマシンにお願い」に乗せて歌って踊る楽しいエンディングも、観客をハッピーな気持ちにさせてくれるはずだ。

ミュージカル・コメディとうたってはいるものの、ミュージカル的な魅力はやや期待外れだった。その代わり、コメディに関して言えば、いつもの矢口作品同様に無条件に楽しめる作品に仕上がっていると思う。

何よりも、この映画の最大の魅力は役者たちかもしれない。主演の静香役の三吉彩花は、2012年の「グッモーエビアン!」などで注目してはいたが、今回は本格的な歌や踊りを披露するとともにコメディエンヌぶりをいかんなく発揮していた。その成長ぶりを実感。

そんな彼女と珍道中を繰り広げる千絵役のやしろ優、山本洋子役のchayなども、いかにもコメディ映画らしい大仰な演技が笑いを誘う。インチキ催眠術師役にミュージカル界の超ベテランスター俳優・宝田明を配するなど、ベテラン俳優たちの使い方も心憎い。

 

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◆「ダンスウィズミー」
(2019年 日本)(上映時間1時間43分)
原作・監督・脚本:矢口史靖
出演:三吉彩花やしろ優、chay、三浦貴大ムロツヨシ宝田明
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ http://wwws.warnerbros.co.jp/dancewithm