「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」
シネクイントにて。2019年9月22日(日)午後3時10分より鑑賞(スクリーン2/C-6)。
~イタいけれど愛おしい「中2病」の少女の心理をリアルに見せる
「中2病」なるものが存在するらしい。中学2年生頃の思春期に見られる、過剰な自意識やそれに基づく言動。つまり、自分しか見えていない状態を指すのだろう。そう言われれば、自分にもそんな時期があったような気もしないではない。
そんな「中2病」があるのは日本だけではないようだ。青春映画「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」(EIGHTH GRADE)(2018年 アメリカ)は、まさにアメリカの「中2病」の少女のドラマである。
原題の「EIGHTH GRADE」とは8年生のこと。日本では中2にあたるが、日本とは学制が異なり、8年生で卒業して次は高校に進学するらしい。主人公のケイラ(エルシー・フィッシャー)は、その8年生。中学校生活最後の1週間を迎えている。
彼女はシングルファーザーの父親マーク(ジョシュ・ハミルトン)と2人で暮らしている。父はとても優しいが、当然ながら娘のことが心配でついあれこれ口出ししてしまう。それがケイラは気に入らない。
そんなケイラは動画を配信している。同世代の子に向けた人生のアドバイスだ。「ほんとの自分でいなさい」「思い切って一歩踏み出せ」などなど・・・。邦題にあるように、それを実践すれば「クールな私」になれるというわけだ。だが、視聴回数はごくわずか。それどころか、いかにもイケてるように見える彼女だが、学校での彼女は正反対なのだ。
不器用で気弱なケイラには友達もいない。学校でほとんど口をきくこともない。その結果、生徒の投票によって決定される“クラスで最も無口な子”に選ばれてしまう。
そんな自分を変えようと試みるケイラ。だが、クラスのイケてる女子からプール・パーティーに誘われ、父に勧められて参加するものの、気後れしてみんなと溶け込むことができない。あこがれの男子に話しかけられても会話がうまく続かない。
何とかしなければと焦れば焦るほど、ドツボにはまっていくケイラ。そんな空回りぶりが次々に笑いを生み出していく。全編に笑いが散りばめられたコメディ・タッチの映画だ。しかし、それは同時にかなりイタいことでもある。
ケイラと同じような年頃に、同じような経験をした人も多いのではないだろうか。そんな人にとっては、とても他人事とは思えないはず。この映画はただのコメディ映画ではなく、あまりにもリアルな青春ドラマでもあるのだ。
とにかくケイラの心理描写が絶品だ。今の自分にサヨナラしたいけれど、なかなかそれができない。子供っぽさが抜けないのに、精いっぱい背伸びして失敗する(性的なことも含めて)。そんなケイラの不安、焦り、ジレンマを実にリアルに描いていく。観ているうちに、まるで自分がケイラになったかのような気持ちになってしまうのである。
主演のエルシー・フィッシャーが素晴らしい。ニキビだらけの顔で、いかにもあの年頃の女の子らしい感情の揺れを繊細に表現する。幼さと大人っぽさ、可愛らしさとイタさを巧みにブレンドした見事な演技だった。新星誕生か!?
監督はYouTuber出身の人気コメディアンで、「ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ」などで俳優としても活躍するボー・バーナム。おそらく自身の経験も投影しているのだろう。監督デビュー作とは思えない巧みな脚本・演出だ。ケイラに寄り添いすぎず、突き放し過ぎず、絶妙の距離感で描いたところに妙味がある。音楽や音の使い方も効果的だ。
ケイラにとっての転機は、高校の体験一日入学。そこで先輩の高校生の女子と知り合い、彼女を介して高校生たちの生活を垣間見る。そこでも背伸びをして失敗したりするものの、中学とは違う新しい世界があることを実感する。
ちなみに、そこで父のマークの行動が爆笑を生む。このお父さん、実に良い人なのだ。娘のことが心配でしょうがないのだが、出しゃばっちゃダメだと自重しつつ、それでも自分を抑えられない。そんな父親をジョシュ・ハミルトンが好演している。
終盤、ケイラはありのままの自分を受け入れていく。そこでは、かつてのケイラが未来の自分に向けて送った動画メッセージが効果的に使われる。たとえ予想した未来とは違っても、それもまた良いではないか。なりたい自分にはなれなくても、それを受け入れることが大切だ。そんなバーナム監督のメッセージが伝わってきた。
そして、どんなにイケてなくてもつまずいても、そばで見守ってくれる人がいることをケイラは再認識する。そこでの愛にあふれた抱擁には、思わず涙しそうになってしまった。このあたりの感動の誘い込み方も、心憎いほどに巧みである。
ラストにも、ケイラの成長を示すエピソードが、ごく自然に綴られている。何ともほほえましく、爽やかなエンディングだった。
このドラマはリアルなティーンのドラマだ。ケイラたちがSNS漬けになっている姿なども含めて、今の時代ならではのドラマといえる。だが、リアルなティーンだけのための映画ではない。若者はもちろんだが、かつてあの時代を過ごした大人たちも昔を思い出して心を揺さぶられることだろう。
アメリカでは当初4館から公開がスタートして、わずか3週間で1084館に拡大したという。それも納得の作品だ。イタいけれど何とも愛おしい青春映画の秀作である。
◆「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」(EIGHTH GRADE)
(2018年 アメリカ)(上映時間1時間33分)
監督・脚本:ボー・バーナム
出演:エルシー・フィッシャー、ジョシュ・ハミルトン、エミリー・ロビンソン、ダニエル・ゾルガードリ、ジェイク・ライアン、ルーク・プラエル、フレッド・ヘッキンジャー、イマニ・ルイス、グレッグ・クロウ
*ヒューマントラストシネマ有楽町、シネクイントほかにて公開中
ホームページ http://www.transformer.co.jp/m/eighthgrade/