映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋」

「ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋」
池袋シネマ・ロサにて。2020年1月13日(月)午後12時25分より鑑賞(CINEMA ROSA 2/E-10)。

~セレブ女性とダメ男、今のアメリカならではのラブ・コメ

セレブ男と身分不相応な女性とのラブ・コメとくれば、「プリティ・ウーマン」をはじめ数々の作品がある。一方、スター女優と本屋の店主の恋を描いた「ノッティングヒルの恋人」のように、男性が高嶺の花の女性に恋をするラブ・コメもある。

「ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋」(LONG SHOT)(2019年 アメリカ)は、後者に属するドラマといえる。ただし、女性はアメリカ大統領を狙う国務長官で、男性は失業中のジャーナリスト。これほど身分違いの恋はそうはないだろう。

いきなりネオナチの集会から映画が始まる。そこに潜入取材しているのが、ニューヨークのジャーナリストのフレッド・フラスキー(セス・ローゲン)だ。だが、あっさり身分がバレてしまう。必死で窓から飛び降りて脱出するフレッド。

まもなくフレッドは、勤務先の新聞社が高名なメディア王に買収されたことに立腹して、勢い余って退職してしまう。こうして彼は失業してしまう。

そんな中、親友で実業家のランス(オシェア・ジャクソンJr.)からパーティーへ連れ出されたフレッドは、そこで国務長官で次期大統領選への出馬も狙うシャーロット・フィールド(シャーリーズ・セロン)に出会う。実は、シャーロットは学生時代にフレッドのベビーシッターをしており(ベビーと言っても12~13歳だったようだが)、フレッドにとってシャーロットは初恋相手だった。

そんなこともあって、フレッドの書いた記事を評価したシャーロットは、フレッドにスピーチライターになるよう依頼する。戸惑いつつも、失業中の身ゆえ依頼を受けるフレッドだったが……。

というわけで、このシャーロットとフレディのラブロマンスを、たっぷりの笑いとともに描いたのが本作である。才色兼備のシャーロット、失業中で格好もダサダサ、性格もひねくれまくっているフレディ。現実に、こんなカップルはめったにいそうもないが、それはそれ。なかなかハジけた作品になっている。

この映画の大きな特徴は、現在のアメリカ社会を背景に取り込んでいるところ。無能な大統領はトランプを連想させるし、セクハラを平気で垂れ流すテレビ番組、メディアの買収劇なども、いかにも現実にありそうな話が続々と出てくる。

そして極めつけは、地球温暖化をめぐる話。シャーロットは国務長官として画期的な温暖化対策の協定をまとめ、世界をめぐって各国の同意を取り付ける。だが、右派メディア王と結託した大統領は、それを骨抜きにしようとする。これも現実を連想させる出来事。まさに、今のアメリカならではのラブ・コメなのだ。

終盤で、ランスが共和党員だったことをめぐって、フレッドとの間にいさかいが起こるあたりも、現在のアメリカの分断状況を示していると言えそうだ。

とはいえ、基本は王道のラブ・コメである。世界を旅するシャーロット、それに同行してスピーチを書くフレッド。対照的な2人ゆえに何度かぶつかり合いながらも、2人は次第に距離を縮めていく。その途中では、突然外国の反政府勢力の攻撃を受けたりするハプニングもある。

笑いはかなりシニカルだ。なにせフレッドがひねくれものだけに、皮肉だらけの笑いが炸裂する。無能な大統領に加え、強引なメディア王、笑顔が気持ち悪いカナダ首相など脇役も個性派ぞろいで、そこから生まれる笑いもある。

そして、下ネタも満載だ。シャーロットがSM趣味を露呈するなど、あけすけなセックスネタをはじめ、お下劣な笑いがたくさん詰まっている。とはいえ、それほど嫌な感じがしないのは、シャーロット役のシャーリーズ・セロンの演技ゆえだろうか。

それにしても、この人、「モンスター」「マッドマックス 怒りのデス・ロード」「アトミック・ブロンド」「タリーと私の秘密の時間」など作品ごとにまったく違う姿を見せてくれる。今回は特にビシッと決めたスーツ姿が実にカッコいい。その一方で、いきなりドラッグを買うためにストリート・ファッションに身を包んで街に出るシーンなどもある。「タリーと私の秘密の時間」の疲れた主婦と、同一人物が演じているとは思えないほどである。本当にすごい女優だと改めて実感させられた。

一方、フレッドを演じたセス・ローガンはコメディアン出身。「40歳の童貞男」で映画デビューを飾って以来、コメディーを中心に様々な映画、テレビドラマなどで俳優、脚本家、監督として活躍している。コメディーはお手のものだけに、今回も生き生きと演じている。

そのローガンと「50/50 フィフティ・フィフティ」「ナイト・ビフォア 俺たちのメリーハングオーバー」でタッグを組んでいるジョナサン・レヴィン監督が、本作の監督を担当している。

この手のラブ・コメは、恋の行く手に大きなハードルが立ちふさがる。本作にも当然そうした展開が用意されている。その果てに、クライマックスでシャーロットがぶつ演説が素晴らしい。まるで本物の政治家のよう。堂々たる、そして感動的なスピーチである。これこそスピーチライターではなく、彼女自身の心の叫びが込められた演説だ。

最後に用意された後日談も、ユーモラスで後味が良い。何よりも、いまだに実現していない女性のアメリカ大統領を意識した設定が印象深い。下ネタと皮肉満載のラブ・コメだが、ここには確実にアメリカの今がある。

◆「ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋」(LONG SHOT)
(2019年 アメリカ)(上映時間2時間5分)
監督:ジョナサン・レヴィン
出演:シャーリーズ・セロンセス・ローゲン、オシェア・ジャクソン・Jr、アンディ・サーキス、ジューン・ダイアン・ラファエル、ラヴィ・パテル、ボブ・オデンカークアレキサンダー・スカルスガルド
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ http://longshot-movie.jp/